15 二年生のはじまり
いよいよ、待ちに待った新学期が始まる。
学校へ向かう道すがら、俺は改めて、これからやるべきことの整理をしていた。
目指すのは、奇跡を司るという力天使。
今、俺は守護天使で、次の階級は大天使……力天使は、はるか先の高みの存在だ。
そして、まず大天使に昇格するには、守護天使として付いている人間に善行を積ませないといけないらしい。
ちなみに、このことはガブリエルもチラッと言ってはいたけど、その言葉は、当時混乱していた俺の頭にはちゃんと入っていなかった。
……そういや、なんだったっけ? と頭を傾けながら、茉莉亜の医学部推薦について調べるついでに、何気なくネットで検索してみると……出るわ出るわ、天使の階級やらの情報の山!
……何でみんな、こんなに天使について詳しいのさ。
さすがに俺でも知っているぞ。
天使はキリスト教の物だろう?
そして、俺たち日本人は、ほとんどが仏教か無宗教だろう!?
ハロウィンといい、クリスマスといい、そのくせ初詣だとか、お盆だとか、本当に日本人ってやつは……!
ま、俺もギリシャ神話が心のバイブルだから、何も言えないがな!!
なんて一人でノリツッコミしつつネットを読み漁ったが、溢れるその情報量に、「全ての答えはネットにある!」と、改めて認識せざるを得なかった。
高度に発達した文明、なんて素晴らしい……! ありがとう、情報化社会!
医学部推薦についても、天使についても、この一週間で調べ尽くして作戦を考えた俺は、向かうところ敵なしだ。
新学期への少しの緊張と大きな期待を胸に、茉莉亜の肩掛けの四角いスクールバッグの上にあぐらで座り、腕を組んで堂々と学校を目指す。
視界の遠くに、学校が見えてきた。
見慣れた景色に、徐々に、同じ制服が集まりだす。
いやー、新学期が始まる日ってドキドキするよね。
久しぶりに友達に会うし、クラス替えもあるし、なんかソワソワしちゃうの分かる分かる……。
って、んん? それにしても……何かみんな、やたらと浮ついてない??
俺は、学校までもう少しというところで、いつもの感覚とは違うような雰囲気にようやく気が付いた。
右には、スマホを見ながらニヤニヤ顔で歩く女子。
左には、肩に腕を組んで、異常な近さでしゃべる男ども。
そして斜め後ろには、若干、いい雰囲気を漂わせながら歩く男女。
キョロキョロと周りの様子を見渡すが……やたらとみんな、キラキラしている気がする。
通学風景って、こんなだったっけ?
いやいや、なんか、見えてるもの違うくない!?
ああ、このキラキラした何かが、すぐ目の前に迫る学校まで続いている……
あの校門を超えた先、賑やかな雰囲気を漂わせる場所に、ひときわ、キラキラが集まっているのが見える……
学校に到着し、校舎入り口の人だかりの方に向かう。
嫌な予感に、まるで断頭台に向かう死刑囚のようだと感じて、ゴクリと喉を鳴らした。
目を細めて迫りくる集団を見つめていたら、人影から一人の女子がこちらに向かって来るのが見えた。
まっすぐこちらに迫る女子は、スピードを落とすことなく全力で走ってきて、茉莉亜に思いきり抱き着く。
「茉莉亜ちゃーーん! クラス一緒だよ!! やったよーー!!」
「美咲ちゃん、おはようー! そうなんだね、今年もよろしくね」
「うん!! もちろんだよー!! 茉莉亜ちゃんとまた、一年間一緒なの嬉しいー!!」
この人が美咲たんか!
あの、元百合好き守護天使に、茉莉亜とのカップリングで狙われていた!
クラスが違ったから茉莉亜の話でしか知らなかったが、つやつやの長い黒髪に、整った美人系の顔立ち、そして、きちんと校則通りに制服を纏う美咲は、いかにも優等生と言った風貌だった。
まあ、栗色のふんわりした髪に、穏やかで小動物のような可愛らしい風貌の茉莉亜とは、ビジュアル的によく合うというか……あの元百合好き守護天使め、悪くない趣味してやがる……!
けど……けど……!
見上げた先で、美咲はぎゅっと茉莉亜に抱き着いたまま、ニコニコと満面の笑顔で話していた。
そして彼女は、先ほどまで見てきたものとは比にならない程、キラキラを全身から放っていた……