その男、任せる
「ねぇ、レイラちゃんマオって全然優しくないでしょ?」
「……おい」
失礼なことを言ってくるショーンを俺はじっと睨む。
そんな俺たちのやりとりを見てレイラはクスリと笑うと、ゆっくりと近づいてきて俺の頬をツンと指で突いた。
「そんなことないわ、すぐ赤くなって可愛いでしょ?」
レイラは先ほど俺が理由も言わずに隠れろと言って放置した仕返しと言わんばかりに悪そうな笑みを浮かべる。
俺は反射的に少し顔が熱帯びるが、あくまで冷静に彼女の指にそっと自分の手を添えてやめさせる。
その様子を見て、メンバー全員が驚きの表情を浮かべながらニヤニヤと見つめていた。
「マオくんもそんな顔するんだね」
「初めて見たな」
双子のヤマトとミナトがボソボソと話をする。
それに加わるようにレイラが口を開いた。
「えっと……マオって、そんなにモテないの?」
「「「「ぶはっ!!」」」」
少し心配そうに俺を見るレイラに全員が腹を抱えて笑う。
そして、ひとしきり笑い合えると、子犬のように人懐っこい笑顔を浮かべたハルがレイラに言った。
「マオは、すっごくモテるよ〜!でも、共演した女の子たちも全く相手にしない塩対応だから、こんなにレイラちゃんに心を開いててびっくりしたんだよ」
「おい!勝手なこと言うな。俺は全く心を開いてない」
そう言って俺はハルを黙らせた。
すると、レイラとハルは打ち合わせたかのようにジャストなタイミングで子犬と子猫のようにウルウルとした目で、突き放すような発言をした俺を責めるかのように見つめてきた。
「心を開いてないですって……そんなっ!ひどいわ。昨日はあんなに私に触れたくせに……」
「えっ!レイラちゃんマオとそんな関係だったの!?」
「えぇ……とっても熱く」
そう言ってレイラは目に涙を溜めると少し身体を捩らせて、思わず男が唾を飲むほど色っぽい表情を浮かべる。
そして、俺の方を一瞬見て悪そうな笑みを浮かべているレイラを諌めるように言い放った。
「悪質な言い方やめろ。ただドライヤーで髪を乾かしてやっただけだろ」
「……チッ」
「相変わらず本性現すの早いなっ!」
この俺たちのやりとりを見て、レイラの妙に色気のある演技に少し顔を赤くしていたメンバーたちもさすがに嘘だと気づいた。
そして、薄いピンク色の長髪をふわりと靡かせてショーンが場の雰囲気を変えるように俺に向かって口を開いた。
「まぁレイラちゃんが異世界から来たのは間違いなさそうだね。俺たちのことも全く知らないし、嘘を言ってる感じもないしさ。それでお金貯まるまでマオマオのとこにいるんだよね?」
「ああ」
「それがいいね。女っ気のないマオマオなら安心だよ」
「おい」
そう言って俺がショーンをジロリと見ると、それに同情するかのように他のメンバーが俺の肩を叩く。
ショーンはそんなのお構いなしに受け流すとさらに話を続けた。
「ねぇ、レイラちゃんの服とか日用品とか、ちゃんと用意してあげてる?」
「……あっ、忘れてた」
「はぁ……マオマオ、もっと気が効く男じゃないとモテないよ〜」
「それは余計なお世話だ」
ショーンは呆れたように俺を見ると、何か思いついた様子で赤い短髪のリュウマの方を向いた。
「ねぇ!リュウマ、彼女と連絡とれる?」
「あー、確かにアイツに付き添ってもらえばいいな。今日は仕事休みらしいからすぐ来てくれると思うぜ」
そういうとリュウマは携帯を取り出して電話をかける。
するとすぐに話がまとまり、ショーンがレイラに話しかけた。
「レイラちゃん、今からリュウマの彼女と一緒に必要なもの買い揃えておいで。俺たちと行っても役に立たないだろうし、むしろ色々手間が増えると思うからさ」
ショーンがにっこりとレイラに微笑むと、レイラは1人1人の目を見て言葉を返した。
「色々手間をかけたわね、ありがとう。助かったわ」
そしてレイラはふわりと笑みを浮かべる。
思わずドキッとしてしまいそうな艶のある笑顔に、この場にいた全員の視線を釘付けになったのは言うまでもない。
そんな様子を見ていて胸がチクリとするような、何とも言えない気持ちになった俺は、ぶっきらぼうにメンバーたちに言い放つ。
「……これで満足だろ?早く部屋に戻れよ」
すると、他のメンバー達は俺のことを見て、ニヤつきながらゾロゾロと部屋を出ていった。
♦︎♦︎♦︎
先ほどの賑やかさから一転して、部屋が静かになると、俺は椅子にドサっと腰掛けた。
「騒がしかったな」
ソファーにちょこんと座っていたレイラが俺の方に振り返る。
そして、優しく微笑むと口を開いた。
「楽しかったわ。マオのお友達に会えて」
レイラはそういうと両手を上に挙げて背伸びをして身体をほぐすと、再び口を開いた。
「ふぅーっ!私はこんな風に賑やかに話をするの久しぶりだったから少し緊張したわ」
「レイラにだって、友人くらいいるだろ?」
「ふふっ、いたら何か変わってたのかもしれないわね」
レイラはそう意味深なことを言うと、少し悲しそうに微笑んだ。
俺は気になったが、きっと言いたくないことなのだろうと思い、深く追求することはなかった。
そしてしばらくして、リュウマの彼女、結子が部屋にやってきた。
結子はニコニコしながらレイラの元へ行く。
「初めまして、結子です。レイラちゃんだよね?リュウマから話は聞いてるよ。今日はよろしくね」
「えぇ、結子さん。こちらこそよろしく、レイラです」
レイラが微笑むと、結子が興奮気味に声を弾ませる。
「レイラちゃん、びっくりするくらい美人ね!服とかメイクとか選ぶの最高に楽しみだわ!あ、そうだ。マオから私のこと何か聞いてる?」
「いえ、何も」
「ちょっと!信じられない」
結子が俺を睨む。
俺は確かに何も言ってないのは良くないなと思い、代わりに渋々口を開いた。
「えっと、結子はリュウマの彼女で俺とは幼馴染。仕事はスタイリストをやってる」
「何その、web検索の解説みたいな言い方!まぁそんな感じなんだけどさ」
「すたいりすと……?」
「あっそっか!もしかしたらレイラちゃんの世界にはなかった言葉かもね!えっと、スタイリストっていうのは簡潔に言うと洋服やアクセサリーとかを組み合わせて提案する仕事よ」
「素敵なお仕事ね」
「ふふっ、素敵なお仕事だなんて。ありがとうね。じゃあ、とりあえず私たちだけで買い物に行きましょ。代金は、マオに請求するから」
結子は俺にウインクした。
俺はいつものようにあしらいつつ、部屋から出るレイラと結子を見送った。