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28 様々な思惑と探り合い

 日も沈んだ夜、生徒会活動も終わって人もまばらになってきた頃に、会長と副会長、そして茉莉亜の三人での勉強会が始まる。


 会長と副会長はそれぞれが数学と英語を担当し、授業や宿題のフォローと、茉莉亜が出遅れている一年生の範囲の復習をしてくれていた。

 月曜日と木曜日が数学、火曜日と金曜日が英語といったように曜日で分けて教えてくれているが、三人ともがそもそも毎日生徒会室にいることもあり、一緒に勉強することが多かった。


 今日は英語の日だ。

 副会長から出された単語テストが終わり、採点をする。

 勉強の甲斐もあって何とか全問正解できて一息つこうとしていた茉莉亜に、自身の勉強を切り上げた会長が話しかけた。


(あららぎ)さんは、文化祭は誰と回るの?」


 希狼祭まであと一週間を切っていた。

 準備が着々と進んで行く中、日を追うごとに、学校全体が徐々に浮ついた雰囲気に包まれていく。

 茉莉亜たち以外で生徒会室にわずかに残る、文化委員を中心とした生徒会メンバーたちも、当日への思いを口々に語りながら楽しそうに作業を進めていた。

 

「一応、休憩時間に美咲ちゃんと回る予定ですよ。会長はどうされるんですか?」

「俺は今年も副会長と一緒に見回りだよ」


 会長はそう言いながら、英語のテキストに視線を落としている副会長の方に顔を向ける。

 副会長は英語テキストに視線を落としながら、チラリと視線だけ向けて「そうね」と言った。

 

「……そういえば、去年は見回りついでに狼探しもしたんだけど、四匹しか見つけられなくてさ。学校の敷地内は、ほどんど見て回ったのにちょっと悔しくて……今年も狼探しはするのかな? 確か、火村の手伝いをしていたよね?」


 副会長から視線を外し、ゆっくりと顔をこちらに向き直した会長と目が合う。

 

「はい。今年もする予定ですよ」


 もはや何度目か分からないこの質問に、笑顔で決まりきった返事をした。


 ……またこの質問かあ。と、茉莉亜は笑顔の裏で少し思う。

 文化委員長と狼を設置する場所の下調べを行った日以降、色々な人に同じ質問をされた。

 

「文化委員長と一緒に歩いているところを見たんだけど、そういえば生徒会に入ったんだっけ? じゃあ、知ってる――?」

「狼探しっていうやつ、有名だって聞いたんだけど実際やってるの――?」

「毎年してるわけじゃないみたいなんだけど、今年は――?」


 質問してきた人たちは皆、そう言いながら上目遣いで探る様に聞いてくる。

「うん。今年もする予定だよ」と答えると、「そうなんだ。ありがとう」とはにかみながら去っていくが、全員の瞳の奥に、それぞれが思い浮かべる誰かがいるというのだけは茉莉亜にも分かった。


 正直、これまで恋愛に疎かったこともあって、何でみんな、そんなに狼探しに興味があるのか茉莉亜は不思議でしょうがなかった。


 ……もうすでに、こんなに仲が良いのに。

「それでも足りないの?」と、目の前でまた浮かぶ同じあの表情に、自身の幼馴染たちを思い出して少し胸がざわつく。

 

「ありがとう。狼探しについては、火村は一切教えてくれないどころか、特に俺に対しては何故か怒ってくるからな。聞けて良かったよ」

 

 そう言って、会長は席を立ち「じゃあ、ちょっと図書館に参考書借りに行ってくる」と言って、生徒会室から出て行った。会長の背中を見送り、ドアが閉じたと同時に後ろでパタンと何かが閉じた音がする。

 振り返ると、先ほどまでテキストを眺めていた副会長が、まっすぐに茉莉亜を見つめていた。

 その表情は、ここ最近見続けたものとはまた違って何やら気迫がこもっているけど、瞳の奥に、同じように揺れる気持ちがあるのが見える。

 

「茉莉亜ちゃんさ、二年三組の実行委員の子と話したって聞いたんだけど……正直、どうだった?」

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