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悪女、妖艶に微笑む

マオとハルが仕事に行った後、私は千秋の提案でハルの部屋に来ていた。

千秋は慣れた様子で飲み物を用意する。



「それにしても、びっくりしたよ!」


「えぇ、私も驚いたわ」



そういうと、2人とも顔を見合わせて笑った。

それから私はマオの家に置いていた自分のお金で借りていたチケット代を返す。

しっかりと推しのために貯金していて良かったと実感する。



「ねぇ、レイラちゃん!ずっと気になってたんだけど、その指輪ってマオさんから貰ったもの?」



そういって千秋は私の薬指の指輪を指差した。

私が右手を少し前に出すと、薬指のピンクとオレンジの間のような可愛らしい色の宝石がキラリと輝く。



「ええ、マオがくれたものよ」



私がそう言うと、千秋は再び私の指輪をじっと考え込むように見つめ、口を開いた。



「これってもしかして、パパラチアサファイアじゃない?」


「それって何かしら?」


「この指輪についてる宝石の種類よ。私、こう見えてジュエリーショップで働いてるから意外と詳しいの」



千秋はそう言うと、誇らしそうな表情を浮かべる。

私も向こうの世界では魔宝石を作るために、色々な種類の宝石に触れていた方だが、あまり詳しくはなかった。

そして、私は指輪の宝石をじっと見つめながら口を開いた。



「その……パパラチアサファイアって?」


「いや、まぁ私の勘違いだったらいけないし……」


「ん?何か不都合な事があるの?」



私が不安そうな表情でそう聞くと、千秋は心配させないように身振り手振りでそれを否定する。



「気にしないで!悪い事じゃないから。ただすごく愛されてるなーって思っただけ。もし気になるならその石言葉を調べてみて」



千秋はそういうと優しく微笑んだ。

それからしばらく他愛もない話をしてこの日は別れた。

彼女も『Seven Summits』のファンなので、話しているとあっという間に時間が過ぎていった。

こうして好きなものを共有できる友人が増えて嬉しい気持ちになりながら、次は梨花子の店へと向かった。


木製のドアをゆっくりと開けると、カランカランという穏やかな音とコーヒーの香りがこの穏やかな空間を包み込む。

私はなにも変わっていないその店に安心していると、事前に連絡を入れていた梨花子が、私が入ってきたことに気づき店の奥から出てきた。



「レイラちゃ〜ん!おかえり」


「すみません、ご迷惑おかけしました」


「気にしないで、戻ってきてくれてありがとう」



目に涙を溜めた梨花子が私を抱きしめる。

そして、少しして身体を離すと梨花子が口を開いた。



「ねぇ、レイラちゃん。さっそくだけど、またうちで働いてくれる?」


「いいんですか!」


「もちろんよ!看板娘としてこれからもよろしくね」



梨花子が優しく笑うと、思い出したかのように再び口を開いた。



「あ、そういえば今日って真緒の誕生日よね?そういえば真緒が言ってたんだけど、レイラちゃんもーー……」


「えっ、あぁぁっ!すっかり忘れてた!梨花子さん、ありがとうございます。では、また連絡します。失礼します!」



早口でそういうと、私はポカーンとしている梨花子をよそにお店から出て行った。


私はいろいろバタバタしていてすっかり忘れていた。

自然と足が早くなる。

マオの方が先に帰ってきてしまっているのではないかとビクビクしながら、私は慌てて家のドアを開けた。



幸いにも家には誰もおらず、誕生日会の準備に取り掛かる。

しかし、パニックになって慌てて帰ってきたので、肝心のケーキすら用意できていないことに気がついた。

どうしようと迷っているとドアが開く音がした。


ぎりぎりマオの誕生日に間に合うようにこの世界に戻って来られたにもかかわらず、何もできなかった悔しさから、私は目に涙を溜めてテーブルに突っ伏した。


そして、部屋の中に入ってきたマオがその様子に驚き慌てる。



「……レイラっ!どうした?何があった?」



そう言ってマオは優しく私の肩を抱いた。

私は顔をゆっくりあげて口を開く。



「……ぐすっ……ぐす……推しの誕生日……忘れてた」



私は悔しさのあまり涙をこぼしていると、それを見てマオは吹き出す。



「……ぶっ!それって俺の誕生日のこと?」



私が頷くと、マオは更に優しく抱きしめながら私の頭を撫でた。

自分の不甲斐なさに落ち込みながら私は口を開く。



「マオ〜……ごめんなさい……」


「俺はレイラがいてくれるだけで幸せだから」



そういうと、泣き顔の私を見て微笑んだ。

私もつられて笑顔になると、涙を流した後の鼻にかかったような声で話しかける。



「マオ、私いまからケーキ買ってくるから……」


「待ってレイラ。俺、ケーキ買ってきた」



私は自分の誕生日ケーキを用意しているマオを少し不思議そうに見た。

すると、私のその表情を見てマオは優しく微笑み、そっと私の耳に顔を近づけると甘く囁いた。



「レイラ、誕生日おめでとう」



そう言われて、私は幼い頃マオと話した記憶がほんのり蘇ってきた。

公園のブランコに乗りながら、実は同じ日に生まれていたという話をしたときのことを。


マオがそんな些細な事を思い出してくれたのだと思うと、再び涙が込み上げてきた。

そんな私の頬を伝う涙を優しくマオが拭う。



「ありがとう、マオ」



私が泣き顔で笑うと、そっとマオがキスした。

そして、マオがポケットから少し古くなった手紙を出した。



「これ。最後に会うはずだったあの日、公園で俺が渡そうとしていた手紙。レイラのことを思い出した時に、この手紙のことも思い出して、実家に帰って探してきた」



そう言って恥ずかしそうに笑う。

まるで、それは少年の初恋のように初々しい表情だった。


私も向こうの世界から戻ってきた時に持ってきていた手紙の存在を思い出し、部屋に取りに行く。

他の荷物は忘れてきてしまったが、これだけは一緒に持ってきておいてよかった。

そう思いつつ、私はピンクの可愛らしい封筒をマオに手渡した。



「あの日渡せなかった私の手紙よ」



そう言って私はにっこりと微笑むと、マオは少し驚いたような表情を浮かべた。



「レイラも書いてたんだ……」


「ふふっ、奇遇ね」



そしてお互い顔を見合わせる。

少し甘酸っぱいその表情はあの頃の思い出の2人に重なる。


私がこの世界に来た日、マオに拾われて気づいたこの気持ちは、ずっとその前から存在していた。


しかし運命という名の悪女に弄ばれた私たちは、彼女の気まぐれで再び出会い、また恋をした。


そして、私はもう一度マオを見つめて呟く。



「ねぇ、マオ。愛してるわ」


「俺も」



妖艶に微笑む私を受け入れるように、マオは優しくキスをした。



《おしまい》

本編完結です。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

まだまだ未熟で読みにくかったかもしれません。

ごめんなさい…

本当に書くのって難しいですね泣

お手柔らかにお願いします。

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