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木漏れ日の並木道で  作者: 須雄田 脩二
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3.心地よいおもてなし

食堂車に向かう途中の通路でベビーカーを用意している女性に出くわした。

「ひとみ、ちょっとおとなしくしててね~。」

どうやら客室の中にはひとみと呼ばれた子供がいるようだ。

「あ~。」

「あっ!ダメでしょ、ひとみ。ジュース落としちゃ。」

女性は中に入って、転がったジュースを拾い、子供の届かない所に置きなおす。

「あ~!!」子供が泣き出したようだ。

「ひとみ、泣かないの。ジュースが欲しいの?ほら。」

女性が組み立てようとしているベビーカーが倒れそうになったので、拓人は慌ててベビーカーを支えた。

「あっ、すみません!」

女性が中から声をかけてくる。子供はちゃんと胸に抱えたままだ。

「あっ、いえ。…あの、これ組み立てましょうか?お子さんをあやしながらは大変でしょうし。」

「え?それはとても助かりますが!」

女性は子供をあやしながら対応しているので慌てていた。

「すぐに終わらせますので、お母さんはお子さんの対応をしていてください。」

「あ、よろしくお願いします。」

拓人はベビーカーの組み立てに取り掛かる。とはいっても180度に折りたたんでいるのを広げて、ハンドルを伸ばすだけの作業だったのですぐに終わった。

「終わりました、これで大丈夫でしょうか?」

女性は子供にジュースを与えながら、確認する為に顔を覗かせる。

「あ、はい。ありがとうございます、大変助かりました。」

「あ~。」

子供も泣き止んでいており、ニコッと笑顔で拓人を見ている。

「ひとみちゃん、お母さんを困らせすぎちゃいけないよ。」

拓人は子供の目線までしゃがんで、笑顔で話しかけた。子供はキャッキャッと笑いながら手を出してきたので、拓人は握り返した。

「それでは失礼します、これからの旅路もお気をつけて。」

「本当にありがとうございました。」

女性は深く頭を下げて拓人に礼をした。子供も手を振っていた。


食堂車に辿り着くと、いくつかのテーブルには朝食を食べている客が座っていた。

拓人がどこに座ろうかと考えていると、昨日対応してくれた乗務員が近づいてきた。服装も同じだった。

「おはようございます、お客様。どうぞ、こちらにおかけください。」

乗務員に従い、中央のテーブルに拓人は座った。

「昨日はぐっすりとお休みになられましたでしょうか?」

乗務員はそう言いながら水が入ったコップをテーブルに置く。

「はい、良い個室でしたのでゆっくり出来ました。あなたはちゃんと休めてますか?」

「はい、私も十分に休ませてもらいました。朝食はこの三つから選んで頂くスタイルです。」

乗務員はテーブルにメニューを置きながら話す。

「なるほど。」

「個人的にはこちらがオススメになります。」

拓人は乗務員が示したメニューを確認する。

「高原豚の冷しゃぶと鶏ささみのマリネ…。良いですね、これをお願いします。」

「かしこまりました、少々お待ちください。あと、ご利用頂いたお客様にアンケートも用意しております。記念品も用意しておりますので、ぜひご協力頂けたらと思います。」

乗務員は一枚の紙を拓人に差し出した。

「わかりました、ありがとうございます。」

「失礼します。」

乗務員は厨房の方へと歩いていった。拓人はただ待っているのも、と考えてアンケートを記入する事にした。


乗務員がオススメした朝食は、活動をし始める身体には優しい感じで拓人は満足した。

アンケートの協力品としてボールペンを頂いた。乗車している列車がデザインされている。

個室に戻る前に拓人は売店へと向かう事にした。土産は用意してきてはいるが、足りないと考えて追加しておこうと思ったのだ。

「いらっしゃいませ!各所の特産物や列車の限定品などを取り揃えております。」

売店に到着すると、対応している乗務員が笑顔で声をかけてきた。売店の乗務員は食堂の乗務員と異なり、パンツスタイルの服装だった。

「何かあるかな…。」

売店は車両の半分程度の広さがあり、様々な地域の食べ物やグッズなど、列車の中でも品揃えは豊富だった。

「おっ、これは懐かしいな。」

キーホルダやストラップがかかっているコーナー棚の一番下に「星の砂」と書かれた、キラキラとした星形のパーツと貝殻が砂と一緒に入っているビンがあった。拓人には修学旅行などでよく見かけた記憶があった。

「うん、悪くないな。」

拓人はこの「星の砂」と小分けにされているお菓子セットを購入することにした。

「お買い上げありがとうございました。」

「……え〜、長時間のご乗車お疲れ様です。この列車はあと5分程で安芸田、安芸田に到着します。お降りのお客様はご準備のうえ、お待ちください。」

購入したと同時に車掌によるアナウンスが聞こえてきた。

「もう到着する、戻らないと。」

拓人は購入品を受け取り、個室へと急いだ。


安芸田駅に列車が到着したので拓人は降車する。降車したホームには、食堂で対応してくれた乗務員や列車内を見回っていた乗務員が立っていた。

「ご乗車頂きましてありがとうございました。この先も良い旅程になりますよう、一同願っております。」

乗務員達は手を振って、見送り対応をしていた。

「ありがとうございました。」拓人は乗務員達に対して、それぞれお礼を告げた。

別の車両では乗務員が先ほど組み立て対応したベビーカーを降ろす対応をしていた。続いて、子供を抱えた女性も降りてきた。

「同じ駅だったんだ、この先も一緒かもしれないな。」

話かけようとも思った拓人だが、関わりすぎるのも良くないかと思い直した。

安芸田から賀美照までは各駅停車の列車に乗り換えなので、拓人は別のホームに移動して、そこに停車している列車に乗り込んだ。


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