その男、言わせたい
その後、あの嘘の記事はあっという間にかき消され、今度は手のひらを返したように俺を同情するものへと変わった。
人間こんなに簡単に変わるのかというほど、テレビに出ているコメンテーターやSNSでの俺に対しての印象は一変した。
そして、ソファーに座ったレイラはそれを冷めた表情で見ている。
「はぁ、よく言うわよ。この人たち」
俺はそんなレイラの横に座る。
「……レイラ、ありがとう」
そういうとレイラは誇らしそうに顔を上げる。
そしてにっこりと笑った。
ただ、俺は彼女に対して怒っていることがあった。
俺は誇らしそうに笑うレイラの顔を真剣に見つめて言った。
「でも、これからはこんな危ないことしないって約束して」
「はいは〜い」
ちっとも気にしてないような様子の彼女をソファーの背もたれに軽く押し倒すと、レイラは不意を突かれた様子で驚きながら俺を見つめた。
「……本当にわかってる?」
「も、もちろんわかってるわよ」
動揺して声を上ずらせるレイラが可愛いくて、怒っていたはずの気持ちもおさまってしまう。
「ねぇ、レイラ?一つ言っていい?」
「な、なにかしら?」
また怒られるのではないかと思っているレイラは、ビクビクしながら俺を見つめる。
そんなレイラに俺は優しく笑いかけた。
そして、もう躊躇うことなく彼女に素直な気持ちを伝える。
「ーー好きだよ」
予想外の言葉に驚きの表情を浮かべるレイラは、今度はりんごのように頬を赤く染めた。
そんなレイラに意地悪するように俺はじっと見下ろす。
すると、彼女のグレーの瞳がキョロキョロと動く。
「レイラは俺のこと好き?」
正直、好きと言われる確証はなかった。
でも好きと言わせたい気持ちの方が優ってしまい、つい聞いてしまった。
レイラは更に顔を赤くすると、ツンとした表情を浮かべながらそれに返事する。
「さぁ、どうかしら?」
照れながら強気で返す彼女が更に可愛くて、俺は離したくなくなる。
「……ねぇ、言ってよ」
俺は迫るようにレイラに顔を近づける。
そしてお互い一歩も譲らないまま、あともう少しの距離で唇が重なり合うほど近づいたとき、家のチャイムが鳴った。
俺が一瞬それに気を取られた隙に、レイラは猫のように俺とソファーの間からするりと抜け出した。
「……チッ」
思わず俺の心の声が漏れる。
それにレイラは勝ち誇ったかのような笑みを浮かべ、俺を挑発する。
「……残念だったわね」
少し頬を赤くしたレイラはニヤリと笑った。
そんな、一筋縄ではいかない彼女に俺は更に夢中になっていた。
そして、俺は諦めて立ち上がると玄関へ向かった。
♦︎♦︎♦︎
ドアを開けると外には『Seven Summits』のメンバーがいて、みんな中に入ってきて、リビングに集まった。
するとリーダーのカグヤがまず口を開いた。
「レイラちゃん、今回のマオの件巻き込んでしまってすまない。そして、いろいろとありがとう。今日はみんなでそのお礼を言いにきたんだ」
真面目なカグヤはレイラに頭を下げる。
するとショーンは申し訳なさそうにレイラに声をかけた。
「レイラちゃん、危ない目に合わせて申し訳ない」
「大丈夫よ。私が勝手にやったんだから気にしないで」
「本当にごめんね。そしてありがとう」
そう言ってショーンもレイラに頭を下げると、それに続いて他のメンバーも次々にお礼を言った。
そして一通りそれを伝え終えると、レイラがカグヤの前に来て彼の手を両手で優しく握った。
「無事に解決できてよかったわ。わたし……このグループのファンなの。次のライブも楽しみにしてる」
レイラが優しく微笑みかけると、カグヤの頬が赤くなる。
そして、華奢なレイラの手をカグヤの男らしい大きな手が包み込み、グッと距離を縮めた。
レイラは背の高いカグヤに合わせるように目線を上げると、カグヤは悶絶するような表情で彼女を見つめて言った。
「か、可愛すぎる。今度よかったら俺とーー」
俺はそれを言い終える前に、レイラを後ろから抱きしめてカグヤから手を離させる。
そして、彼女の目を手で覆った。
正直言って、限界だった。
1秒でも他の男と目を合わせて欲しくないほどに。
「カグヤ、これ以上はだめ。レイラだけは渡せない」
その様子を見ていた双子のミナトとヤマトが声を上げる。
「マオくん、やるじゃ〜ん!」
「そんな姿初めて見たな」
興奮気味の2人に対して、少し落ち込み気味のカグヤが再び口を開く。
「あんなに可愛い生物を独り占めするなんて……」
「まぁまぁ、落ち着いて。まだレイラちゃんがマオマオのこと好きって決まったわけじゃないでしょ?」
さすが、ショーンは鋭い。
俺はまだ好きと言われていないことを思い出し、少し動揺させられる。
ショーンはそれを見逃すことなく、さらに追求してくる。
「ほらね、じゃあ俺にもチャンスがあるのかな?」
そういうと、ショーンはレイラの目元を覆い被せる俺の手をどけて目を合わせた。
少し顔を赤くするレイラに俺の胸はズキっとする。
そんな俺の気持ちは知らないレイラが口を開いた。
「ふふっ、あいにく私の騎士は1人だけなの。ごめんなさい」
艶のある笑みを浮かべてそう答えるレイラの発言に、俺は顔を赤くした。
ショーンは余裕のある笑みを浮かべながら冗談っぽく口を開いた。
「そっか〜、じゃあもしその騎士がクビになったら俺たちのことも考えてね」
俺がジロリと睨むと、ショーンはケラケラと声を出してカグヤと笑い合う。
そして、後ろから俺に抱きしめられているレイラがチラリと俺の方を振り返った。
「ねぇ?マオ、いつまでこの格好してるの?」
「う〜ん……ずっと?」
甘えるように答えるマオに、子犬のような可愛らしいハルが顔を赤くしながら、咳払いをする。
「マオ……キャラ変わってきてるよ」
「そう?好きな奴の前じゃ、みんなこんなもんだろ?なぁリュウマ」
「……俺に振るな、マオ」
そういうと、この中で1番男らしい赤髪で短髪のリュウマが顔を逸らした。
そして、好きという言葉にもう1人顔を逸らしている人がいた。
「どうした、レイラ?」
「な、なんでもにゃいっ」
慌てて否定して噛むレイラに、いつもツンとした美人な彼女のギャップに逆に俺の方がやられてしまう。
俺はレイラの肩に頭をコトンと乗せた。
その様子にリーダーのカグヤが限界を迎えて口を開く。
「マオ、いい加減にしろよ!ただひたすら、いちゃついてんじゃねぇ!」
すると、次々にメンバーたちの怒りが爆発する。
俺はそれをかわすように振る舞う。
久しぶりに何も気にせずにメンバーと素で騒ぐ時間が楽しくて思わず表情が緩んだ。
そして、俺たちのそんな素の姿にレイラがクスクスと込み上げてくるような笑い声を上げると、まるでクラス1番美人が自然と視線を集めてしまうかのように、みんな彼女に目を奪われる。
俺はそれに気づくとみんなの視線を阻むかのようにレイラの前に出て、悪い虫を払うようにシッシッと手を振る。
「ねぇ、空気読んで早く帰れよ」
そう言って自分の腕を後ろにまわし、彼女を自分の影に隠す。
まるで本当の騎士になったかのような振る舞いに、今度はみんなの笑い声が部屋に響き渡った。




