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木漏れ日の並木道で  作者: 須雄田 脩二
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4.偶然の出会いと再会

平日で朝方の電車ということもあり、列車内には通勤や通学する人達で混雑していた。

携帯電話を操作する人や楽しそうに会話している人達など、列車内では色々な音や会話が飛び交っている。

座席は乗り込んだ時には既に満席だったので、拓人は空いているスペースに立ち、つり革を掴みながら外を眺める事にした。目の前の座席には通学中の女子生徒が数人並んで座っている。

この辺りは拓人にとって学生の頃に見ていた景色だが、月日が経って少しずつ変化しているのを感じていた。

「(うちの周辺も変わってきているのだろうか…)」

などと、拓人が頭の中で色々と考えていると、目の前に座っている女子生徒の一人が自分自身に視線を向けているのを感じた。

「あ、あの…。」

「え、はい?」

女子生徒に声をかけられたので拓人は返事をして女子生徒の顔を確認するが、拓人には全く見覚えがない容姿だった。また、今の生活で学生と話す事なんてないので、拓人は少し緊張していた。隣の女子生徒も拓人を見ている。

「もしかして、拓人さんですか?」

「え?そうですけど、どうして僕の名前を知っているのですか?」

「本当に拓人さんだった、すごい偶然。えと、私が小さい時にデパートで拓人さんに助けて頂いたんですよ。」

「デパート…。あっ、そういえばそんな事もあったような。迷子だった女の子が君?」

拓人が学生の頃、デパートに買い物に出かけた時に泣いている女の子を見かけて、総合案内所に連れていき、一緒に親を待っていた事があった。待っている間、女の子が不安にならないように楽しい会話を続けようと必死だったのを覚えている。

「はい、その迷子をしていたのが私です。さすがに覚えていませんよね。拓人さんは大人びていますけど、そこまでお変わりないですね。」

「いやぁ、あの時の君はなんとなく覚えているよ。随分と成長したね。」

「もう高校生ですから。あの時は本当にありがとうございました。なんだか、お兄ちゃんがいるような気がしました。」

「あぁ、そういえば拓人兄ちゃんって呼ばれてたよね。君は…ゆみちゃんだったかな?」

「わっ、私の名前を覚えていらっしゃるなんて流石です。あの時は心強かったです。えと、拓人さんは旅行帰りか何かですか?」

女子生徒は大きな荷物を見て、そう考えたんだろうと拓人は考えた。

「いや、帰省です。今は都心で生活しているんだ。」

「あっ、そうなんですか。じゃあ、夏休みですね。こうして会えたのは奇跡みたいです。」

女子生徒は微笑みながら話す。

「ほんとだね、また会えたことがなんだか嬉しいよ。」

そう話していると、次の停車駅を知らせるアナウンスが流れてきた。

「ゆみ、降りるよ。」隣の女子生徒が声かけてきた。

「あっ、もう最寄り駅に着いちゃいます。拓人さんはまだ先なんですね。」

列車が駅に到着したので、女子生徒達は立ち上がって出口へと向かう。

「それでは、また会えたら良いですね。」女子生徒は笑顔で手を振った。

「そうだね。じゃ、勉強頑張ってね。」拓人も手を振って見送った。

列車が発車する。学生達が降りた車内は随分と静かになっていた。

「(なんだか、慌ただしい休みになりそうだな。)」

拓人は座席に座って、反対側の窓を眺めながらそう思った。


列車は拓人が降りる賀美照駅に到着したので、拓人は荷物を持って降車した。少し前までウトウトとしていたので、少し眠たい気分だった。

ホームに立つと、駅は全く変わっていないのを拓人は感じた。

周りの景色も少し建物が増えた程度で、ほとんど変わっていない。太陽の光が駅の横で咲いているヒマワリや奥に見える山を眩しく照らしていた。

無人の改札口に切符を入れて出口に行くと、車が一台止まっているのを確認した。運転席には女性が座っている。

運転席に座っている女性も拓人が出てきたのに気が付いたのか、車から出てきた。

「拓人、久しぶりだね!お帰りなさい!」

出てきた女性は大きく手を振って拓人に挨拶してきた。女性はTシャツにジーンズという服装で、髪はポニーテールにまとめている。

「美空、久しぶり。ただいま。」

「さっ、荷物を後ろに積んで積んで。」

美空に促されるまま拓人は荷物を積み込んで、車に乗り込んだ。

「よし、それじゃあ行きますか。まっすぐ家に行っていいの?」

美空がエアコンを調整しながら聞いてくる。

「夜行列車で少し疲れているし、とりあえず落ち着きたいから家に向かってほしい。」

「そっ、了解。」美空は車を発進させる。

「駅の周りは少し住宅増えたな。」

「確かにそうだね。でも単身用の住宅しか建ってないし、人口は少しずつ減ってきているよ。」

美空は役所勤務という事もあり、地域の情報はすぐに入ってくる。

少し走ると、拓人が学生の時に過ごした景色が広がってきた。

「駅の周りだけ変わっただけで、この辺りからはぜんぜんでしょ。」

「確かにそうだな。」

「まあ、過ごしやすいんだけどね。でも、寂しくはあるよね…。」

拓人は運転している美空を見る。その視線を美空はすぐに感じ取った。

「何?私になにかついてる?」

「いや、大人になったなと思って。」

「何それ、からかっているの?ちゃんと公務員やってますよ。」

「あの頃は可愛げあったのに、綺麗になったよな。」

「こらこら、そんな台詞言われたら事故しちゃうでしょ。でも、ありがと。」

美空の頬は少し赤くなっていた。

「そうそう、今日の夜に皆を呼んだけど問題ないよね?」

「もちろん、今日は予定入れていないから大丈夫だ。」

「夏休みなんだし、予定なんて無いと一緒でしょ。」

「確かに、違いない。そういえば、丘の上の秘密基地はまだ存続している?」

丘の上の秘密基地というのはドーム形の天体望遠鏡がある施設のことで、その中には自由に入れていたでよく遊んだりしていた。

「ちゃんとあるよ。でも、県立大学が望遠鏡を使用していて、許可が必要になったよ。」

「そうなんだ。」拓人は少し残念な表情をした。

「大丈夫。私に頼んでくれたら、鍵なんて簡単に用意できるからね。」

「それは頼もしい。」

そんな感じで、懐かしいトークをしたりしていると、拓人の実家に到着した。

「はい、着きましたよ。」

「せっかくの休みなのに迎えにきてくれてありがとう。」

拓人は車から降りて、トランクから荷物を取り出す。

「そうそう、お土産があったんだった。これ、家族で楽しんでくれたらいいな。」

拓人は平べったい箱を美空に渡した。

「わっ、都会のお菓子だ。ありがとう、皆喜ぶよ。」

「じゃ、また夜に会いましょう。」

「うん、夜も迎えにくるね。」

美空は手を振りながら車を発進させた。拓人は車が見えなくなるまで手を振りながら見送った。

「さてと、先ずは荷物整理しますか。」

拓人は実家の玄関を開けた。

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