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19 事務局長の妖しい微笑み

「あの二人が付き合っていないだなんて、本当に信じられないなあ……」


 生徒会室の一角で新入生への部活動紹介の片付けをしていた茉莉亜は、作業もそぞろに、反対側の部屋の隅で話す会長と副会長を眺めながらそう呟いた。


 始業式の翌日に正式に生徒会に入会してからというもの、茉莉亜は毎日のように生徒会室に足を運んでいた。

 同じように毎日、そして誰よりも長く生徒会室にいる会長と副会長に自然とときどき目が行く。が、二人はいつ見ても、仲睦まじい様子で打ち合わせをし、微笑み合っていた。


「あんなにいい雰囲気なのに、何でなんだろう? てか、互いにどう思っているのか、二人に直接聞いた人はいないのかな?」


 茉莉亜は、横で片づけを手伝ってくれていた美咲に、そう小さく声をかけた。

 美咲は作業する手を止めることなく、苦笑いをこぼす。


「まあ、そう思うよね。みんなそうなんだけど……これまで、誰もちゃんと聞けていないんだよね……」

「そうなの? 何で……?」

「いや、そりゃあ、さあ……」


 と言い淀む美咲の顔を、不思議そうに茉莉亜が覗き込む。

 

 ……そりゃあ、なあ~

 あれだけ二人の世界だと、かえって聞きづらいよなあ~


 茉莉亜の頭の上にうつ伏せにのしかかっていた俺は、コソコソ話す二人を眼下に望みながら、両肘を頭について小さくため息を吐いた。

 

 これまで想いを寄せされても一切歯牙にかけてこなかった故に恋愛に疎く、せいぜい少女漫画の世界しか知らない、恋愛初心者の茉莉亜には分からんだろう。

 仲良くなればなるほど、今の関係性を壊したくなくて臆病になるし、周囲にいる人たちも、当人たちの問題として遠巻きになっていくということを。

 

 現状上手くいっているならば余計に、核心に迫るあと一歩が出しづらくなるもんなんだよ。それでいて周りも何も言ってこないから、実はどう見えているかなんて当人達は気付かないわけで。

 まあでも、雰囲気が浮ついている以外に害はないんだし、ほっとけばいいんじゃないの? あの様子だし、そのうち勝手にくっつくでしょ?


「んー、よく分からいけど……まあ、それ以外は特に問題もなさそうだよね。それなら、私たちは知らないふりをしていれば良いのかな?」

「いや……それが、問題がないわけではなくて……」


 美咲が何やら歯切れ悪く、何かを言いたそうなしぐさを見せる。

 なんだろう? と茉莉亜と共に小首をかしげて続く言葉に耳を澄まそうとした時、反対側から不意に声がした。


「蘭さんもやはり気になりますか。これはもはや、我が生徒会の通過儀礼になりつつありますね〜」


 予想もしなかった突然の会話乱入に驚いて後ろを振り返ると、二人の真後ろには、なんと、事務局長の長家(ちょうや)先輩がいた。

 長家先輩はそう言いながら、茉莉亜たちと同じく片づけのために手を動かしている。


「なっ、長家先輩! いつの間にそこに……!」

「最初からいましたよ。蘭さんにここの片付けを教えていたのは、私ではないですか」


 ってことは、今までの話、全部聞いていたってこと!?

 いや、確かに最初にいたのは覚えているけど、途中で視界から消えちゃったし、どこかに移動したのかと思っていたよ!?


 この事務局長……茉莉亜以上に小柄だからなのか、それとも、もっさりした三つ編みに眼鏡という地味ないでたちだからなのか……全く気配を感じなかった! こわ!

 

 きらりと光る眼鏡に底知れぬ怖さを感じて、思わず美咲がいる方の肩に飛び降り、茉莉亜の頭の後ろに隠れてそーっと覗く。

 茉莉亜も同じく驚きに声をなくしていたのか、口をパクパクとさせていた。

 

「そんなに驚かなくてもいいですよ。よく聞く話です。あの二人のことですが、三年生の間でもこれまで誰も触れられなかったのです。ですから、他の人……特に後輩には、なおさら聞くのは無理ですよ」


 そう言って、事務局長は二人の方を向き、ニコリと微笑んだ。

 

「……長屋先輩がこういう話するなんて、珍しいですね」


 美咲がようやく言葉を絞り出す。

 会長と副会長の恋愛に関する噂話という内容に後ろめたさもあってか、少し顔色を窺うような声色だった。

 

「ふふふ、私はこういう話は大好きですよ。特に、くっつく前の甘酸っぱい雰囲気とか、結ばれない禁断の愛とかが大好物です。まぁ、私は普段、生徒会室にあまりいないので、お話しする機会が中々なかったですがね」


 くっつく前の甘酸っぱい雰囲気って……まさにあの二人の状態なんですけど!?

 この状況を楽しんでいるようにも見えるし、事務局長の真意はいったい……!?

 

「私としては出来るだけ長く、今の状態を引っ張って欲しいところでもあるのですが……まぁ、後輩たちにこれ以上、気を遣わせるのも違うと思いますし……最近、少しずつ実害が出てきはじめましたからね」


 事務局長はそう言って、チラリと茉莉亜の方を見た。

 心なしかその瞳は、茉莉亜の頭の後ろに隠れていた俺を捉えている気がする……

 そして、事務局長はじっとこちらを見つめた後、ニヤリと怪しく笑って言った。


「蘭さんの加入は、生徒会に一波乱起こしそうな予感がします。今後がとても楽しみですね」

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