悪女、働く
それにしても、私に対してのマオの態度が甘すぎる。
そんな甘い彼の振る舞いにつられて私まで少し大胆になってしまう。
向こうの世界では、結婚前の男女の触れ合いはあまり良いとはされなかった。
しかし、こちらの世界ではそういう訳ではなさそうなので気にする必要はないのか、などといろいろと考えながら、私はバイトへと向かった。
いつものように木製のドアをゆっくりと開けると、カランカランと穏やかな音が店内に響き、奥にいた梨花子が出迎える。
「レイラちゃん、おはよう!真緒の偽記事の件ってレイラちゃんが解決してくれたのよね?」
「梨花子さん、おはよう……ございます。えっと、どうしてそう思ったんですか?」
「えっ?だってこれどう見てもレイラしか有り得ないでしょ?」
そういうと梨花子はポケットから携帯を取り出し、軽く操作するとネットで公開された音声動画の1部が流れてくる。
改めて聞くと恥ずかしくなり、少し顔を赤くする私の手を握ると梨花子は微笑んだ。
「レイラちゃん、ありがとう」
梨花子の心のこもったお礼に私まで胸が熱くなる。
そして、にっこりと微笑みながら私に聞く。
「それで、真緒とは付き合ってるの?」
「えっ……いやその……」
自然と顔が赤くなる私を見て、梨花子はニヤリと笑いながら話を続けた。
「レイラちゃんが本当の妹になってくれたらいいのになぁ〜」
「ちょっと、梨花子さんっ!」
「だって本当にそう思ったんだから〜」
笑いながらそんなことを言う梨花子にペースをかき乱されながら、今日も私はバイトに励んだ。
♦︎♦︎♦︎
閉店時間が近づき、店内にはお客さんは誰もいない。
梨花子は奥のキッチンで作業をしていて、私は1人ふきんを持ってテーブルなどを拭いていた。
すると、カランカランという穏やかな音とともに木製のドアをゆっくりと開く。
「いらっしゃいませ」
私はいつも通り声をかける。
深く帽子を被り、黒いマスクをつけた細身の男。
誰だかすぐにわかった私は思わず笑顔になる。
「マオ、どうしたの?」
そういうとマオは黒いマスクを顎までずらし、優しく微笑んだ。
「迎えにきた」
するとマオが私の方に近づいてきて、制服にエプロン姿をじっと見つめていると、梨花子がキッチンから出てきた。
「あれ、真緒来てたの?レイラちゃんのお迎え?」
「あぁ、そんな感じ。なあ梨花子、バイトの制服これしかないの?」
「ん?制服?これしかないけど」
梨花子がそういうと、マオは少し険しい顔をしてため息を吐いた。
その様子に梨花子は何かを察して、ニヤニヤとマオを見ながら言った。
「可愛いすぎて心配になるんでしょ?」
「……わかってんなら変えろよ」
「ダメよ、私の目の保養だから」
そう言って笑う梨花子をマオは不服げに見つめると、不貞腐れた様子で、ふきんを握っている私に話しかけた。
「俺が養うからここのバイト辞めるってどう?」
そういって横に来たマオを見つめると、冗談半分本気半分といった表情を浮かべていた。
私はこのバイトが気に入っていたし、梨花子と一緒に働くことが楽しかったので辞める気はさらさらなかった。
「いやよ、私ちゃんと働けてるし。ね、梨花子さん」
「ええ。レイラちゃんは常連さんにも人気で頑張って働いてくれてるわよ」
梨花子がそういうとマオの表情は更に険しくなる。
私はこのままじゃまずいと思い、ちゃんと働いていることをアピールするため営業スマイルを作り、マオを見つめた。
「ところで、お客様ご注文はお決まりですか?」
何故か逆効果だったようで、マオは頭を抱えながら梨花子に言い放つ。
「頼む……頼むから……一刻も早くレイラを辞めさせてくれ」
梨花子は満面の笑みでマオに言い返した。
「嫌よ、うちの看板娘をそう簡単に手放すわけないじゃない」
梨花子が今度は私を見て、にっこりと笑う。
どうやら辞めさせられることはないようで、私はほっとした。




