悪女、甘い時を過ごす
私の身体が抱きしめられていた腕からゆっくりと離れる。
改めて私はしっかりとマオを見た。
昔より更に私を甘く見つめる三白眼気味のクールな目元と、少し筋肉質になった身体、帽子から見える伸びた金色の髪が月日の流れを感じさせる。
すると、マオが不思議そうに口を開いた。
「ねぇ、なんで家にいなくてこんなところに?」
「いや、行こうとしたのよ。でも、鍵もなにも持ってなくて入れなくて……」
「ぶふっ!確かにそれは入られないな」
そう言って笑うと、私もつられて笑顔になる。
そしてマオはもう離さないと言わんばかりの真剣な表情で私を見つめた。
「レイラ……一緒に帰ろう」
「私こんな格好だし、目立つから時間ずらして……ね」
「無理。一瞬も離れたくない」
私は子供のように駄々をこねるマオの頬を撫でた。
見た目は少し変わっていたが、変わらないそんな彼の振る舞いに私は安心する。
そして、自然と笑顔になる。
「こらっ、わがまま言わないの」
「はぁ……わかったよ。でも、夜道は危ないからレイラが先に帰って。なるべく早く俺も帰るから」
そう言ってマオは私の短くなった髪を優しく撫でた。
♦︎♦︎♦︎
私が先に家に帰りドアを開けると、マオの香りが出迎える。
中は昨日まで一緒に生活していたのかと思うほど、私が消えた時とほとんど変わっていなかった。
そんな部屋の様子を見て、この世界に帰ってきたんだと私が実感していると、帰ってきたマオに後ろから抱きしめられた。
どこか安心するような彼の香りに包み込まれる。
すると、私の顎下の短い髪を確かめるようにマオが触る。
「この髪型、よく似合ってる」
「ふふっ、ありがとう」
そして後ろから抱きしめたまま、マオは私の肩に頭を置き、噛み締めるように呟いた。
深く何も聞いてこないところがマオらしい。
いつか話そうと思っていると、一層強い力で抱きしめられた。
「本当に長かった……。早く会いたくてたまらなかった」
「ごめんね、マオ。これでもあっちの世界で数日で解決してきたのよ」
「……はっ?あの別れから数日しか経ってないってこと?」
それを聞いて項垂れるようにため息をつくマオの頭を、私は慰めるように撫でた。
金色のあの頃よりも長くなった髪が私の指を滑り落ちる。
「なんか異世界に転移するとき、時間の流れが違うみたいでこうなったみたい。待たせてごめんね」
「そっか……まぁ仕方ない。でも、レイラがずっと寂しい思いをしていなくてよかった」
そういって私の方を見て、マオは優しく微笑んだ。
私はその表情を見てドキッとしつつも、この世界に戻ってきて不安に思ったことを口に出した。
「私もこの世界に戻ってきた時、1年近く経ってるって知って、マオが私のこと忘れてないかとか……他に好きな人ができてないかとか本当に心配したんだから……」
私のその言葉を聞き、マオから冷たい怒りのようなオーラが漂う。
予想外の反応に私がびっくりしていると、マオは抱きしめていた私の背中をくるりと回転させて、私を向かい合わせた。
そして、しっかりと私の目を見つめてゆっくりと口を開いた。
「……そんなのあるわけない。俺はずっとずっとレイラのことが好きだったんだ。月野玲良として出会った時からずっと」
私はその名前を聞いてハッと驚く。
それは、あの時の彼しか知らない私の名前。
「マオ……」
私の目にうっすらと涙がたまる。
マオはそんな私を優しく抱きしめた。
「その様子だと、レイラも子供の頃俺と出会ってた時のことを思い出したんだな」
私は黙って頷いた。
そして、改めてあの日のことをマオに謝った。
「覚えてる?私が転校するときに公園で待っててって約束した日のこと」
「ああ、もちろん。でもレイラは来なかった」
「本当にごめんなさい。私ってあの頃からマオのこと待たせっぱなしね」
私が申し訳なさそうにそう言うと、マオが慰めるように頭を優しく撫でた。
そして、私はあの日異世界に連れてこられたことや、黒猫の力で一時的に戻って来れたこと、あの世界に自分の1番大切なものを代償に拘束されていたことを話した。
ついでに、髪が短くなった訳とこんな派手な格好でこっちの世界に戻ってきてしまったわけも話しておいた。
マオは一通りその話を聞き終えると、気になった様子で口を開いた。
「……ちなみに、そのレイラの1番大切なものって何だったわけ?」
私は口が裂けてもマオの前で、貴方に対しての初恋だったとは言えず黙り込んだ。
マオは不思議そうに見つめる。
私はその視線に耐えきれず、口を開く。
「……秘密よ。忘れなさい」
まだ言ってもないのに恥ずかしくなり、私の顔は赤くなる。
そんな様子を見て、マオは意地悪そうにニヤリと笑った。
「なんでそんなに恥ずかしがってるの?ますます気になるんだけど?」
「気にならなくていいからっ!」
私がそう言って離れようとすると、マオはそうはさせないといった様子で私の手をグッと引いた。
「……じゃあ、言う気になったら教えて」
そういうとマオは意地悪するように不意に私の首筋に舌を這わせた。
思わず甘い声が漏れる。
慌てて私がその首筋を手で押さえると、マオはその様子を見てニヤリと笑い、今度は近くの壁にそっと私を押し付けた。
つぎは邪魔をさせないように、マオは私の両方の手を握り壁に押し当て、唇にキスをした。
甘くとろけるようなキスに何も考えられなくなってしまう。
唇を離すと、マオは言った。
「そろそろ言わないと……全部食べられるよ?」
マオはそう言って、余裕のある表情で微笑みながら私を見つめた。
私は彼の甘い熱に当てられてぼんやりとしながら、諦めて口を開いた。
「……初恋よ。あの時から私はマオに恋していたの」
それを聞いてマオは顔を赤くする。
私も恥ずかしくなり、それを隠すようにマオに身体を預けた。
彼は優しくそれを受け止めると耳元で囁く。
「ねぇ……レイラ。そんな可愛いこと言われて耐えられるほど、今の俺は余裕ないよ」
そう言って甘く熱い視線を向けられると、私は思わず目を逸らした。
そんな私を気にすることなく、マオは抱きかかえて熱いキスを交わしながら、ベッドルームへと運ぶ。
そして、私を優しくベッドの上に横にして白いドレスに手をかけた。
ギシッとベッドの軋む音が部屋に響く。
マオは壊れ物を扱うような繊細な手付きで、それをゆっくりと脱がせていく。
「……ウエディングドレス着た時の練習みたいだな」
「ちょっと!その時も脱がす気?」
「……ダメ?」
そう言ってお互い見合って笑い合う。
そして、再び見つめ合うと2人の間に甘い時間が流れた。




