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その男、面倒見が良い

レイラが優雅にお風呂に入っている間、俺は空き部屋に布団を敷いていた。

それはまるで使用人のような働きっぷりで、普段の俺を知っている人からすれば信じられない光景である。


そして、この布団一式はたまたまこの前、メンバーが勝手に俺の部屋に持ってきたもので、まさかこんな形で役に立つとは思っていなかった。



俺が部屋の準備を終えてしばらくすると、レイラがお風呂から出てきた。

俺の持っていた比較的小さめの服をゆったりと着こなしている。

そして、ぎこちない手つきでびちゃびちゃになった髪を拭いてる姿がもどかしくなり俺はレイラに手を貸した。



「ちょっと椅子に座って、タオルを俺に貸して」



レイラは大人しく椅子に座って、くるりと振り返ると、まるで猫のようにツンとつり上がった瞳で俺を見つめた。

そして何も言わず俺にタオルを渡すと、背を向けた。

俺はその受け取ったタオルで、レイラの髪を挟み込みポンポンと水気を取っていく。


なんでここまでしてやっているんだろうと思いつつも、不思議と嫌な気持ちはなかった。

大人しく椅子に座って髪をタオルで拭かれている彼女がまるでペットのように思えてきて、心なしか少し可愛さを感じていた。

すると、レイラの透き通るような高めの声が聞こえてきた。



「手際がいいわね」


「アンタが不器用なだけだよ」



そうぶっきらぼうに返すと、レイラはくるりと振り返り、俺を見た。



「アンタじゃなくて、レイラでしょ?」



レイラはそういうと、俺が口を開いてそう呼ぶのを待っているかのようににこやかに微笑む。

俺は少し困ったような表情を浮かべつつ、仕方がないので彼女の求めている解答を口に出す。



「レイラ」


「なぁに?」



彼女は満足そうに笑みを浮かべながら俺を見つめる。

俺は何だか照れくさくなり髪を拭くことに集中した。



「アンタが……レイラが呼べって言ったんだろ」


「ふふっ、そうね。たいへんよくできました」



そういうと、レイラは再びくるりと振り返り、手を伸ばして俺の頭を撫でた。

まるで子どもの機嫌をとるかのような動きに俺の顔が赤くなる。

そんな俺の姿を見てレイラは揶揄うように微笑みながら口を開いた。



「ふふっ、マオって見た目は格好良いのに意外とそういうことに免疫がないのね」


「……余計なお世話だ。最近まで事務所から恋愛禁止の命令出てたから仕方ないだろ」



俺はそういうと、誤魔化すように自分の髪をくしゃくしゃと掻き上げる。

レイラはそんな俺をじっと見つめて、同情するような視線を向けた。



「じむしょっていうのはよくわからないけど、マオもいろいろと大変なのね」


「まぁな」



それだけ答えると、俺はレイラの髪の毛をブラッシングしながらドライヤーで乾かしてやった。


基本的にあまり他人と関わらない俺が、初対面のレイラにここまでしてやるなんて正直自分でも驚いている。

きっと、違う世界から来たレイラをただ放っておけないだけなんだろうと思う。


乾かし終えると、サラサラの艶のある髪をふわりと靡かせレイラが立ち上がり俺の方を向いた。



「マオ、ありがとう。あなたの髪は私が乾かしてあげるわ」



そういうと、レイラは悪戯っぽくふわりと笑った。

あんなに不器用に自分の髪を拭いていた彼女の冗談に自然と笑いが込み上げてきて、あえて俺はその冗談にのってやることにした。



「レイラ、よろしく頼むよ」


「ふふふっ……おまかせあれ」



レイラが自信ありげな表情を浮かべながらそういうと、2人の間に自然と笑いが生まれる。



ーーぐうぅぅ



お腹を抑えながらレイラが口を開いた。



「ねぇ……聞こえた?」


「いや何も?誰かさんの腹が減った音なんて全然聞こえてないよ」


「もう!聞こえてるじゃないっ!」



レイラが少し顔を赤くしながら、怒ってプイッと顔を背ける。

つい、彼女を見ると俺は揶揄いたくなる性分らしい。

それはきっとレイラのリアクションが自分の中でツボなんだと思う。


俺は、拗ねるようにしているレイラに向かって話しかけた。



「なんか、食べ物持ってくるから待ってて」



そう言って俺はキッチンへと向かった。

バタンと冷蔵庫を開けて、俺は中身を見つめて考え込む。

なぜなら、基本的にあまり自炊はしないので、俺の家の冷蔵庫はスカスカだからだ。

ふと、この前メンバーが来た時に忘れていったコンビニプリンが目に入った。

少し悩みつつも仕方がないので、そのプリンをレイラに持って行く。



「ごめん、これぐらいしかなかった」



レイラはテーブルの上に置かれたコンビニプリンに興味津々で、目を輝かせている。



「マオ、これってなに!?」


「プリン。そっちの世界にはなかった?」


「ないわ!早く食べたい」



俺が蓋を開けてやると、レイラは尻尾を振るペットのようにわくわくとした表情で甘い香りを楽しんでいる。

そしてスプーンを渡すと、さっそく一口プリンを口に運んだ。

彼女の目の輝きが先ほどの何倍も強くなり、全身から幸せオーラが溢れ出す。



「んんーーっ!これ最高ね!」


「それはよかった」



レイラは幸せそうな表情を浮かべながら、そのまま一気にプリンを食べ進める。

そして容器が空になると、レイラは満足そうな表情を浮かべ、俺と目が合ってハッとする。



「あっ……私だけ食べちゃったわね。次は、一緒に食べましょ」



そういうとレイラはスプーンを持ったまま幸せそうに微笑む。

その笑顔につられて、思わず俺の口角もふわりと上がった。

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