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悪女、交渉する

ただいま私は大ピンチに陥っていた。


これも全て、マオが幽霊の話をしたせいだ。

壁と家具の隙間から何か出てくるような気がして、私は怖くてたまらず布団に身を隠していた。

そして床に敷かれた布団は少し硬く、その上に浅い呼吸を繰り返す身体を丸めるようにして私は耐えている。


いつも強気に振る舞っているが、実は大の怖がりなのだ。

ほんのちょっと前まで幽霊の話なんて忘れていたが、ふと暗闇になり思い出してしまった。


初めての場所で1人。

それが怖さを助長する。


私はとうとう耐えきれず、枕を握りしめながら部屋を出た。

そしてマオの寝室まで来るとドアをノックする。



「ねぇ……マオ、起きてる?」



中から足音が聞こえ、ドアがゆっくりと開くと部屋着に着替えたマオが出てきた。



「どうした?」


「えっと……その……」



幽霊が怖いなんて子供じみたことを言うのが恥ずかしくなり言葉を濁す。

マオはドアに手を当ててこちらをじっと見る。

彼の三白眼気味の瞳が何かを察すると、意地悪そうに口角を少し上がる。



「なに?言ってくれなきゃわかんないよ?」


「……こ……、……ない」


「ん?聞こえない」



マオはこういう時少し意地悪な表情になる。

私は、恥ずかしい気持ちと悔しい気持ちがごちゃ混ぜになりつつ唇をキュッと噛む。

そして、理由をわかっていて聞いているであろうマオから目を逸らして言う。



「怖くて、寝れないの」


「ぶっ!やっぱりか。子供かよ」


「うるさいわね!マオのせいだからね、幽霊の話するから悪いのよ!」



私はマオを睨みつけた。

それをあしらうようにマオが部屋から出ると、私はその後をついて行った。

マオは暗くなっているリビングに明かりをつけ、私の方をチラリと見た。



「これで怖くない?」



私が頷くとマオはニヤリと笑う。

赤くなった顔を誤魔化すように、私は持っていた枕を抱き抱えてソファーに座った。


マオは距離を取るように、ダイニングテーブルの方の椅子に座っている。

そして手のひらサイズの四角いものに指を当てて何かしていた。

これもきっとこの世界の便利なものなんだろう。



夜の独特の静けさが部屋を包み込む。

その間、私は今日あった出来事を頭の中で思い出していた。

私は処刑を免れるために逃げていて、よく思い出せないが気づいたらこの知らない世界に来てしまったこと。

そこでマオに出会ったこと。

今日1日でいろいろあったなぁと考えているうちに疲れている身体は、だんだんと夜に身を委ね朝を迎える準備に取り掛かる。

気づけばこうして私はこのまま意識を手放していた。




そして目を覚ますと、ふかふかの布団が私の身体を包み込んでいた。

私は起きたばかりのぼんやりとした目で、キョロキョロと部屋を見渡すと、黒を基調としたおしゃれな家具が並んでいた。

ハッとマオの部屋のベッドであることに気づき、私は思わず布団の中をチラリと見て確認すると、乱れひとつない服が何もなかったことを物語っていた。


私は記憶を遡るが大して役にも立たず、おそらくソファーで寝てしまった私をマオが運んでくれたのだろうと推測した。


それから、部屋を出るとふわりとコーヒーの香りが漂ってくる。

マオはそれを飲みながらゆったりと手のひらサイズの四角い物を見つめていた。

そして、私が起きてきたことに気づいて顔を上げたマオと目が合った。



「えっと……昨日はありがとう。ベッドまで運んでくれたのよね?」


「ああ。どこかの怖がりなお嬢様のお世話は大変だったな」


「……貴方って意地悪ね」


「どこが?十分優しいだろ?」



そういうと、マオが意地悪そうに笑う。

とはいえども、昨日はわざわざ運んでくれた上に、布団より寝心地のいいベッドを譲ってくれるのだから彼はとても良い人なのだと思う。


そして、マオの三白眼気味の瞳が私をじっと見る。



「ところで、いつ出ていく?」


「……え?」


「うそだろ……このままずっと居座る気だったのか?」



マオは驚きの表情を浮かべている。

私はマオに専属の騎士として、ずっとそばにいてもらう予定だったので逆にキョトンとしてしまった。

私がいた世界では専属の騎士は、執事、メイドなどと同様に常に私の側にいてくれたので、一緒に住むのが当たり前だと思っていたからだ。


このままでは知らない世界に1人追い出されると思い、私は頭の中で策を巡らせた。

そして、悪女のように艶っぽく上目遣いでマオを見つめると、ねだるように甘い声で囁く。



「……ずっと一緒にいちゃダメ?」



免疫のないマオは顔を赤くして、クールな切れ長の目を逸らした。



「危うく、いいって言いそうになったがダメだ」


「……チッ」


「だから、本性表すの早すぎんだろ」


「ねぇ?なんでダメなの?」



私がマオのリアクションを完全スルーして疑問をぶつけると、彼は少し困ったような表情を浮かべて徐に口を開いた。



「仕事の都合上、一緒に住むのは大変だからな。かと言って、何も知らない世界に突然追い出すのは……確かに酷だよな」



そういって、マオは眉間に皺を寄せ考え込んでいた。

2人だけの静かな部屋に時計の針の音がタイムリミットを刻むように響いている。

私もこのまますぐにここを追い出されるのは色々と困るので、寝起きの頭脳をフル活用してマオが許してくれそうな最低限のラインを導き出す。



「はい!じゃあ、わかったわ!」


「ん?」


「私に仕事を紹介して!お金が貯まったら出て行くから。そしたらマオと私の専属騎士の契約もお終い!これでどう?」



マオはじっと私を見つめながら再び考え込むと、覚悟を決めたように口を開いた。



「わかった。じゃあ、俺が仕事紹介するからお金貯まったらそうしてくれよ」


「ありがとう、マオ!」



私は嬉しさ込み上げる笑顔でマオの手をきゅっと握ると、マオのクールな表情は少し崩れてほんのりと赤くなる。

こんなに女性に免疫がないなんて、今までどんな生活を送っていたのかと同情したいところだが、存分に利用させていたただこうと思う。


その気持ちが漏れ出しているのか、私の先ほどの純粋な笑顔は自然と悪女のような裏のありそうな笑顔へと変わっていた。

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