悪女、反撃する
私は気づいたら木の下に横たわっていた。
目の前には男が1人立っている。
ミディアムヘアの金髪で背は高い。
目元がシュッとしていて、三白眼気味の瞳は不思議な魅力を放っていた。
男の名前はマオというらしい。
彼は私がいた向こうの世界と違う言葉を話していたが、何故か私はそれを理解できた。
そしていろいろ話していてわかったが、どうやら、私は違う世界に来てしまったようだ。
まぁ、もともと処刑されるのを回避するために逃げていたので私にとっては都合の良い展開だった。
頼るあてもないので、マオを私の騎士になるよう命じた。
戸惑うような表情をしながらも彼はいろいろ手助けしてくれている。
そして今、私はマオの家に来た。
私が変わった城だと思っていたマオの住んでいるところは、多くの部屋が集まった建物らしく、何人もの人が住んでいるのだという。
それから、この世界には魔道具のように便利なもので溢れていた。
私の住んでいた世界と効果が似ているものもあるが、初めて見るものもたくさんあった。
「ねぇ?マオ?この板みたいなものはなに?」
ガラスのような黒っぽい板に自分が反射して映る。
すると、突然板が明るくなり思わず声を上げた。
「な、なに!板の中で人が動いてるわ」
「ぷっ、面白いな。あっ!気をつけておかないとその中から人が飛び出してきて中に連れ込まれるぞ」
「えっ、危ないっ!」
私は、その板に当てていた手を慌てて離す。
そしてマオを盾にするように後ろに隠れた。
マオの後ろから、恐る恐るその板を再び見る。
マオの背中が小刻みに震えると、耐えきれなくなった笑い声が口から漏れる。
「……マオ、私で遊んでるでしょ。もう信じられないっ!」
「ごめん、ごめん……ぶふっ」
マオは思い出し笑いを堪えきれずに吹き出す。
私は近くにあったソファーに腰掛けた。
そして、不満げな表情を浮かべながらマオを見る。
クールな目元が柔らかになる。
そして、ひとしきり笑い終えた様子で彼の三白眼気味の瞳が私を捉えた。
「笑いすぎよ」
「本当にアンタ面白いね」
「ふん、アンタじゃないわ。レイラって呼びなさい」
私は先ほどの仕返しと言わんばかりにマオにきつい口調で言いつける。
私はソファーに座ったまま、マオと目を合わせることなく傲慢そうに振る舞った。
すると仕方なそうにマオはボソリと私の名前を呟く。
「……レイラ」
「はいはい、そしてほら跪いて!早く」
「はぁ……」
少し怠そうにそういうと、マオがソファーに座る私の前に膝をついてこちらを見つめる。
それはまるで不思議な魅力の漂う王子様のように絵になっていた。
思わず見惚れていると、マオが再び口を開く。
「……いつまでこうしてたらいいんだ?」
「はっ!もう満足よ」
我に帰った私は満更でもない表情を浮かべながらマオの手を取った。
そして、手を借りながらソファーから立ち上がるとマオが口を開いた。
「一応、ついでに部屋案内しとく。入っちゃダメな部屋は特にないから」
そういうと、マオは一通り部屋を案内してくれた。
1番広い部屋がリビングらしく、それ以外に2部屋あった。
1つはマオの寝室で、もう1つは空き部屋らしく使っていなかったのでそこが私の部屋になった。
その他に、キッチンやお風呂やトイレなどいろいろ教えてくれるマオは案外面倒見がいいようだ。
「じゃあ、とりあえずお風呂にでも入ってきたら?疲れてるでしょ?替えの服は俺の使っていいから」
そう言って、マオから服を手渡された。
ふかふかの手触りが心地いい。
「いろいろ助かるわ。ありがとう」
私は思わず笑みが溢れる。
久しく誰かに優しくしてもらうことなどなかった私は、彼の優しさで心が少し温まった。
そんなマオを見ると彼のクールな切れ長の目が優しく緩んでいた。
「マオの笑っている顔、とても素敵ね」
私は思ったことをふと口にしていた。
マオは顔を赤くしながらそっぽを向くと、金色のミディアムヘアがふわりと揺れる。
私は彼の反応が少し面白く、先ほどの反撃と言わんばかりに私も思わず揶揄いたくなった。
後ろを向いているマオの耳元に顔を寄せると、囁くように呟いた。
「あら……照れちゃったの?可愛いわ」
マオはバッと耳を抑える。
くるっと顔が振り返り、三白眼気味の瞳が少し睨むように私を見つめた。
そんな彼の様子を見て、私は完全勝利と言わんばかりに、悪女のように妖艶かつ誇らしげに微笑んだ。