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悪女、心の準備をする

それから梨花子が店を閉めると、私は帰りの支度をする。

今日は久しぶりに男装だ。

マオがわざわざ一緒に帰るために用意してきたらしい。


鏡に映る帽子を深く被った美少年な姿に、我ながら似合っていると思わず見惚れる。

これは私の意外な特技になっているかもしれない。

私はそう思いながら荷物をまとめると、私は顎の下にずらしていたマスクを鼻のところまできちんと上げ、マオの待つホールに向かった。



軽く店内を見渡すと、マオがカウンターで顎肘をつきながら居眠りしていた。

深く被った帽子から金色の髪がチラリと見える。

私はその彼の肩をトントンと叩くと、眠っていたマオを驚かさないように小さく声をかけた。



「お待たせ」



私がそういうと、マオの瞼がゆっくりと開き優しく微笑む。

するとキッチンにいた梨花子も顔を出した。



「相変わらず、レイラちゃんの男装って美少年だわ」


「そうですか?」


「うんうん!思わず惚れちゃいそうなくらい」



梨花子がそういうと、マオが怪訝そうな目で彼女を見ていた。

そんなマオをあしらうように梨花子が私に声をかける。



「こりゃあ、レイラちゃんも大変ね」



そう言って笑う梨花子を無視して、マオは私に手を差し伸べた。



「じゃあ、レイラ行こうか」


「あっ、じゃあ梨花子さん。お先に失礼します」


「はいは〜い、お疲れ様!」


「レイラ早く」


急かすように私を呼ぶマオを微笑ましそうに梨花子が見つめていた。

そして、店を出ると近くに誰もいなかったので警戒することなくマオが私に話しかけてきた。



「レイラ、バイトお疲れ様。ご褒美は何がいい?」



マオをそういうと私をチラリと見た。

目元しか見えていないが、独特の色気のある雰囲気を出している。



「プリン?」


「あははっ、本当に好きだな。そう言うと思って買っといたよ」


「えっ!ほんと!?」



私が思わずはしゃいでいると、マオがクスリと笑う。



「他には?」


「んー……」


「なんでもいいよ。俺がただレイラをたっぷり甘やかしたいだけだから」



そんな恥ずかしいことを惜しげもなく言うマオに私の方が赤くなる。

幸いマスクをしていたので彼に気づかれることはなかった。

とりあえず、適当に返す。



「じゃあ今日はバイトで疲れたから、お風呂上がりに足でもマッサージしてもらおうかしら?」


「そんなことでいいの?」


「ええ」



私がそうやって軽く返事をすると、マオはふわりと笑った。



「ご褒美だな……俺の」


「ば、馬鹿じゃないのっ」



マオの目元がニヤリと笑う。

そして、思わず顔を赤くする私の方に近寄ると小声で囁いた。



「じゃあ、ついでにお風呂も一緒に入ろうか?」


「もう、調子に乗らないで!」



私は色っぽく笑うマオをあしらった。

悔しいぐらいマオの言動の一つ一つが私の胸をドキドキさせる。

私は気づいたらマオのことが好きになっていた。

いや、初めて会ったときからこうなることは決まっていたのかもしれない。

そう思うほど私は彼に惚れていた。


そして、私は横に立っているマオを見た。

彼も私が見ていることに気がつくと、ふわりと目尻が下がって柔らかい表情を浮かべる。



あの世界にいたひとりぼっちの私はもういない。

彼の優しさや愛が私の心を包み込んでいた。




♦︎♦︎♦︎


それから、家に着くといつも通り夕食を取ったり片付けたりして過ごしていた。

ご褒美のプリンを味わいながら食べ終えると、お風呂に入った。

一緒についてこようとするマオをジロリと睨みつけお互い1人でゆっくりと入った。

そして、お風呂から上がるとソファーに腰掛けてマオに足をマッサージしてもらう。


マオは意外と上手で、ちょうどいいくらいの強さの刺激がくるたびに思わず声が漏れた。



「はぁ……マオ上手ね、……すごく気持ちがいいわ」



しばらくするとマッサージしていたマオの手が止まり、跪いたまま私のことを見つめて呟く。



「ねぇ、そろそろ俺も限界なんだけど?」


「あっ!ごめんなさい、気づかなくて。もう大丈夫よ、ありがとう」



そう言って離れようとすると、マオはゆっくりと立ち上がり私をソファーに横向きに押し倒した。

私の視界はぐるりと回り、見下ろすマオと目が合った。



「俺はレイラの何?」


「何って?私の騎士だけど」


「他には?」



熱帯びた瞳で私を見つめるマオの言って欲しい言葉を察した私は恥ずかしくなり顔を赤くした。

そんな私を煽るようにマオは話を続ける。



「ねぇ、早く言って。俺そんなに待てない」


「マオは……」


「俺は?」


「……私の愛する人よ」



するとマオは今までで1番嬉しそうな表情を浮かべる。

そして、甘い視線と共に彼の整った顔が私の方にグッと近づいてきた。

私はそれを直前で遮るように手で押さえて、その熱い視線から顔を逸らす。



「……心の準備ができてないわ」


「じゃあ、10秒待つから準備して」



そういうとマオは今度は邪魔をさせないように顔を隠していた私の手を取り、優しく握って数え始めた。



「ーー7……8……9……10」



10秒なんてあっという間に過ぎていく。

しかし、これ以上は待たないと言わんばかりの瞳が、私に優しく微笑みかけた。


ゆっくりとマオの唇が私の唇と重なり合う。

短い時間ながらも柔らかな感触の余韻を残しながら、マオは顔を離した。

不思議と溢れ出す気持ちが私の口から溢れる。



「……マオ、大好きよ」



そんな不意打ちに、マオは一瞬驚くような表情になりつつも、少し顔を赤くして照れたような顔をする。

そして、私の髪を優しく撫でながら口を開いた。



「この状況で、それは反則……」



そういうとマオの顔が再び私の方へと落ちてきた。

今度は甘くお互いを確かめ合うように重なり合う。

自分の口のなかにマオの柔らかな舌が入って絡みつくと、唇の隙間から驚くほど甘い声が漏れた。

握っていた彼の手がするりと私の手から離れ、今度はよりプライベートな部分に踏み込んでくる。

私は甘い刺激に翻弄されていた唇を離し、その手を捕まえると息を整えて身体を起こした。



「マオは明日早いんでしょ?そろそろ寝ないと」


「……寝なくても平気だし」


「だーめ!カウンターで居眠りするくらい疲れてるの知ってるんだから。体調管理も仕事のうちでしょ?」



そう言われて、私は少し不満げに見つめるマオを宥めるように頭を撫でた。



「私も明日バイトだから夜更かしは付き合ってあげれないの」



そういうと、マオはしぶしぶ諦めた様子で私に頭を撫でられていた。

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