4 二人の天使たち
「アズラエル!? どうして、ここに!?」
ガブリエルの動揺と共に、白で満たされていた世界が急速に色を取り戻していく。
初めて聞く声……アズラエルというのは天使か?
てか男? なんか、ちょっとイケボなんですけど……。
目潰し攻撃が落ち着いたと同時に、空を掻いていた両手を足場におろして四つん這いの姿勢になる。
その状態で、必死にまばたきを繰り返す俺をよそに、二人は淡々と話しを進めていった。
「やれやれ、光に気付いて飛んで来てみれば……俺がここにいるのは、お前がさっき、この人間を帰天させようとしたのと同じ理由だ。俺の役割は、死んだ者の魂を導くことだからな。俺の導きなくゆりかごに抱かれ、また、父の理からも外れたこの人間に気付き、様子を窺っていた」
「では、やはりこの人間は、正規のルートで天使になったのではない、と? まさか……悪魔の仕業でしょうか?」
「いや、それは分からん。ゆりかごは、常に開かれているからな」
アズラエルはそう言って、真上を指差す。
ようやく回復してきた目でつられて空を見てみると、この病院の遥か真上に、俺が目覚めた時にいたあの雲の布団があった。
ああ、そうか。大型スーパーの方しか見てなかったけど、確かに隣はこの病院だったわ。
昔、この病院にばあちゃんが入院していた時、お見舞いの後に隣のスーパーで家族とよく食事して帰ってたっけか、懐かしい……。
「そこの天使が生まれたゆりかごは、ここの真上にある。何らかの理由で魂が体から離れ、たまたまゆりかごに入ることができた可能性は否定できない」
「ふむ、そうですか……まぁ、ゆりかごに入れたのは偶然としても……天使になりながら元の体が生きているという父の理から外れた現状は、決して見過ごすことができません」
ガブリエルはそう言って、視線をアズラエルから病室内の俺の体の方に移した。
その瞳には明らかな拒絶を含んだ冷たさが滲んでいて、この場に、今日一番のピンと張り詰めた空気が漂う。
……思い出に浸っている場合じゃないぞ。
やばい。これは、多分、やばい……。
「……天使としての器を壊すか……ただ、それだと魂が元の体に戻る保証はありません。では、やはり元の体の方を帰天させるか……」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
思わず、二人の話に割って入ってしまった。
やばそうな流れすぎて、冷や汗が止まらないんですけど……!
話に乱入した俺に、二人の視線が集まる。
俺の次の言葉を待つシーンと静まり返った空気に、喉がゴクリと鳴る音が響く。
てか、よく見れば、アズラエルもガブリエルに劣らず豪華な装いだ。そして無駄に造形がいい……。
ただでさえ神々しいのに、素っ裸でミニマムな俺とは対照的な、圧倒的装備品を纏う二人が無言で見つめてくるなんて、威圧感と場違い感が半端ないんですが。
「ええっと、確か! 天界に行った後も、元の体に戻った人が過去にいましたよね!? 俺が例外ってわけでもないと思うのですが!!」
そうだ。
正直、そんな話があったかどうかなんて知らないんだけど、多分、あるはずだ!
宗教が違っても、似たようなエピソードはどこもあるって言うし……
そう、きっと、オルペウスが死んだ妻のエウリュディケーを取り戻すために冥界に行き、地上に戻ったのと似たような話がきっとある! ちなみに、オルペウスは最後の最後で約束を守れずに、妻を取り戻すのに失敗するんだけども。
頼む、あってくれよ~~~~!!
じゃなきゃ、俺、ここで本当に死ぬぞ!!




