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悪女、髪を切る

あの日の出来事を思い出した私は頭を抱えていた。



「ねぇ、黒猫ちゃん……私すっかり忘れてたわ」


『嘘でしょ……レイラ……』


「ごめんなさい!……ねぇ?もう一回戻してくれない?お願いっ」



私は胸の前に手を合わせてお願いする。

黒猫は冷たい視線私に向けて言った。



『無理だよ!その拘束してる強力な魔法を無効にして君を転移させるのは、さっきの10分が限界!ここまで一気に魔力を使いすぎると体がもたないよ。その上、僕の分身を使って近くの人に君のところまで案内してあげたんだから感謝して欲しいくらいだよ!』


「そうなのね。……って、10分しか経ってないの!?あっちの世界だともう何ヶ月も経ったのに」


『あれ、言ってなかったっけ?異世界へ転移する時って、時間の流れが違うんだ。こっちでは1日しか経ってなくてもあっちの世界じゃ1年経ってたとかもあるし、逆にこっちの世界で3年経ってて、向こうの世界で1時間しか経ってないとかも。正直時間の流れまでは僕も読めないからね。今回は、君の拘束してる魔法を無効にするのが10分が限界だったから自動的にこっちの世界に戻ってきたんだよ』


「へぇ……そんなことがあるのね。だから、あの時アイコが失踪した時とデビューした時期が合わなかったのか」


『ん?アイコ?』


「あっいや、何でもないわ。気にしないで」



私はあっちの世界にいるマオとの時間の流れの差に不安を抱きつつ、黒猫を見た。



『ねぇ、レイラ?本当に何も思い出さなかったの?』



私が申し訳なさそうに頷くと、黒猫が再び口を開いた。



『じゃあ、一か八かだけど城に戻る?』


「えっ……私に処刑されて来いと?確かに私がポンコツだったのが悪いけど……そんなのあんまりだわーーっ」


『……レイラ、落ち着いて』



騒ぐ私を黒猫は冷たく見つめた。

泣き真似をしつつチラチラと目線上げて様子を確認する私に、ため息をつきながら黒猫は話を続けた。



『そういう意味じゃなくて!城に保管されている君の私物を探しにいくんだ』


「私の私物?そんなのあるのかしら?」


『たぶん、あると思うよ。ほら今みたいにこっちの世界に来ても、服装とか持ち物はそのまま持ってきてるでしょ?』


「ああ、そうね!言われてみれば」


『それを見れば流石に何か些細なことでも思い出すんじゃないかな?』


「なるほど、いい考えね!じゃあ早速行きましょうと言いたいところだけどこの格好じゃ目立ちすぎるわよね……」



私は自分の格好を改めて見返す。

そして、しばらく考えて黒猫にお願いした。



「ねぇ、私の髪の毛魔法で切ってくれない?」


『えっ!その綺麗な髪を切るの?本当にいいの?』


「別にいいわ。だってこっちの世界じゃ、まだ処刑を免れるために逃げてるわけだし。あと、ただでさえこの格好で目立ちすぎるでしょ?そして、この髪を売れば目立たない服も少し買えそうじゃない?」



私は自分の長い髪を片側に纏めて肩から下ろす。

手入れの行き届いた真っ黒な夜空のように綺麗な髪は、僅かに星のような輝きを放っていた。



『う〜ん、そうだね!じゃあ、いくよ!』


「ええ!バッサリといっちゃって!」



そういって目を瞑ると、頭がふわりと軽くなった。

そして、構えていた自分の両手にその艶やかな黒髪がバサリと落ちる。



「おおお!」



あまりの頭の軽さに私は感激しながら目を開け、確かめるように顎下まで揃えられた髪を触る。



「ねぇ、どうかしら?」


『すごくいい感じだよ!ちょっと待って、あと綺麗に整えるから』



そう言って黒猫は私に再び魔法をかけた。

すると、私はふとあることに気づく。



「ねぇ……黒猫ちゃん、ちょっと待って!」


『どうしたのレイラ?』


「魔法……そもそも魔法が使えるなら幻覚魔法でどうにかすればよかったじゃない!」


『あっ……』



気まずそうに黒猫が私を見つめる。

魔法のない世界にしばらくいたせいか私はすっかり忘れていた。

高度な幻覚魔法を使えば髪型も服装もどうにかなるので、私は髪を切る必要もなかったのだ。

私はじっと黒猫を見た。



『で、でも!よく似合ってるよ』


「こんなに短くなって、元の世界に戻ったときマオが気づかなかったらどうするのよ!」



私はそう騒ぎながら黒猫を揺さぶる。

すると、黒猫は口を開いた。



『マオが誰だかわかんないけど……この髪型の方が前の髪型より、ずっとレイラらしいよ!まぁそんなことで気づかない奴は君には相応しくないんじゃない?』



私は黒猫の方をじっと見る。

そして、声を出して笑った。



「あははっ!そうね、これくらいで気づかないならその程度だったってことよね。ありがとう、黒猫ちゃん」


『レイラが単純で良かった……』


「ん?何か言った?」


『いや、何にも!」



私は黒猫を抱きしめると、再び歩き始めた。


そしてその足は私がかつて悪女となった場所に向かっていた。

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