復讐者
★☆☆☆☆☆★
長かった。ここまで来るのに十数年、とうとう私の夢である復讐が叶うのだ。
ガレキーニ伯爵、貴様だけは……いや、お前の一族全に未来は無い。領地を貰って浮かれているがいい、じっくりと恐怖を味あわせ、この街を潰したら次は王都に攻め行って腐ったこの国を滅ぼしてくれる。
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ハイザ達に会ってから、悪目立ちしないように力を抑えて依頼をこなし、俺はDランクになった。
今日も東の山で発見された、オークの集落を壊滅して皆とギルドに戻って来た。
「皆さん、お疲れ様でした」
可愛い受付嬢のルリさんに出迎えられて、皆がニコニコしている。
依頼料を貰うまで、休憩室や食堂で冒険者達は時間を潰す。
俺も休憩室の椅子に腰掛け、備え付けの魔道具で冷やされたハーブティーを飲んでいると仲良くなったサージさんも来た。
「あ~、落ち着く」
「全くだ、後半は結構しんどかったぜ」
「ええ、意外と広かったですもんね」
「皆さ~ん、用意が出来ましたよ」
「おっ、やっとか。命の洗濯しに娼館にでも行くか、ウィルもどうだ?」
「行きたいのですがやる事が有って」
「じゃ、今度な」
「はい」
報酬をもらい出入り口を見ると慌てた様子の男の姿とその人を囲む様に何人かの冒険者の人達が見える、嫌な予感がした。
「た、大変だ魔物の群が街に向かって来る」
「何!スタンピードか?」
「そうでは無いらしい。急に西の草原に現れたそうだ。それ見た商隊の人が馬を飛ばして来たらしいぞ」
「偉いことになった」
直ぐにギルドマスターの指示で冒険者達が集められた。
「今、様子を見に行って貰っている。詳しい事が判り次第出るのでそのつもりでいてくれ」
「「「はい」」」
続々とSやAクラスの人達も集まってきた。リリアさん達の姿も見える。
大会議室に息をきらして男が入って来た。
「ギ、ギルドマスター」
「戻ったかグァバス、どうだ?」
「かなり不味いぞ」
「話してくれ」
「オークとオーガが合わせて400程度」
「た、大したこと無いじゃん」
「まだ続きが有るんだろ?」
「ああ、ビックブルが100、アイアンゴーレム50……キマイラが5頭だ」
「キマイラ……」
「何でそんな奴が……だいたい何で急に現れたんだよ」
「影で操っている相当な実力者がいるんだろうよ」
「……それだけの数を転移させて来たって事か?」
「そうとしか考えられん」
「信じられない」
「目的は解らんが街に入れるわけにはいかん。森を出たところを急襲する。SランクとAランクはアイアンゴーレムとキマイラを目標にしてくれ」
「了解」
「ルリ。すまんが、この手紙を領主様に届けてくれ」
「分かりました」
「さあ、行くぞみんな」
「「「「おお~!」」」」
俺にとってもでかい戦いなので、武者震いがする。リリアさんに、カッコいいところをみせれるかもしれないしね。
森に近づくにつれ地響きが大きくなってくる。魔物の群が出てくるのはもうすぐだろう。森から一定の距離をとって皆が布陣をしいた。
オークやオーガを分散させ、クラスの高い人達を奥に進ませるのが俺達低ランクの役割だ。
「来た」
「行くぞ」
魔法を使える人達が広域魔法を撃って先制する。出てきたオークとオーガ達は豪快に吹っ飛ぶ。
転がっている屍を越えて魔物の群が森から次から次えと現れる。俺達に気づき剣を振り上げ迫る。長い戦いの始まりだ。
俺は師匠に教わった魔法を取得する度に、指定されたダンジョンの階層に行って魔物を倒して来る様に言われて実行してきた。
地下65階にいるマンティコアを倒した時に得た宝箱に入っていたのが、今手にしているラベジソードだ。普段は鉄剣を使っているが、この戦いならば使ってもいいだろう。
ラベジソードは切れ味抜群だ。しかも猛毒・麻痺・石化のランダム効果付きなので、かすっただけでも相手は倒れてくれる。
俺以外は、ほとんどパーティーで行動しているので、ランクが低くてもオーガどもに負けてはいない。仲間がいるっていうのは少し羨ましくなった。
俺達の頑張りが功を奏し、魔物の群の隙間をSとAランクのパーティーが突っ込んで行った。
後はビックブルの群が出てくる前に、出来るだけオーガ達を倒しておきたい所だ。
俺の横をリリアさんのパーティーが駆けて行った。
聞こえた話しでは、猫族のシャーナさんが森の左端に強い魔力を感じたみたいだ。この事件の犯人だと考えたらしい。
でも、ギルドマスターの話しだと相当な実力者だって言ってたでしょ。大丈夫?俺は思わず後を追った。走りながら、探索魔法のサーチを使う。
確かに不自然に森の左端に2つだけポツンと気配が有るが……気を付けた方がいい。
リリアさん達"沈黙の旋風"の人達の足は速い、俺も魔法学院でサボらず鍛えておけば……まてまて違う、補助魔法の身体強化と昇速をかける。
しかし距離は縮まらず、リリアさん達は森の中に入って行った。
俺が森に入る直前、大爆発が起きた。嫌な予感、急いで森に入る。
俺の目に真っ先に入って来た物は、顔は焼けただれ手足が千切れ目が潰れているリリアさん達の姿だった。
「な、何で……」
眼の端に動く影が見えた、視線をそちらに向ける。
そこには1人の男とキマイラがいた。視線が会った途端、キマイラが火炎弾を撃った。
「マジックシールド!」
火炎弾はシールドに当たって霧散する。
「よくもリリアさんを……許さん!消え失せろ、ディメンション・スラッシュ!」
キマイラの周辺の空間が歪み、キマイラは真っ二つになり歪んだ空間に吸い込まれ消えて行く。
「バカな。貴様何者だ!」
俺は男を睨みつける。睨みつける……俺の心にチクリと痛みが走る?なんだ……遠い記憶の隅にある、琥珀色の甘く切ない思い出……。
「ウエリントン子爵?」
「なぜ私の名を知っている…………」
「俺です。ウィルです」
「ウィル?……ファルガ男爵の御子息のウィル君か?」
「はい、そうです」
「……う、うう……」
リリアさん達は生きている! ウエリントン子爵なら俺を急に襲っては来ないだろう。
俺はフェイクライフを使って聖女ララメリアを創りだす。
目の前に光輝く聖女ララメリアが現れた。
「リリアさん達を治療し元に戻してくれ」
「ウィル様の魔力をかなり使用しますが宜しいでしょうか?」
「ああ、かまわない」
「畏まりました」
聖女ララメリアが手を翳すと、リリアさん達を優しい光が包み込む。そして傷がふさがって行き、欠損した箇所がゆっくりと再生されて行った。
「ウィル君、君はいったい……?」
「ウエリントン子爵、何でこんな事を?」
俺は自分が、いかに甘かったかを知る事になる。
いつも読んでくださりありがとう御座います。
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