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アナサマの沼地

 診療所の爺さんに、してやられたと思ったけど2人で馬車に乗ると実に楽しい。無事かどうかも判らないアリス様とタクト様の事を考えれば、浮かれてばかりもいられないが。


フレアは自分が誰なのかは思い出せないが、自分の国の事は知っていた。


隣国で東に在るキースロイ王国から西に向かって人捜しをしていたのは、まず間違いないようだ。


俺達は、街に着く度に奴隷商館に寄ることにしている。ウエリントン子爵は既に把握していると思うが、俺は少しでも手がかりが欲しいからだ。



「元貴族で幼児趣味の貴族から売られた奴隷ですか?」


「はい」


「いるには居ますが、お捜しの者とは違いますね。歳は14だし、それに……」


「それに?」


「骨がらみにかかっているのです」

「骨がらみ……」



この世界では意味嫌われる物が2つ有る。1つはどんなに腕の立つ治癒師でも治せない病気の骨がらみ。


もう1つは異形の姿で生まれてしまった者だ。


「質の悪い貴族にうつされたのでしょう。最近になって発病しまして、そろそろアナサマへ連れて行こうと思っています。とんだ出費ですよ。私もこの道30年になりますが、奴隷商としてまだまだです」


アナサマ……。


エルフ・ドワーフ・獣人は別として、ソレイユ神聖国家とハレイス帝国を除けば、大抵はゾアスタ教の信者だ。


遥か昔、骨がらみになった者と異形の者は、人知れず葬られていた。とは言え公然の秘密だったのだけれども。しかし、ある時代に事件が起こった。


密かに骨がらみや異形の者達を始末していた者達が突然、心臓が止まり次々と死に出したのだ。そればかりか縁者にまで流行り病の如く、飛び火していった。原因は全く判らなかった。


時のゾアスタ教大司教は悩んだあげく、骨がらみや異形の者の祟りとして殺すことを禁じた。不思議な事に本当にそれで治まってしまった。


そうなると困ったのは、骨がらみと異形の者の身内の者達だ。忌み嫌われる者達をずっと隠して行かなければならない。


そこで、ある貴族が金で世話役を雇い、一族の恥である骨がらみや異形の者を、こっそりと遠くの地へ追いやった。これを他の貴族が真似をして、出来上がったのが、忌み嫌われる者が住む今のアナサマの沼地と言う訳だ。


師匠はアリス様とタクト様は、アナサマの沼地に居ると読んだのか。


あの時、『お前なら大丈夫だろう』と師匠は言った……そうか、なるほど。


「俺はアナサマに行く所なので、その奴隷を連れて行ってあげましょうか?」


「おお!本当で御座いますか?……代金はいかほどでしょう?」


「馬車一台」

「お安いご用で御座います」



俺の前に連れてこられた女の子の奴隷は、自分の運命が解っているのだろう、目に力はなく焦点があっていない。粗末な衣服から見えている顔や肌は、骨がらみ特有の赤い発疹がみられる。


「では宜しくお願いします」

「お委せ下さい」


奴隷商が用意した馬車に女の子を乗せて街を出る。


骨がらみになる理由は判らないが、うつる理由はだいたい判っている。性交渉による物が圧倒的に多いのだ。


街からだいぶ離れ、人の行き来がほとんど無くなって来た所で馬車を止めた。


「ウィル、どうしたのこんな所で止めて?」


「フレア、これからの事は他言無用だ。約束してくれ」


「……解りました」


1ヶ月近くフレアと旅をしている。話し方や知識から貴族の様に思える。性格も良いし信用出来そうだ。


でも記憶が戻ったらどうかは判らない。とんでもない奴に変わる可能性もある。そうなったら悲しいけど俺は鬼になる。……女性は殺したくないけど。


「ララメリア!」


聖女が姿を現す。


「この子を治して欲しい。魔力はいくら使ってもかまわない」


「畏まりました」


ララメリアが手を翳すと、いつもの様に優しい光が女の子を包み込む。彼女の赤い発疹はスゥっと消えていった。


そう、骨がらみを治せるのは聖女様だけ。しかし、聖女様なんて長い歴史の中で滅多に現れない。今までで、たった2人だけだ。


蒼白だった女の子の顔色も、うっすらと赤くなった。どうやら健康体になったようだ。


「ありがとう、ララメリア。戻って」


ララメリアはお辞儀をして消えた。


「ウィル、……ねぇ、今の何?どういう事?骨がらみを治せる者など、この世界にはいない筈……よね」


「え~とね、それはだ、俺の秘密のスキルと言うことで、約束通り内緒ね」


「……解りました。今は聞かないであげる」


「どう?身体の具合は、治っていると思うんだけど」


「は、はい、軽くなった気がします。発疹も消えました。信じられません……」


「名前は?」

「サユリカと申しますご主人様」


「君はもう奴隷じゃ無いよ。それに、アナサマに連れて行くと言ったのは、スキルを試してみたいと言うのもあったんだ」


「ですが私を引き取って下さり、病気も治して下さいました。感謝してもしきれません、一生お仕え致します」


「いや、そう言うつもりではないのだけど」

「ウィル、ここまでして、ほっぽり出すの?」


「うっ、診療所の爺さんみたいな事を言う……解った、縁が有るのであれば一緒に行こう」


「ありがとう御座います」



サユリカのお陰で、ほとんど変わらなかった食事が豊かになり美味しくなった、料理上手で本当に助かる。


夜は、時空間魔法で造った亜空間の中にいるので安全なのだが、道中は盗賊に襲われる事が多い気がする。今月に入って、もう5回目だ。護衛がいないせいかもしれないが。


……そう言えばフレアが襲われた時、盗賊のあの人数は異常だった。乗客はフレア1人で、お宝を積んでいたわけでもない。


今度襲われたら、1人は生かしておいて尋問してみるか?




いつも読んでくださりありがとう御座います。


面白いと感じられましたら、下段に有ります評価の☆星やブックマークを付けて貰えると嬉しいです。



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