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21 誤解を生む二人

 ……キタッ!


 おいおいおいおい、黙って見ていたら……こいつ、とんだスケコマシだな……!

 何なの? いかにも良い人そうな風貌で、人畜無害そうな笑顔で、そして本当に何も考えずに、ずいぶんとグイグイ来るな。


 茉莉亜、お前も喜んで受けるんじゃない。そういう所だぞ。隙があるっていうのは!

 でもまあ、確定。()()だな。

 美咲たんが「問題ないことはない」と言っていたのは。

 

 二人のやりとりを邪魔することなくつぶさに観察していた俺は、狙い通りにかかった獲物(会長)を見つめる。

 事務局長が微笑みながら不穏なことを言っていたあの日の帰り道、美咲から最近、特に頻発しているという会長と副会長がらみの問題について聞いていた。


 会長は、いわば世話焼きなのだ。

 頼られれば頼られるほど嬉しいし、何なら自分から困っている人に積極的に声をかける。

 それが昨年、生徒会長になってからというものの加速した。

 

 会長としての責任感と世話焼き体質が混ざり合い、さらに、よろしくないことに会長には妹がいて、それ故の長男気質までが揃ってしまうことになった。

 そして、妹の延長線で女子への世話を何も考えずに焼いていた結果、生徒会では暗黙の了解として知られていた副会長とのことを知らない女子たちが会長に恋心を募らせ、それに気付いて嫉妬した副会長が空回りするという、犬も食わないすれ違いが発生していたのだ。

 

 はたから見れは、非常にアホくさい……

 が、うっかり当事者になってしまえば、非常に面倒くさい……


 一応、この二か月の間にじっくりと観察してきたのだが……本人は勘違いを生む自身の行いに気付くどころか、茉莉亜や一年生など、新しくできた身近な後輩に世話を焼きたくて、ずっとうずうずしながらこちらを見ていた。

 重いものを持っていればサッと助け、探し物をしていれば一緒に探し、何なら見つけてくれる。「大したことじゃないよ。いつでも頼ってね」と笑顔で言いながら。


 そりゃ、勘違いする女子も出てくるわ。そして、それらを陰から見つめる副会長の視線の、痛いこと痛いこと……

 それもこれも、二人が宙ぶらりんの関係のままでいるからだ。

 ついには、副会長との関係を知りながら、あわよくば横取りできるかも? と狙う女子も出てくる始末……

 

 もう、とっとと付き合ってくれ!

 こちとら、二人が別々に作業しているときに、キラキラを出し合いながら互いの背中を追っているのを知っているんだよ!


 とはいえ、キューピッドでもある俺には、《《黄金の矢》》というスーパーアイテムがある。さっさと二人に刺してしまおうと、もちろん考えた。が、なんと、ここで問題が発生した。

 それは、守護天使でもあるからか、茉莉亜からあまり離れて遠くに行くことができないということだ。

 

 なんと、離れられるのはせいぜい五メートル程度。

 五メートルって……二人と茉莉亜がそんな至近距離にいる時に刺したら、下手したら茉莉亜に矛先が向いてしまう恐れがある。二人ともちょいちょい見つめ合っているからそこを狙えれば良かったのだが、そんな数秒の時を狙う度胸が俺にはなかった。

 

 失敗した時のリスクが高すぎるんだよ……ここは、地道に活動するしかないか。

 と、互いにwin-winで色めき立つ茉莉亜と会長をよそに、俺は生徒会室の窓の外にできた二つの影の方に目をやった。

 境界を越えてポコッと不自然に出ている影が、それぞれ怪しく動いているのが見える。


 ……おい、こら。

 覗いてんの、バレバレなんですけど。


 あまりの下手な隠れ方に、小さくため息をつきながら影の方に寄って行く。

 窓から頭を出して確認してみれば、副会長と美咲の二人が生徒会室の中を食い入るように覗いていた。

 

 二人はそれぞれにブツブツと独り言を呟き、どうも、自分の思考に集中しているようだ。

 窓からするりと抜け出し、二人の間を飛んで耳を澄ましてみる。

 

 「あの二人、随分と良い雰囲気なんだけど……え、まさか、茉莉亜ちゃんが生徒会に入ったのは、会長を狙って? 確かに会長を狙っている子は多いみたいだけど、茉莉亜ちゃんもそうだったの!? そんな……春休み明けから、確かに少し雰囲気が変わったかなとは思っていたけど、恋をしていたからなの!?」


「そういえば、最近、(そら)(※会長の下の名前です)ってば蘭さんのこと見ながら褒めてたよね!? 美化委員の時の花の世話を続けるなんて偉いよなとか、花が好きな子って女の子らしくて良いよなとかって……え? まさか、そういうことなの!?」


 ……なんだこりゃ。

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