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9 紛れ込んだキューピッド

 それは、矢尻の色の違う、二本の矢だった。


 輝く黄金の矢と、(にぶ)く光る鉄……いや、おそらく鉛の矢。


 黄金の矢と鉛の矢って……。

 かなり見覚えのある設定に、心の中で新たな波が起きるのを感じる。

 

 ……俺、天使なんだよね?


 このベイビーフォルムに背中の羽、そしてエグい天パ……。

 目の前にやってきた天使たちに、てっきりそうなのかと思ってたけど、ここに黄金と鉛の矢が加わると、話が変わる可能性が出てくるんですが……。


 まさか、俺……と、心の中で核心に触れようとしていた時、また横から急に声がした。


「あの天使どもは、もう行ったかニャ?」


 ……ニャ?

 ニ゙ャァァァアアアアアア!!!?


 猫!? いつの間に!?

 てか、この美人猫……あの時の猫じゃないッスか!?


 唐突に現れた猫に驚くと共に、その猫がまた、あの事故で助けようとして逆に助けてくれたという長毛の優美な猫でさらに驚く。


 な、何でここに!? 死んだはずじゃ……え? 猫の幽霊なの??

 お、おおお俺です、俺のせいです。キミが死んでしまったのは……! すみませんでした!!

 てか、喋った!? ヒィッ……化け猫だったの!?


 ただでさえ、()使()だなんてありえないと思っていた存在と邂逅(かいこう)してギリギリだったキャパシティが、死んだはずのしゃべる猫という、これまたあり得ない存在を目の当たりにして(つい)にパンクした。


「あばばばばばばば」と、言葉にならない声を発しながら歯をガチガチと言わせ、小刻みに震える。

 

「こら、落ち着かんか。あの天使どもがいなくなって、ようやく話せるようになったというのに……」


 なだめようとするも、玖人は視点の合わない瞳で明後日の方向を見続けている。

 その全く聞き分けない様子を見て猫は「やれやれ」とため息をつき玖人に近寄って行った。

 

 仕方なさそうに玖人の足元にすり寄り、モフモフの尻尾をファサッと顔に当てる。

 そして、次の瞬間に目の前に現れたのは、腰まであるような長い金髪をたなびかせ、(なま)めかしい肢体(したい)を薄衣で包んだ、神々しい女神だった。


 トリップしていた玖人も、思わずその美しさに息を止め、目を見張る。


「あ、あなたは……まさか……」


「うむ。妾の名はアフロディーテ。かの、オリンポス十二神の一柱にして、愛と美の女神である」


 ……存じております!!!!


 ああああ、尊いとはまさにこのこと!!

 あの! 夢にまで見たギリシャ神話の神が! いま、俺の、目の前に……!!


 あまりの感激に、顔の前で両手を組んでフワフワと宙に浮きだす。

 その足を、おもむろにアフロディーテは掴み、そのまま玖人の体は地面に勢いよく叩きつけられた。


「グヘッ!!」


 見事な投擲(とうてき)だった。

 突然の行動への驚きと、急に切り替わった視界に玖人の理性がようやく戻る。


「ふぅ……落ち着いたか?」


「……お手数おかけしました」


 アフロディーテの荒業で、玖人はやっと正常な思考を取り戻した。

 地面に埋まった顔を持ち上げ、顔を整えながら改めて自分を見下ろすアフロディーテの姿を見る。


 アフロディーテは愛と美の女神の名に恥じぬ神々しさと、思わず体が動いてしまいそうなほどの、圧倒的な女性としての魅力と色気を放っていた。


「よしよし。さて……おぬしの前に天使どもが現れたということは、首尾よく天使としてそちらの世界に組み込まれたようだな」


 ……首尾よく組み込まれる? はて?

 

「俺は、天使なのでは……?」


「いや、違う。お前はキューピッドだ」


 ええええええええ!?


 キューピッド……! キューピッドってあの、原初の神とも、アフロディーテの息子とも言われる、恋と性の神エロスの別名じゃないッスか!!

 そして、黄金の矢と鉛の矢で、人間どころか神の心でさえ操るという……!


 チラッと手元の弓と矢を見る。

 ああああ……もう、そうにしか見えない……。

 

 なに俺、天使かと思ったら、実はキューピッドだったの!?

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