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その男、再び拾う



「マオーーっ」



俺がずっと聞きたかった声がきこえる。

ほんの一瞬だった。

その声はすぐに他の声援に飲み込まれるように消えていく。


ただ俺には、それでも十分だった。

思わず足を止めて聞こえた方の周囲を見渡す。

目の合う観客にファンサービスしながら、その姿を探した。


すると、ふっと俺の目が止まった。


短い艶のある黒髪に白い肌が映え、猫のような瞳が遠くから俺を見つめている。

そして、ぎこちなくペンライトを振る。

わかっていてか俺のメンバーカラーの白い艶のあるドレスを着ている彼女はとても美しかった。

その姿はもはや俺の夢かと思うほどだった。


一瞬だけだが目が合った時、離れている距離も他の人の声さえも気にならない2人だけの世界のように感じられた。


俺は彼女のいる方向から視線を無理やり離すとステージに向かって歩き出した。


いつ戻ってきたんだろう。


なんでここにいるんだろう。


なんで髪が短くなってるんだろう。


相変わらずドレス姿で目立ってるし、綺麗すぎるし。

聞きたいこと、言いたいことがたくさんある。


そんなことを思っていると自然と俺の目に涙が溜まり、視界がぼやけていく。


1番最後にみんなの集まるステージに合流すると、メンバーが何があったのかと言わんばかりの表情で俺を見た。

なので、俺はこっそりと伝えた。



「……レイラがいた」



みんなも進行に影響がない程度に驚きの表情を浮かべる。

そして、最後のパフォーマンスの立ち位置でスタンバイしていると堪えきれない涙が一筋溢れた。



♦︎♦︎♦︎


ライブを終えてみんなで集まって楽屋に戻るとき、ショーンが真っ先に俺の方にきてこっそり話しかけた。



「マオマオ、レイラちゃんがいたって本当?」



俺が黙って頷くと、ショーンは優しく笑いかけながら俺の背中を叩いた。



「よかったね。今日は早く家に帰りな。最終日だけど……まあ、どうにかなるでしょ!あとは何となく誤魔化しておくからさ」


「ショーン……。ありがとな」


「いえいえ、貸しだよ」



そういうと、ショーンは冗談混じりでニヤリと笑う。

俺もその笑顔につられて、目に涙を溜めながら笑った。




それから、俺はすぐタクシーに飛び乗ると家へと向かった。

赤信号に引っ掛かるたびに外の景色を見て、早く帰りたい気持ちを紛らわせる。


ふと、結子が写真を持ってきた日のことを思い出す。

俺はあの日、写真にうつったレイラを見て昔のことを思い出した。

なんであんなに大切なことを忘れていたんだろうと思うほど、俺は後悔した。


そして気づいた。


誰かを心配したのも、一緒にいたいと思ったのも彼女が初めてだった。

幼いあの日の俺はレイラに初めて恋をした。


そしてそれを忘れた頃に、何らかの因果が俺たちを引き寄せ、彼女は再び俺の前にやってきた。

それは、まるで運命の赤い糸で繋がっていたかのように。


俺はもう絶対彼女を離したくない。

いや、離さない。

この先もずっと彼女との未来を歩んでいく。

そう決心していると、タクシーの運転手の声で我に帰った。



「お客さん〜着きましたよ!」



俺は精算を終えて、車から出ると足早に部屋へと向かった。

今日こそきっと彼女が待っているだろう。



そう思って部屋に入ったが、真っ暗だった。

人のいた形跡もない。

朝、家を出たときと変わらない姿の部屋だった。


俺はうなだれる。

きっとあれは俺がレイラに会いたいがあまりに見た幻覚だったのだと、深く落ち込んだ。


今までも夢の中でレイラを見ることはあったが、今回みたいにリアルな彼女を見たのは初めてで浮かれすぎていた。


誰もいない部屋は静かすぎて、更に俺の気持ちを落としていく。

ソファーに項垂れていた身体を起こし、その気持ちを紛らわすように部屋から出ていった。

俺は行くあてもなく、よく仕事の前後で昂った感情を抑えるために行っていた公園まで来ていた。


夜風が俺を歓迎するかのように出迎える。

静かな夜に溶け込むようにぽつんぽつんと灯りが所々を照らしていて、じんわりと光を放っている。

そういえばこの公園でレイラを拾ったなと思い出す。

ここにもある彼女との思い出が俺の胸を締め付けた。


ふと、先を見ると珍しくベンチに誰かが座っていることに気づいた。


それは紛れもなく今日のライブで見た彼女だった。

俺は再び幻覚を見たのかと思い、そのままずっと近づくことなく遠くから見ていた。

すると、幻覚だと思っていた彼女がベンチから立ち上がり、くるりと振り返ったのだ。


月明かりに照らされて、顎下あたりの短く整えられた黒髪がキラキラと輝いている。

白いドレスがふわりと舞う。

そして、俺のことに気づくとあの日と変わらない笑顔が俺に向けられた。



「マオっ!」



その懐かしい声を聞くと、自然と俺は彼女の元に駆け寄っていた。



「ーーレイラっ!」



俺はそれが実体か確かめるように抱き上げた。

驚きの表情とともにレイラがふわりと微笑んだ。

そして少し恥ずかしそうに頬を赤く染めると、熟れた果実のような可愛らしい唇から言葉が出る。



「ただいま、マオ」



そう微笑む彼女は間違いなく実物で、俺は気持ちのままに優しく彼女の唇にキスをする。

それは全くリスク管理のできてないありえない行動だが、ずっと待っていた彼女を前にそんなブレーキなど効くはずもなかった。

そして、唇を離すとレイラはふわりと恥ずかしそうに微笑んだ。

俺はその姿が愛おしく、更にしっかりと抱きしめる。



「おかえり、レイラ」



俺は再び彼女を拾った。

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