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その男、深く愛する

それから、俺は飛行機に乗ってMVの撮影地へと向かう。

移動の間はひたすら眠っていて気づいた頃には到着していた。


空港に降り立つと、どこから情報が漏れたのかわからないが多くのファンが出待ちしていた。


基本的にそういう行為は禁止されているはずなのだが、態度に出すわけにもいかず、可もなく不可もなくな感じで移動する。

すると、いつも以上に俺を見つめるファンの人たちがうっとりとした表情で小さく歓声を上げていることに気づいた。


俺はその様子に少し気になったが、スルーして待機していた車へと乗り込んだ。



それから後から乗り込んできたショーンが俺の隣に座り、話しかけてきた。



「マオマオ、ずっと寝てたね。寝不足?」


「いや……別に」



俺は、昨日のレイラとのことを思い出す。

正直彼女のことに関してはブレーキが効かない。

レイラのいろいろな表情が見たくて、時間の感覚も恐ろしくなくなってしまう。

そして結果的に次の日バイトだと言っていた彼女を寝不足にさせてしまい、かなり反省している。


ショーンは俺の表情から何か察したように咳払いをする。



「マオマオ、本当表情に出てるよ」


「えっ、何が?」


「……色気が凄い」



ショーンはまるで車内に煙が充満しているかのように振る舞い、俺を揶揄う。

そんなやりとりを聞いて、前にいたハルが振り返った。



「僕もそれ思った!ファンの子たちもうっとりしてたし」


「俺たちのグループ色気担当いないから丁度いいな」



赤髪の短髪で1番男らしいリュウマが揶揄うように俺に言うと、車内がメンバーの笑い声で包まれた。




♦︎♦︎♦︎


その後無事にMVの撮影を終え、帰国の準備をする。

普段は人目を気にしてあまり買い物などもできないが、比較的この国では派手に騒がれることもなく緩く自由時間を過ごすことができた。


帰国の準備をしていると、俺は自由時間の時に買った大事なものを忘れないようにスーツケースの中にしまい込む。

その様子を見ていたメンバーたちがニヤニヤと俺に視線を向けた。



「……なんだよ」


「いや、別に〜」



みんな声を合わせてそういうと、リーダーのカグヤだけは違ったようでため息をもらす。


それを慰めるように双子のヤマトとミナトがカグヤの肩を抱く。



「リーダー、俺たちがいるからさ」


「元気だせよ、リーダー」


「……ありがとう、2人とも」



そう言って3人は周りを巻き込みながら騒ぎ出す。

こんなグループメンバーだからこそ、きっと上手くいくのだろう。

仕事仲間であり、ライバルであり、とても大切な友人である彼らとの時間が楽しく過ぎていった。



それから、帰国して俺はレイラの待つ家へと向かった。

鍵を開けると、そこには誰もいない。



「おーい、レイラ?」



呼ぶが返事はない。

何か事件に巻き込まれたんじゃないかと心配になりながら、電気のついていないリビングへ足を進める。



「……レイラ?」



俺は暗いリビングのドアを開けた。

するとぱっと電気が付く。



ーーパン!



「マオっ、誕生日おめでとう!」



声のする方を振り向くとレイラが満面の笑みを浮かべて立っている。



「ふふっ、推しの誕生日を忘れるわけないでしょ?」



誇らしげな態度のレイラに俺は思わず声を出して笑う。

そして、誰に教えてもらったのか変なパーティーグッズに身を包むレイラが愛おしく、更に笑いが込み上げてくる。



「ただいま、レイラ。そしてありがとう」



俺は一つ一つ彼女の身につけている変なグッズを外していく。

その行動にキョトンとしているレイラに聞いた。



「これはどうしたの?」


「梨花子さんに教えてもらったの。これがお祝いスタイルなんだって!」



そう無邪気に笑うレイラを俺は抱きしめた。

そして耳元で囁く。



「……レイラ、梨花子に騙されてるよ」


「えっ、そうなの!?」



レイラが驚くように顔を上げて俺を見る。

ふと、梨花子がレイラを騙してニヤニヤと笑っている姿が安易に想像できた。

俺たち姉弟はよく似た性格なのかもしれない。


俺はびっくりした表情のレイラが可愛くて俺は彼女の唇に軽くキスをする。

今度は陶器のように白い肌を少し赤くして、レイラは微笑み、改めて俺の方を見ると口を開いた。



「マオ、おかえり」


「ただいま」



俺は更にしっかりと抱きしめた。

ふわりと香る久しぶりのレイラのほんのりと甘い匂いに、俺の心臓が苦しいほど早く動く。


そして、ゆっくりと身体を離した。

すると、彼女は思い出したかのように部屋から小包みを持ってきた。



「忘れるところだったわ!はい、プレゼント!」


「開けてもいい?」


「もちろん」



俺は丁寧に包装紙を剥がして中身を出す。

何かわかる前にレイラが口を開いた。



「目覚まし時計よ!この前買った雑誌でマオが朝が弱いからスッキリ起きられるアイテムが欲しいって記事を見たからこれにしたの」



いつにも増して自信満々な態度のレイラに俺はクスリと笑った。

俺の雑誌取材の時いったそのたった一言でレイラがわざわざ目覚まし時計を買いに行っているところを想像して、とにかく愛おしくなる。



「ありがとう、レイラ。嬉しいよ」


「ふふっ、よかった。推しの欲しい物を把握してて」


「じゃあ、俺の1番欲しいもの知ってる?」



俺がそういうとレイラは真剣な様子で考え込む。

そんなレイラの頬に軽くキスをした。



「レイラだよ」



俺は彼女と目が合うとにっこりと笑った。

そして、いろいろなことを想像したレイラが顔を赤くする。



「もう……マオっ!」


「あははっ。ねぇ、レイラちょっと待ってて」



そう言って俺はスーツケースの中のものを取り出した。

紙袋から小さな箱を取り出してレイラの元へ持っていく。



「ん?なにこれ?」



俺の手の中にある箱を不思議そうに見つめるレイラ。

俺はそんなレイラを見つめてゆっくりと口を開いた。



「ねぇ、レイラ。俺は自分が思ってた以上に愛が深いみたい」



じっと俺の目を見つめている彼女の前に跪き、話を続けた。



「……そんな俺でも受け入れてくれる?」



ゆっくりとその箱を開けると中に、キラキラと輝く宝石がついた指輪が入っていた。

これはパパラチアサファイアという宝石らしく、ピンク色とオレンジ色の間のような可愛らしい色をしていた。

MV撮影後の自由時間にいろいろなお店を見て回った際に、俺が一目惚れしたものだった。



「レイラ、俺とずっと一緒にいて?」



そういうと、レイラは少し目を潤ませながらふわりと微笑む。

そして、ツンとしたいつもの表情で言い放つ。



「当たり前でしょ?マオは、ずっと私だけの騎士なんだから」


「それならよかった」



俺はレイラの右手を優しく手に取ると、ゆっくりと右手の薬指にそれをはめる。



「あっ、ぴったり……」


「寝てる時に測った」



そう言って笑うと、レイラも自然と微笑む。

そして指輪がきっちりとはまると彼女は右手を上に掲げて、見つめた。



「とっても綺麗ね。ありがとう、マオ」


「どういたしまして。あっ、言うの忘れてた」



俺はそう言うと、何事かとレイラが不思議そうに見る。



「これは一生外れないから」


「えっ、そうなの!?」



レイラが俺の冗談を信じて指を振る。

そんな姿を見て俺は堪えきれず笑い声を上げる。



「マオ……嘘ついたわね!」


「ごめんごめん……あははっ!」



俺はさっきの俺の冗談を真剣に信じているレイラを思い出して吹き出す。

そんな俺を見てレイラは機嫌を損ねたように拗ねている。

そして、俺は立ち上がってレイラを抱きしめて耳元で囁いた。



「でも、絶対外さないでね」


「……わかったわ」



レイラは顔を赤くしながら頷く。

そんなレイラが愛おしくて俺は彼女をさらにしっかりと抱きしめた。



「次は左手の薬指だから覚悟しておいて」



俺は耳元がそう囁くとレイラが顔を赤くした。

その姿を見て、俺は自然と言葉が出てくる。



「レイラ、愛してるよ」


「……私も愛してる」



そういうとお互いを確かめ合うようにキスをした。

そして、見つめ合うと同じタイミングで笑い合う。

そんな2人を幸せな空気が包み込んでいた。




それから、レイラの用意してくれたバースデーケーキを2人で食べる。


俺はふと、さっき気になったことをレイラに尋ねた。



「ねぇ、レイラ?正直、指輪のプレゼントは重すぎて引かなかった?」



レイラは何を言っているのかわからないような、不思議そうな表情で俺を見つめる。

そして、口に入れていたケーキを飲み込むと言葉を出す。



「ん、言ってなかったかしら?私、前の世界では10歳で婚約者がいたから特に何も重いなんて思わなかったわよ?」


「……10歳で婚約者?」



俺はレイラの唐突な告白に顔を顰める。

1番聞きたくない話を誕生日に聞かされた俺は、食べている途中のケーキを放棄して頭を抱えた。



「……想像しただけで嫉妬でおかしくなりそう」



項垂れる俺を見てレイラがクスクスと笑う。

そしてレイラが席を立ち俺の方に来ると、落ち込む俺の顔を両手で挟み込むようにしてじっと見つめた。



「ねぇ、マオ聞いて」



そういうと、レイラはふわりと微笑み自ら俺の唇に優しくキスをする。

俺は驚きながらレイラを見ると、彼女は頬を少しだけ赤くして話を続ける。



「でも……キスもそれ以外も……全部マオが初めてよ」



少し恥ずかしそうに微笑むレイラに、俺は更に惚れさせられてしまう。

立っていた彼女を自分の膝の上に乗せて、しっかりと抱きしめた。

それを受け入れるようにレイラも優しく手を回す。



再びかわす甘いキスはバースデーケーキの味がした。


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