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木漏れ日の並木道で  作者: 須雄田 脩二
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6.故郷の生活風景(一日目)

太陽が高く昇っている時刻になった頃、拓人達はお昼の休憩で家に戻っていた。

拓人は居間で仰向けになって倒れていた。

「親が簡単そうにやっているのが、こんなにも大変だとは思わなかった。」

「良い感じの茄子を選んでカットしていただけじゃない、男なのに体力ないなぁ。」

未祐はお茶をテーブルにササっと置いていく。

「いやいや。立ったり、しゃがんだりの連続はきついよ。普段そういう動きしていないし。」

「実際にやってみて、いつも気にする事なく食べられる事のありがたみを感じただろ。」

拓人の父がストレッチをしながら話す。

「そうだね。いつも美味しく頂いている事に感謝しています。」

「さっ、お昼だよ。体力つけて午後も頑張ってね。」

拓人の母と未紀が台所からお昼ご飯を運んできた。今日のお昼ご飯は冷しゃぶパスタのようだ。

「恵梨おばさんのご飯はいつも美味しいから嬉しいです。」

「あら、私も手伝っているわよ未祐。」笑顔で返答する未紀。

「お母さんもありがと、いただきまーす。ほら、拓人兄ちゃんも頑張って食べて。」

「未祐ちゃん、俺の胃の状態をわかってそうだね。」

拓人も座りだして、遅いペースながらも冷しゃぶパスタを食べ始めた。


拓人達は午後も順調に収穫を進めていた。始めは動きがぎこちなかった拓人も、慣れてきたのかテキパキと動ける様になってきた。

「拓人兄ちゃんはどうして東橋の大学に行くって決めたの?」

拓人の近くで作業している未祐がそっと聞いてきた。親達は少し離れて作業をしている。

「え?俺が東橋に行った訳?」

「だって、拓人兄ちゃんのお友達さんは皆こっちにいるし。どうして一人で都会に行こうと思ったんだろうって。」

「ここにいたら稼げる仕事に就けないと考えたからかな。やっぱり都会に行くと色々な仕事をしている人と会うから勉強になるよ。」

「ふぅん。高校時代の拓人兄ちゃんって、結構やんちゃでそんな風に考えてなかった気がしてたんだけどな。」

「やんちゃね…。確かにそうだったけど、今はこうして社会人やってますよ。」

「てっきり拓人兄ちゃんは美空さんが好きだと思ってたから、東橋に行くなんて思ってなかったし。」

「え!?俺が美空を好き?いやいや、そんな事は…あ…。」

拓人は記憶の中に何か引っかかるものを感じた。

「ん、どうかした?ほんとは好きだった?」

会話が途切れたので不思議に思う未祐。

「いや、ガキの時に何か大事な事があった様な気がして。」

「それは初恋のお話ですか?大事なことなのに忘れちゃうんだね。」

「初恋?ん~、そういう事だったら覚えていると思うんだけど…。」

「確かに拓人兄ちゃんの恋バナなんて聞いた事ないや。でもなんか気になりますなぁ、思い出せませんか~?」

拓人はよく考えてみるが、何か大きな事あったはずということ以外は思い出せなかった。

「今は思い出せそうにないかな。」

「そういう記憶って、出来事があった場所に行った時に思い出すってよく聞くよね。また思い出したら教えてね。」

「そうだね、なんだか気になるから思い出せたらいいな。」

しばらく作業を続けていると、ハウスの入口から未紀が近づいてきた。

「拓人さん、美空さんが来ていますよ。」

「え、もうそんな時間ですか?」

拓人は空を見上げると、太陽は結構降りてきており、夕焼けも始まっていた。

「今日はそろそろ終わりだから、拓人さんは先に上がってください。」

「じゃあ、お言葉に甘えて先に失礼します。ありがとうございます。」

「美空さん達と楽しんできてね~。」

拓人は親たちそれぞれに挨拶した後、畑の外で待っている美空の所へ行った。美空は畑を囲んでいる花壇を眺めていた。

「美空、待たせて悪い。」

「あっ、拓人。一緒に買い出しに行こうと思ったから、ちょっと早めに来てゴメンね。」

美空は朝に会った時と同じスタイルの服装だったが、長袖を着ていた。

「全然大丈夫。じゃあ、着替えるから家に行こう。」

「うん。夜は少し肌寒くなるから、拓人も長袖を用意した方がいいかも。」

「了解、ありがとう。」


着替えを終えた拓人は美空の車に乗り込み、町の中心にあるスーパーに向かった。

このスーパーは全国展開していて広さもあり、色々な食材が揃っている。拓人が収穫した茄子も産直野菜としてこのスーパーにも陳列される予定だ。

拓人は食べたい物を考えながらカートを押している。美空は前を先行していた。

「そういえば、今日は誰が集まるの?」

「今日は真弘と秋彦、それに仕事仲間の那奈香が来てくれるよ。」

「えっ、美空の仕事仲間の人?それって大丈夫?」

拓人は友人しか来ないと思っていたので少し驚いた。

「大丈夫だよ、那奈香は皆とは何年も友達だし。拓人とは初対面だから頑張ってね。話しやすい人だから、大丈夫だと思うよ。」

美空は肉類を手に取りながら話す。

「そうなんだ。まあ、楽しみにしてるよ。」


スーパーでひと通りの食材を購入し、美空の家に向かう。皆それぞれ、家には庭があるが、美空の家の庭が一番広いので、何かをする時には美空の家で行う事がほとんどだった。

家の前に到着するが、他メンバーの姿は未だ見えなかった。

「じゃあ私は中で下ごしらえしてくるから、拓人は倉庫からセットを出して、用意をお願いね。」

「了解。」

車をガレージに停めた美空は、拓人に倉庫の鍵を渡し、スーパーで購入した食材を抱えて、家の中に入っていった。

「改めて見ると、大きい家だよなぁ。」

美空の親はこの町の病院で勤務している。父が医師で母は看護師。元々はこの地方の中央都市で勤務していたそうだが、美空を自然豊かな所で育てたいという想いで、ここに引っ越してきたそうだ。

家の大きさは拓人の実家のおよそ倍くらいある。庭には池もあって、中では藻が活き活きと生い茂っている。小さい頃は小さい亀やメダカを育てていた事もあった。

「さてと、準備していきますか。」

拓人は庭の端に設置されている倉庫からバーベキューセットを取り出し、準備をする事にした。

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