悪女、煽る
それは、アイコが振り翳した包丁を下ろす直前の出来事だった。
間一髪でリビングのドアが開き、一斉に人がなだれ込んでくる。
マオとショーン、そして私の知らないガタイの良い男。
「なっ……どういうこと?」
おろおろとするアイコの隙をついて、ガタイの良い男が持っていた包丁を奪った。
そして、私に何もなかったことに安堵したマオが抱きしめる。
「レイラ……大丈夫か」
そういって心配そうに覗き込むマオに私は無言で頷いた。
アイコはハッと我に帰り、自分の置かれている状況を把握すると唐突に大粒の涙を流した。
そして、同情を誘うかのように振る舞う。
「あの……私……彼女に先に脅されたんです……。だから怖くなって……みんな信じてくださいっ」
そう言って目を潤ませてショーンとガタイの良い男を見つめた。
相変わらず、彼女の男の庇護欲を掻き立てる演技の上手さに思わず感心してしまう。
私はマオの腕からスッと離れると、か弱く振る舞うアイコの前に立った。
そして、不気味に優しく艶のある笑みを浮かべた。
「ねぇ、貴女……スマホって便利なもの知ってる?ふふっ」
そういって、私は画面を指で動かして操作する。
すると画面の中から音声が流れ始めた。
「なんで、アンタがこの男と関係があるの」
「それはどうでもいいから答えて」
「私はね、欲しいものは手に入らないと気が済まないタイプなの。でも、マオは恋人もいないのに全然私に振り向いてすらくれなかった」
「だからあんな嘘をついたの?付き合ってすらないマオに暴力を振るわれたなんて嘘を……」
「だって、私が手に入らないものは壊すしかないでしょ?」
この音声を聞いて彼女の顔が青くなる。
実は、私はあの時テーブルの上にわざとスマホを置いて動画を撮影していた。
私は、仕事できるでしょ?と言わんばかりにマオたちを見ると彼らは驚くように少し笑っていた。
それと対照的にアイコは追い詰められたように口を開く。
「嘘よ!こんなの嘘!私をはめたのね!」
アイコが私に詰め寄ってくる。
それをガタイの良い男が押さえ込み、マオが庇うように私を抱き寄せた。
私は悪女のように妖艶な笑みを浮かべてマオの頬を優しく撫でる。
そして、アイコに向かってそれを見せつけると、ゆっくりと優しく言葉をかけた。
「ねぇ?自分の手に入らないって……ど〜んな気分?ふふっ」
アイコは、その言葉にトドメを刺されたようで本性を表した。
鬼のような形相で私を見ると、低く唸るような声を上げる。
「……アンタなんて、アンタなんて!!!!あのままあの世界でくたばってればよかっのよ!」
「ふふふっ、残念だったわね。私悪運だけは強いみたい。悪女なだけに?」
私はそう言って高飛車な笑みを浮かべた。
♦︎♦︎♦︎
それから彼女はこの件に関して法の裁きを受けることになった。
芋蔓式にそれに関わった記者たちも業界から追放された。
マオたちと一緒に来ていたのはアイコの事務所の社長だったようで、スムーズに事が進んでいく。
私のことはマネージャーという扱いでこの動画も証拠として世に出ることとなり、この一件は更に大きな反響を呼んだ。
幸いにもあまり私の姿は映っていなかったので、今後の影響は少なくて済んだのはよかった。
しかし、その後『Seven Summits』の事務所には悪女マネージャーがいるという噂がたったことはいうまでもない。
この世界でも私はまたもや悪女として扱われるなんて思いもよらなかった。
まぁ仕方がない。
何かを守ることができる悪女なら喜んでなってやろう。




