その男、振り返る
「ねぇ、レイラ。そういえば俺明日から新曲のMV撮影で海外に行かなきゃいけない」
俺はレイラの作ったカレーを食べながら思い出したように伝える。
レイラは口元まで運んでいたスプーンの動きをぴたりと止めた。
「また遠くにいっちゃうってこと?」
少し寂しそうな表情を浮かべるレイラを見て、俺の胸も締め付けられるような感覚になる。
「遠いけど、今回は撮影だけだからすぐ帰ってくるよ」
そういうと、レイラは安心したように可愛らしく微笑む。
そして、俺は黙々と美味しそうに自分の作ったカレーを頬張る彼女を見つめた。
「あ〜……置いて行きたくなさすぎる……」
幸せな光景に思わず心の声が漏れた。
それからカレーを食べて片付け終えると、俺は軽く荷物のパッキングしていた。
お風呂から上がってきたレイラが髪の毛を拭きながらソファーに座るのを見て、明日の準備を終えた俺も彼女の方へ歩いていく。
「ちょっと貸して」
そう言ってレイラからタオルを受け取ると、そのまま髪を優しく拭き上げ、ドライヤーの準備をする。
レイラが俺の方をチラリと見ていった。
「マオ、ありがとう」
「ああ」
なんとなく俺はあの日初めてレイラにあってからのことを思い出した。
きっとレイラがいなかったら、俺はダメになってたなということもあるし、こんな気持ちを知ることもなかった。
レイラに出会ってから。
あの日俺がレイラを拾ってから。
全ての歯車が回り始めた気がする。
「ねぇ、レイラありがとう」
「……ん?何か言った?」
「なんでもない」
ドライヤーでかき消された言葉を俺は胸にしまい込む。
そして、ただ真っ直ぐと前を見るレイラの美しい横顔に目を奪われていた。
それから今度は俺がお風呂から上がると、レイラが俺が準備した明日の荷物の前で怪しい動きをしていた。
俺が声をかけるとびっくりしたように手を背中に回して、何かを隠す。
「レイラ?何隠してんの〜?」
「いや、別にっ!な、何も隠してなんかないわ」
レイラは背中を見せないように、俺の動きに合わせて身体を動かす。
これでは、埒が開かないので俺はそのままレイラごと抱きしめた。
そしてレイラの背中側を覗き込むと、彼女の陶器のように白い華奢な手に何か持っているのが見えた。
「ねぇ、レイラ?この手に持っているのはなに?」
レイラは恥ずかしそうにしたままで何も言わない。
無理に取ることもできたが、それでは面白くないので俺はレイラの艶のある黒髪を指でさらりと退け、彼女の首筋を露わにする。
レイラは何事かと驚き、俺を見つめる。
俺はそんな驚いている顔のレイラにいつも以上に優しく意地悪に微笑むと、その白くて柔らかそうな首筋に口付けた。
唇がゆっくりと首筋から鎖骨へとおりていくと、レイラの甘く可愛らしい声が漏れた。
すると、頬を赤くした彼女はギブアップというように手に持っていたものを俺に差し出した。
俺はそれを受け取ると身体を離す。
その隙に手の空いたレイラは恥ずかしさを誤魔化すように、俺の口付けたところを再び髪で隠していた。
「何これ?」
「……ファンレターよ。推しに送るのはこれがいいって結子さんに教えてもらったの」
伏し目がちにそう言うレイラが愛おしすぎて、正直俺の方が参ってしまう。
そして、レイラにファンレターというものを教えてくれた結子に心の中で感謝した。
「……読んでいい?」
そういうと、レイラは黙って頷いた。
ピンク色の封筒に入った1枚の紙を取り出す。
それはほんの数行だったが、それは俺が今までもらった何よりも嬉しかった。
『マオ大好きよ
がんばってね
レイラ』
一瞬で読み終えると、恥ずかしそうにしているレイラの顔が更に愛おしくなる。
そんな彼女を黙って抱きしめた。
「すごく嬉しい。ありがとう」
俺は心から思ったことをレイラに伝えると、彼女は小さな声で言葉を返した。
「いい子に留守番して待ってるから……気をつけていってらっしゃい」
「あ〜……可愛すぎてしんどい」
俺は更に強い力でレイラを抱きしめた。
すると、レイラはそれを聞いてふわりと笑う。
「ふふっ、苦しいわ。マオ、頑張ってきてね」
そう言って俺の頭を優しく撫でた。
俺はその手を握ると自分の指を絡め、彼女の唇に軽くキスをする。
レイラが少し熱帯びた視線を俺に向けると、2人の間に甘ったるい空気が流れる。
「……俺のこと忘れないくらい、たくさん印を付けてから行かせて」
そういうとレイラは身を任せるように寄り添い軽く頷く。
俺はそんな彼女を優しく抱き上げて、そのままベッドルームへと向かった。




