ごめんねの本音
駆け足の毎日。仕事に追われる日々。忙しいな。もう夏か。
「ササキさん、プレゼンの資料今日までだけど、大丈夫?」
正面の席のミツヤ君に言われて、ちょっと焦った。
「大丈夫、大丈夫。定時までには終わると思うわ」
「そう?ならいいけど」
ミツヤ君が心配そうな視線で見詰めてくる。
「ごめんね。でも、大丈夫よ」
そのあとの言葉が続かなかった。今はプレゼンの資料作りに専念しないといけない。
電話の呼び出し音。
「はい、〇〇商事です…」
電話には、ミツヤ君が出てくれた。電話が気になったけど、プレゼン、プレゼンの資料を作らないといけない。
嫌な予感がして、ふいにミツヤ君に言われた。
「ササキさん、△△テクノロジーのノベルティが足りないって電話だけど?」
「え!?、ちょっと待ってね。今、確認するから」
ノベルティの発注書を見ると「ああ、ごめんね。私が間違えてた。足りてないね。今、追加発注するから」
「俺、やっておこうか?」
「ううん、大丈夫。自分の仕事だから、迷惑かけられない。ごめんね」
急ぎ、追加の発注をした。プレゼンの準備をしないといけない。
パソコンの時計を見ると、定時に迫ろうとしていた。このままでは終わらない。焦る気持ち。残業するしかないか。
ちょっと視線が刺さるような気がして、正面を見ると、ミツヤ君と視線が交錯した。
「ササキさん、ちょっとこれ見て」と、ササキ君が手渡したのは、チラシだった。何だろう?
「…これは?」
「今夜の花火大会のチラシだよ。会社の近くの神社でやるみたいだからさ。一緒に行かない?」
「誰が?」ふと、間抜けた声が出た。
「俺とササキさんでさ。行こうよ、一緒に」
花火か。仕事漬けの日々でそんな余裕はなかったな。でも、プレゼンの準備が資料を作らないといけない。
「ごめんね。まだプレゼンの資料が出来なくて、行けそうにないわ」
ミツヤ君は、一瞬困った顔をして言った。
「俺が手伝うからさ。大丈夫。二人でやれば何とかなるよ」
「でも…」
「一緒に行こうよ」
「そう…ね。ごめんね」
「違うよ」
「え?…私、間違えてた?」
「そうじゃなくってさ」
「うん?」
「こう言えばいいと思うよ」
何だろう?
「ありがとう、でいいと思うよ」
そうか。すっかり忘れていた。
「ミツヤ君、ありがとう。花火、楽しみね」
「そうだね。俺も楽しみだよ」
「うん、ありがとう」
ごめんねの本音