悪女、国の事情を知る
私は謝罪を受けた後、自分の持ち物を探してここまで戻ってきたとルートに話した。
すると、彼は何か思い出したかのように口を開いた。
「レイラ様のことは私がいろいろと任されていたので、おそらくこれだろうと思うものがあります。ついてきて下さい」
そういって、ルートは奥まった場所へと進んでいく。
そして、魔法で厳重に管理されていた箱を開けると、その中には赤い鞄のようなものが入っていた。
「たしかこれが、レイラ様がこちらの世界に来られた時に背負っていた鞄だそうです」
私はその赤い鞄に触れる。
その途端、私の中で何かが起こった。
私は使い慣れたもののようにその鞄を開けて中を見ると、ノートのようなものを見つけた。
そして、その表紙には拙い字で見覚えのある文字が書いてあった。
『月野 玲良』
それを見て蓋をされていた記憶が少し蘇ってくる。
私は思い出した。
月野 玲良
これが本当の自分の名前だということを。
それからルートに、誰も入ってこないように扉の外で警備をお願いすると、彼は部屋から出ていった。
私がその名前をじっと見つめていると、先ほどまで置き物かのようにじっとしていた黒猫が話しかけてきた。
『ねぇ、レイラ!あの部屋……』
「ん?部屋?どこ?」
そう言われて更に奥へと進むと、何か気になるものを見つけた。
「黒猫ちゃん!これって……」
『隠し扉だね。そして魔法がかけられているみたい』
そう言って黒猫が触れようとすると、バチンと火花が散った。
私は少し飛ばされた黒猫に駆け寄ると抱き上げた。
『……僕は触れないみたいだ』
すると、中から声が聞こえてきた。
『……けて……たすけて……たすけ……て』
「誰かいる!」
私が声を上げると、黒猫は目を見開く。
『レイラ!ここに僕の仲間たちがいる……』
黒猫は怒りを滲ませながら苦しそうな表情を浮かべていた。
私はとりあえず、中にいる仲間たちを助けるために抱いていた黒猫を床に下ろした。
「ちょっと待ってて、私がやってみるわ」
そういうと、私は辛うじてわかるくらい透き通ったドアノブに手をかけた。
私はその扉に触れることはできたが、扉が動く度にだんだんと手が焼けるように熱くなる。
あまりの痛みに思わず手を離してしまいそうになるが、ここで離してはせっかく開きかけていた扉が閉まってしまうので、私はグッと堪えた。
だんだんと扉が動き、中との隙間が見えていくにつれて、ドアノブに触れている私の手から焼けるような音と蒸気が吹き上がる。
『レイラ、やめるんだ!これ以上は君が危ないっ!』
私の額から汗が流れ、痛みで意識が朦朧としてくる。
そして手からは血が流れ落ち、床にポタポタと赤いシミを付けた。
『レイラっ!やめて!』
「……黒猫ちゃんの……大事な仲間が……いるかも知れないんでしょ……助けなきゃ」
私は精一杯の力を振り絞る。
手の感覚は全くないが、私は精一杯の力を振り絞ってゆっくりと扉を開けた。
すると、中からたくさんの生き物が溢れ出てきた。
私はおそらく全員が出てきたのを見届けたところで扉から手を離し、その場に倒れ込んだ。
『レイラっ!』
ぐったりと倒れた私の血だらけの手を見て黒猫が回復魔法をかける。
あまり効果がないようであまり変化はない。
『ちょっと、代わりなさい』
中から出てきた白い羽の生えた妖精が私の元へ来る。
そして、怪我をしている私に眩い光と魔力が降り注いだ。
すると、私の手はその光に包まれて元通りになる。
私は倒れていた身体を起こして先ほどまで血だらけになっていた場所をじっと見た。
薬指につけていた指輪の宝石がふわりと輝き、私はその手を開いたり閉じたりして驚きながら口を開いた。
「あれ?もう痛くないし、普通に動ける」
『ふふふっ、それならよかったです』
そういうと、白い羽の生えた妖精はふわりと引き下がった。
それを黒猫はチラリと見て言った。
『そりゃそうだ。妖精女王にしてみれば余裕だろ?』
「妖精女王!?」
『ふふふっ、ソフィアです。よろしくお願いします』
妖精女王と呼ばれたソフィアは優しそうな笑みを浮かべた。
そして、私が助けた妖精たちが集まるとソフィアが口を開いた。
『レイラさん、助けてくれてありがとう。私から代表してお礼申し上げます』
そういうと、ソフィアがゆっくりと頭を下げた。
「気にしないで。でも、どうしてこんなところに?」
『この国の王様たちに捕らえられていたんです。彼らはある日突然同盟を結びたいと私たちの住むところにやって来て、それを断ると無理矢理私たちを攫っていきました。そして、この部屋に閉じ込められたのです。何度か逃げようと試みましたが、妖精には触れられない魔法がかけられていて。しかし、まさか開けようとする人間にも苦痛を与えるほど強力なものとは……」
ソフィアは怒りと悲しみを合わせたような表情で言葉に詰まる。
そして黒猫が代わりに話す。
『仲間たちが攫われたとき、たまたま僕はそこにいなかったから捕まらなかったんだ』
「そうだったのね。でも、なんで王様たちはそんなことを?」
『おそらく、魔力の枯渇だと思われます』
ソフィアがそう答えた。
確かにそう言われてみれば、私が宝石に自分の魔力を込めて魔宝石を作っていた頃も心なしか切羽詰まっているように感じた。
そして、城の明かりも少し暗い気がする。
私がいろいろと考えていると、ソフィアが話を続けた。
『同盟を結びたいと言って私たちの元を訪れた彼らは、魔力の提供を要求してきました。以前から国全体の魔力量の低下が問題だったそうなのですが、異世界から大量に魔力を持つものたちを召喚することで成り立ってたそうなのです。しかし、その召喚は毎度上手くいくとは限らず、失敗を重ねるうちに膨大な魔力を失う羽目になったと』
「そうだったのね」
『……はい。そこで、彼らは私たち妖精のもつ魔力に目を付けたのだと思います』
思い返せば私やアイコ以外に大量に魔力を有する人はここにはいなかった気がする。
そう考えると、この国の魔力枯渇はかなり深刻だったのかもしれない。
そしてソフィアは悲しそうな表情を浮かべた。
『ですが、もともと私たちはどの国とも中立でいるべき存在だったので、魔力の提供を断ったのです。すると彼らは表情を一変させ、私たちを強制的に攫っていきました。不意打ちに魔力を封じられたため逃げることができず……。そして、彼らは同盟を結び魔力を提供するまで出さないと私たちを閉じ込めたのです」
「そんなっ、無茶苦茶な。ひどいわ」
すると、黒猫が横に来て口を開いた。
『それから僕は普通の黒猫のフリをしてこの城をうろちょろしながら、仲間たちを探すためにたくさん情報を集めていたんだ。だから、レイラのことも知ってたんだよ。そして、君が助けてくれたあの日も僕は仲間を探して城に来てたんだ』
「そうだったのね……」
『ありがとう、レイラ。みんなを助けてくれて』
心からそうお礼を言う黒猫を見て、私は怒りに震えながら声を上げた。
「ごめんなさい……貴方達の世界を壊してしまって。本当にごめんなさい」
『そんな、レイラさんは謝らないで下さい!あんな大怪我までして私たちを助けて下さったのですから』
そういうと、ソフィアはふわりと頭を下げた。
私はその姿を見ていて胸の奥から怒りが込み上げてくる。
そして私は決心して、ここにいる妖精たちみんなに話しかけた。
「あんな奴ら放置してはいけないわ。徹底的に……やりましょ」
そう宣言すると、私は悪女のような冷たい笑顔を浮かべた。
すると妖精たちは意外にも乗り気で一致団結して、出口の扉へと向かった。




