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11 百合好き守護天使

「とはいえ、妾も()()ではない。()()()()()()()……といったかな? 最初くらいは、お主の手伝いをしようではないか。それが、()の役目らしいからな」


 ……そういや、日本にはマンガやアニメを目的に観光しに来たって言ってたけど……これ多分、すでに色々見てるな……。


 最近は、いわゆる「異世界転移もの」やら「悪役転生もの」が流行っていたなあと、そわそわ語るアフロディーテの様子を見て思い出した。

 

 うん。

 覚えたての単語や設定を、語りたくて仕方ないって顔してるわ、この(ひと)


 ここで、最善の選択肢は……。

 

「ホントですか!? ありがとうございます! 助かります!!」


 見よ、そこの病室で寝ている俺。

 これが、空気を読む者としての第一選択だ。

 さっき羞恥心を捨てさせられて、一皮むけた俺は違うぞ。


「ふふん……まあ、よいよい。これも、お前を転生させた妾の仕事だからな」


 アフロディーテもまんざらではない様子だ。


 しかし、チュートリアルとして聞きたいことといえば、現在のオリンポスの神々の動向と、自分の知識とのすり合わせくらいだけど……これは流石に私情に溢れているな……。


 正解を引き当て、どうやってこの機会(チャンス)を最大限に活用するかについて思考を巡らせていると、アフロディーテの方から声が上がった。


「さて、ちょうどいいのがあったのだが……お、あそこにいるのはお主が守護天使とやらに選んだ者ではないのか? そうそう、あやつだ。あやつを、まずよく見てみよ」


 指さす方に視線を移すと、そこには病院を出て帰路に就こうとしていた茉莉亜と優太がいた。


 ちょうどいい? 何が?


 と疑問に思いつつ、「よく見ろ」との言葉通りに近づいてみると、茉莉亜の陰から丸っこい何かがもぞもぞと顔を出した。

 

「……君、だれ? ボクと同じ天使??」


 それは、ベイビーにしてはホリが深く、少し老けた顔立ちの俺よりちょっと大きめな天使だった。


 おおお、俺以外の守護天使だ……!

 てか茉莉亜、既に守護天使いたんかい!!

 

 まぁ、こういうのは大体生まれた時からいるのが相場だし?

 茉莉亜ももう十六歳だし?


 色々なギャップに戸惑いつつも、他の守護天使がいても不思議じゃないかと思い直し、その物珍しさから思わずジロジロと観察しながら周囲を飛び回ってみる。


「……君、何なの? ボクはマリアたんの守護天使だよ?」


 マリア……たん?

 

 おおおおおーい!

 茉莉亜……お前、なんて奴引き連れてるんだよ!

 たんって、たんって……怪しい匂いがプンプンしてくるんですけどー??


 頬を膨らませ、俺の方を見てプンスカ怒る天使だが、正直、全然可愛くない。


「せっかくここまで育てたんだから渡さないよ? ミサキたんと、もう少しで禁断の……」


 ミサキ……美咲って、あれか!

 高校で同じクラスになって、やたらと(なつ)かれているって言ってた子!

 

 こ、これは……もしかして百合とかいう……。

 お前、俺とはベクトルの違う……オタクだな!?


 だがしかし、俺は聞いているんだぞ。

 茉莉亜はそっち系には興味ないし、「ちょっと距離感が近すぎて、最近困ってる」って!


 美咲たんも本心ではどうなのか分からんが、このオタクの熱量……そして、守護天使というポジション……。

 遠くから見守るのがオタクの美学であり矜持(プライド)であって、直接、働きかけるのはアウトだろう!


「ああいうやつには、お前の持っている矢は効果覿面(てきめん)だぞ?」


 後ろで楽しそうにこの状況を見ていた、アフロディーテの悪魔の囁きが耳に入る。

 

 そうだ。

 キューピッドの矢……。


 この矢はかつて、オリンポス十二神の一柱であるアポロンと、河神の娘ダプネに悲劇を生んだ。

 

 自分の弓矢をアポロンに揶揄からかわれたキューピッドは、復讐としてアポロンに黄金の矢を刺してダプネに恋心を抱かせ、逆に、ダプネには鉛の矢を刺してアポロンの初恋を砕くだけでなく、求愛してくるアポロンから逃げるために父親に懇願して月桂樹になったという……。


 今でも、アポロンはダプネへの愛の証として月桂冠を作り、常に身に着けている。

 そう、これはかの有名な、アポロンの頭に乗っている、あの葉っぱの(かんむり)の話だ。


「黄金の矢は相手がどんなモノであろうと恋に落とすことができ、鉛の矢はどうしようもないほどの嫌悪感を抱かせることができる。さあ、あいつにどちらの矢を使う……?」


 ……そんなの決まってる。


 俺は片方の矢を取り出して、奴に狙いを定めた。

 弓なんて初めて手に取ったにも関わらず、何の抵抗もなく引くことができ、矢はスッと自然な弧を描いて飛んでいく。


 ザクッと刺さる軽い音が聞こえたと同時に、野太い声がこの場に響き渡った。


「んだこらああぁぁあああ!! まだ尻の青い、ガキじゃねぇか!! 俺の好みはボンッキュッボンッの金髪美女なんだよ!! 百年はええわ!!」


 中指を立て、ペッ! とツバを地面に吐いて彼方(かなた)に飛び立つ元百合好き天使の後ろ姿に、血の気が引いていく。


 同時に、後ろからゲラゲラと下品に笑う声が聞こえてきた。


 ……あいつ、めっちゃ口悪いな……。

 てか、俺はもしかして、とんでもない力を手に入れたのでは……?

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