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13 医学部への茨の道

 こりゃ大変なことになったわ……


 俺の奇跡の心配も、そりゃまあ、そうなんだけど……何よりも、こんな成績で「医者を目指します!」とか大見得(おおみえ)を切ちゃった、茉莉亜の心境を考えるだけで胃が痛くなってくる。

 

 とはいえ、今はまだ高一の春……ここから、死ぬ気で勉強すれば……何とか、なるのか?

 基礎でこの惨状だぞ……?

 ああ……また思考がネガティブになっていく……


 俺は茉莉亜が突っ伏せる学習机からよろよろと離れ、部屋の隅で崩れかけた。

 

 あかん、頭が真っ白になって、魂がこの体からも抜け出してしまいそう……

 いやいや、待て……そうやって早合点して、今日も色々恥をかいただろ!

 まだ、慌てる時間じゃない……!


 気持ちを強引に立て直して態勢を起こし、短い足を組み、顎に手をついて考えた。

 

 正攻法で攻めるのは、多分無理だ。

 ここから立て直そうと思えば、茉莉亜の残りの学生時代は勉強漬けの日々になる。

 それはちょっとかわいそう……と、相変わらず机に頭を載せて項垂(うなだ)れる茉莉亜をチラッと見て思った。


 ……他の方法があるはずだ!

 幸い、確か茉莉亜の家はそこそこ裕福だったはず……。

 そう、私立の医学部ならば、あるいは……!


 夕食に呼ばれてのそのそと起き上がり、部屋を出ていく茉莉亜を見送り、俺は窓を開けて隣の家に飛び移った。

 

 俺の部屋の窓は、いつも鍵をかけていない。


 案の定、入れた俺の部屋は暗く、そして心なしか冷たかった。

 久しぶりに見た、いつもとは目線の違う自分の部屋にグッと来るものがあるものの、頭を振り、急いで机の上に飛び乗る。


 机には俺が愛用していたノートパソコンが、最後に使ったままの姿で置かれていた。

 両手に抱えてベッドに移動させ、布団をかけて起動させる。


 ええと、「私立 医学部 推薦」っと……。

 ……なるほど?

 

 附属校推薦……は、もう無理として、他にあるのは学校推薦の指定校型と一般公募型、総合選抜型か。

 国公立も推薦入試はあるみたいだけど、私立より学力テストのレベルは高いし、評定基準も厳しい……。


 茉莉亜が行けそうな難易度低めのルートは……やはり、私立の指定校型か一般公募型の推薦で、評定は三・五以上目指すのが目標となりそうだ。

 もちろん、面接や小論文が基本ながら、テストが課されることもあるから、学力の底上げをしながらになる。

 

 ある程度の目処がつき、パソコンの電源を落として布団からぷはっと顔を出した。

 光が漏れないように、厚手の布団を被せて中に入っていたから、呼吸と共に入ってくる外の空気が肺や全身を冷ましてくれて気持ちがいい。


 交換をするように、肺に入っていた空気を深く長く口から吐いた。

 視界に映る、窓に浮かぶ月を見つめながら、ゆっくりと体を布団から出して起こす。

 

 日々の学校生活に、部活や委員会活動、そして体育祭や文化祭、卒業旅行といったイベントの数々……。


 これらで実行委員などを務めれば、目標とする評定はクリアできるか?

 (いな)、あれだけの足枷を負っているんだ。まだ足りないだろう。


 あと一つか二つ、学生の模範として、大学側に合格させたいと思わせる押しの一手が必要だが……大丈夫だ。候補はもう浮かんでいる。

 そして、学校という狭い社会では、俺の天使として、そしてキューピッドとしての能力が発揮できる場面は多いだろう。


 窓から入る月明かりに、背中に担いでいた弓矢の矢尻がキラキラと反射する。

 それらを見ながら、茉莉亜と迎える新年度に、武者震いのような何かが心を駆り立てているのを確かに感じた。

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