悪女、謝罪を受ける
あれから、私たちは途中の道で一晩過ごし、翌朝街へでた。
そして、どうせだったら切った髪も売っていこうと思い、たまたま近くにあった店で買い取ってもらった。
私は代わりに目立たない地味な服を仕入れると、それに着替えて、黒猫と共に馬に乗って城へと向かった。
門番が立っているが、黒猫の幻覚魔法で私たちは彼らの視界に入ることなく馬で走り去っていく。
『レイラ、馬を置いてこのまますぐに城の中を探しにいくよ!時間が経てば魔法の効果に誰か気づいてしまうかもしれないからね』
「ええ、すぐ見つけましょう」
そう言って私は見覚えのある廊下を歩いていく。
私だとわからないので、城の使用人たちは不思議がる様子もなくすれ違っていく。
私は悪女として避けられていたあの頃を思い出し、少し感傷的になりつつも目的の部屋へと向かっていく。
私が目星をつけている部屋は、いつも魔宝石を作って持っていった保管室のような場所だ。
そこにはさまざまな魔道具や骨董、高価な装飾品などが置いてあり、この城の重要そうなものが多く集まっていたからだ。
それから私と黒猫は、よそ見することなくその部屋の前まで来た。
扉には厳重に魔法がかけられていて、以前は付き添いの者がそれを開けてくれたが今回は誰もいない。
「ねぇ、黒猫ちゃんどうしよう。力ずくでいく?」
『レイラ……バカなの?無理に決まってるじゃん』
そういうと、黒猫は簡単に扉にかかっている魔法を解いた。
私は驚いて黒猫を見る。
「黒猫ちゃん、すごいわ!あっ……実は私の拘束されている魔法も解けちゃいます!なんてことないわよね?」
『はぁ……前にも言ったけど一瞬ならどうにかなるかもしれないけど、解くのは無理だよ。僕にも出来ることは限られてるんだ』
「ですよね〜……。ん?そういえば、ひとつ思ったんだけど、黒猫ちゃんって何者なの?」
『えっ?レイラ、いまさら?僕は妖精だよ』
そう驚くように答えた黒猫に、私はそれ以上に驚かされた。
妖精なんて本で読んだことあるくらいで幻のものだと思っていたからだ。
その本には、妖精は人型のものや動物、昆虫など様々な形態を待ち、人間より遥かに多い魔力と魔法に対しての知識を有していると記してあった気がする。
そしてかなり長い時を生きていて、稀に特殊な能力を持つものがいるらしい。
確かに、そう言われれば全ての話が納得がいく。
私を転移させられるくらいの魔力の量に、魔法や転移に対しての知識、そして何より動物なのに私と話すことができるなんて妖精しか考えられない。
そういろいろと頭の中で思考を巡らしていると、黒猫の声で私は我に帰った。
『レイラ!とりあえず、今は時間がないから考えるのは後にして。先に中に進もう』
「そうね!ここまできて捕まるわけにはいかないわ。行きましょう」
そういうと私たちは中へ入っていった。
中は財宝で溢れかえっていて一目瞭然でここに宝があるということがわかる。
しかし、どれも乱雑に置かれていて何がどこにあるかわからない。
怪しそうな場所をガチャガチャと探していると、扉が開く気配がした。
それに気づいて、私たちは慌てて棚の隙間にかがみ込み身を隠した。
扉がゆっくりと開く音が部屋に響くと、足音がだんだんと私たちの方へ近づいてくる。
どうにか気付かれずに済むように心の中で祈ったが、足音は止まることも引き返すこともなく、身を隠す私のところまで来た。
すると、頭の上で聞き覚えのある少し低い声が響いた。
「レイラ様っ!」
私は棚の隙間でしゃがみ込み伏せていた顔をゆっくりと上げて、その声の方へ向いた。
「……ルート」
思わず私は彼の名前を呟いた。
その人物は、こちらの世界で私の専属の騎士を務めていたルートだったからだ。
魔法にも剣術にも優れているルートは、私たちの幻覚魔法をいとも簡単に見破った。
きっと彼は剣を構えて私を切り付けるか、捕らえるだろうと覚悟していると、予想外にも優しく温かみのある声が降りかかってきた。
「何故、貴女がここに……」
そういうルートを私は反射的に冷たく睨んだ。
しかし、彼は私の冷たい視線を受け入れるように頭を下げた。
私は想像していたのとは全く違う反応に驚いた。
なぜなら、ルートはあの時私を信じてくれず、ラインハルトやその他の人たちと同じように私に冷たい目を向けていたからだ。
私はそれを思い出し、彼の今の態度に動揺して言葉に詰まった。
そんな私の様子を見て、ルートは再び口を開いた。
「レイラ様……」
そして、彼はあの写真の事件前と同じように私に優しく手を差し出した。
しかし、私がその手を取ることなく冷たく目線で拒否すると、彼はその手を自分の方に戻して、両膝をついた。
「レイラ様……大変申し訳ありませんでした」
そう言うと、彼はポツポツと言葉を出し始めた。
私はそれに目を合わせることなく耳だけ傾ける。
「あの時、レイラ様が違うと否定されていたのに……俺は信じなかった。専属の騎士だったはずなのに……貴女を守るどころか傷つけた」
そんなルートに目線をやると彼は後悔するように、項垂れたまま話を続けた。
「そして、それが嘘だということに気づいた頃にはもう遅く。……レイラ様の姿はありませんでした。」
「えっ?嘘だと気づいた?」
私は思わずルートの話に反応すると、彼は苦虫を噛み潰したような表情で私の方を見た。
「はい、そうです」
「なんで……嘘だとわかったの?」
「それは、私がアイコ様の裏の顔を見てしまったからです」
そして、ルートは真剣な表情で話しを続けた。
「私がある日夜間の警備をしていた日でした。そこは庭の木々に囲まれた人気のないベンチテラスで、男女が熱く口付けを交わしているのを目撃しました。最初は使用人同士かと思ったのですが、月明かりに照らされた女性の顔はアイコ様だったのです」
「えっ……!」
「もうすでにアイコ様はラインハルト様の婚約者となっていたときだったので、私は彼女に疑心感を抱きました。そして、定期的に私は彼女の行動を監視するようにしたのです。すると、彼女は部屋を抜け出して頻繁に男たちと会っていました。私はその男たちはどことなく見覚えがあったような気がしたのですが、最初はよく思い出せませんでした。しかしある時ふと、最初にレイラ様が非難されるきっかけとなったあの写真が頭に浮かんだのです」
ルートは悔しそうに、そして申し訳なさそうに話を続ける。
「私は保管されていたあの写真を見つけました。よく見ればわかったはずなのに……。あの写真は魔法で加工されていました」
「アイコよ。あれは彼女が作ったの、直接聞いたわ」
ルートはそれを聞いて、ハッとした顔をした。
そして申し訳なさそうに頭を下げると話を続けた。
「それをラインハルト様にお伝えしたところ、全く信じてもらえませんでした。そして、その後アイコ様がいなくなられたのです」
「はぁ……ほんと厄介なタイミングでいなくなったのね、あの女」
「……はい。彼女がいなくなったことに関して、やはり疑いの目がレイラ様に向いていました。私はその疑いを晴らそうと、ラインハルト様の部屋に向かったのです。すると……部屋の扉がうっすらと開いていて、中には現在の王様であるラインハルト様のお父様も一緒にいらっしゃることがわかりました。そして私が少し開いた扉の向こうにいることに気づかなかった彼らは……」
ルートは言いにくそうな表情を浮かべる。
私はそんな彼に声をかける。
「ちゃんと話して頂戴。私は何を聞いても大丈夫だから」
そういって私はじっとルートを見つめると、彼は黙って頷き話を続けた。
「『レイラはもう魔力を全て使い切ったから用済みだが、処刑前に少し遊んでやるか』や、『それにしてもアイコにも逃げられるなんて予想外だ。気に入っていたからもっと手元に置いておきたかったが、仕方ない。魔力も底をついていたし、早く他にも魔力を豊富に持つ女を連れてこないといけないな』など、2人は俺が聞いていないと思って言いたい放題でした。私はそんな彼らにも疑心感を抱きました」
そう言ってルートは後悔するように、グッと唇を噛み、再び頭を下げた。
「私は戦うべき相手に刃を向けずに、事実無根のレイラ様を傷つけてしまいました。そして、今思えばレイラ様は、悪女のように振る舞っておられましたが、本当に人を傷つけたりされることはありませんでした。私は長らくそれに気付けなかった……。専属の騎士として失格です」
そういうルートの肩を私は軽く叩いた。
「頭を上げて、ルート。貴方はもう私の騎士ではないわ。もっと強くなりなさい、そして今度は沢山の人を守ってあげるのよ」
そういうと私はルートに向かって優しく微笑んだ。
ルートは涙を堪えるように返事をすると、再び頭を下に向けていた。




