プロローグ
父上が政敵にはめられて、男爵だった父上の廃爵が決まった。この王都パレスタからも所払いで、出て行かなければない。
「あ~、もう勘弁してくれ」
今まで好き勝手に遊んで暮らしていたのに。くそっ!
何だって言うんだ。
父上は出身地のガベラ地方のドゴスの街に戻り、余生を過ごすと言うし、母方の祖父の所ヘ母上と妹は行ってしまった。
「ウィル。皆は私に、お前を甘やかしていると言うがそれは違う、むしろ逆だ。よいか、よく考えるのだ。今まで通り女の尻を追っかけるも良し、御家再興の為に頑張るも良し、まぁ、しっかりやるのだな」
勝手な事を言って、俺に金貨50枚が入った革袋を渡し父上は王都を去った。
王都に居られるのは今日までだ、俺も出て行かなくてはならない。
取り合えず隣街に行く事にして、馬車に乗った。
王都を出るのは初めてだが、景色を観る余裕など無い。これからどうしよう……。
「盗賊だ!」
えっ、何?何が起こった。
馬車が急に止まった。外を見ると御者の1人が胸に矢をうけて街道に転がっていた。
「うっ、不味い」
馬車のドアが開き、俺は盗賊に引きずり下ろされた。
「何をするんだ」
「死ね!」
俺めがけて剣先が迫ってくる。俺はここで死ぬのか?恐怖で身体が動かない。
「グフッ」
「大丈夫かい?兄さん」
「へっ?」
俺を殺そうとした盗賊は倒れていた。俺を助けてくれたのは、馬車の護衛の人だ。
「ありがとう」
「気にしないで、仕事だから」
女の子なのに盗賊をバッタバッタと倒してる。今まで俺が付き合った事のないタイプだ。
「終わった様だな、リリア」
「ええ、片付いたわ」
リリアって、言うんだ。
それから彼女達は、テキパキと後始末を行った。こちらの被害は御者1人だった様だ。
夕方に近くなって、馬車は無事に隣街エドオリオに着いた。
どうするか決めていなかったので、気になるあの女の子の後をさりげなくついていく。彼女達は冒険者ギルドに入って行った。
冒険者ギルド……やっぱり冒険者なんだよね。まてよ……俺も冒険者になるって言うのはどうだ?
また、あの子と会えるかもしれないし、話しだって……仲好くなれるかも?
俺だって魔法学院に、2年間行ってたんだ。剣技だって魔法だって一通り出来る。サボって成績は悪かったけど。
さっきはビビったが、少し練習すれば何とかなる筈……たぶん。
よ、よ~し、やったるぜ!
ギルドの中に入る。
うっ、ガラの悪そうな奴ばっかりだ。あの女の子は見当たらない。やっぱり止めようか……。
「いらっしゃいませ、本日はどの様なご用件でしょう?」
「え、え~と冒険者になりたいのですが」
「登録ですね。料金は銀貨3枚になります」
受付嬢は色々説明してくれたが、怖そうなおっさん達にジロジロ見られるので、生返事してたら登録証をくれた。
「何かご質問は御座いますか?」
「あっ、さっき着いた馬車を護衛してた人達は?」
「あ~、沈黙の旋風の人達ですね、何か?」
「襲われた馬車に俺も乗っていたんで、お礼を言いたくて」
「なるほど、それならいつもの酒場で打ち上げをやっていると思いますよ」
ーー
教えてもらった酒場に来たが、厳つい連中やイケメンの兄ちゃん達が、周りを取り囲んで盛り上がっている。とても近づくのは無理そうだ。
仕方ない、宿を決めよう。
次の日の朝一番で装備を整え、淡い期待をしてギルドに行ったが、お目当てのリリアさんはいなかった。彼女達のパーティーは全員Bクラスだと言う。
俺はFクラスなので相手にしてもらう為に、差を出来るだけ縮めておきたい所だ。先ずは依頼掲示板に直行する。
最初はゴブリン相手でも戸惑ったが、魔法学院で野外での演習もやっているのですぐに慣れた。俺の魔法も捨てたもんじゃない。
しかし考えが甘かった。直ぐにクラスアップするかと思っていたが、然に非ず。Eランクに上がるだけで1ヶ月もかかってしまった。
気を取り直して受付のお姉さんに、もう一度聞いてみたら、Bランクなんて夢のまた夢だった。大体の冒険者が、DランクからCランクに上がる時に壁にぶつかるそうだ。
俺の実力じゃ何年かかるか判らないじゃん。
落ち込む……。
「おい、聞いたか?赤のダンジョンの地下3階から10階までの間でゴブリンが異常発生しているらしいぞ」
「マジか?初心者でもレベルを上げるチャンスだな。俺も直ぐに行って来る」
なんだって?俺も行かなきゃ。
まだそれほど噂は広がっていないのか、そんなに人は居なかった。しかし情報通りゴブリンとは倒したそばから遭遇する。
「うん、効率が良いね。おっ、またいた」
俺が近づくとゴブリンの奴は逃げ出した。そうは行くか、なかなか逃げ足の速い奴だ。
「こら!待て、おっと」
俺はつまずいたので岩壁に手をついた。妙な感覚に襲われる。
地面がない?深く深く沈んで行く。罠に引っかかったに違いない、落ちていく感覚が止まった。
大変な事になったのは解ったが、俺は意外に冷静だった。諦めの極致だったのかもしれない。向こうの方で灯りがユラユラと揺れていたので、行くことにした。
もう、なるようにしかならないのだ。
そこは大きな部屋だった。右の奥に上り階段がある、これを使えば元に戻れるのか?行くしかないけど。
階段に向かう時に目のすみに何かが映った、首を少し曲げて見る。
「リ、リッチ!」
俺は慌てて階段に向かって走リ出す。
「まあ待て。ここは地下70階、最後の階の1つ上だ。お前の実力では直ぐに死んでしまうぞ。私の話を聞いて損は無いと思うが?」
地下70階……やっぱり俺の人生詰んでいたか。
「そ、それはその通りですが、どんな話しでしょう?」
「それはだな……」
思いがけない俺とリッチとの交渉が始まった。
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