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悪女、接触する

ショーンの家を出て、自分の部屋へ戻ると玄関には既に先に帰ってきたマオの靴があった。

そして、私がリビングのドアを開けるとマオが出迎える。



「レイラ、おかえり」


「ただいま、マオ」


「遅かったね」


「……そうかしら?」



いつもより遅い帰宅を心配する過保護なマオに悟られないように私はそれをサラリとかわそうとするが、彼には通用しなかったようで私の前に立ちはだかった。



「なにか隠してる?」


「いや……何も?」



私はバレると止められそうな気がして嘘をつくと、マオはフッと顔を逸らし、これ以上追求することなく部屋へと戻って行った。



それから私は部屋で渋川愛子のことを調べた。

渋川愛子は、歌手として活動していて彼女独特の美声が作り出す曲の世界観が話題になり、いま注目のアーティストの1人として取り上げられていた。

あの世界にいた頃は話せないと言われていたので声も聞いたことはなく、彼女が失踪した時とデビューした時期が合わなかったので、もしかしたら他人かもしれないと思ったが、私を陥れた時と変わらないあの笑顔が同じ人物であることを物語っていた。



翌日、私は居ても立っても居られず渋川愛子を探しに外に出ていた。

すると連絡先を交換していたショーンから電話が来た。



『もしもし、レイラちゃん。今どこ?』


「えっと……秘密です」


『えっ、もしかしてあの女を探しに行こうとしてたりしてない?』


「いや、その……」


『そもそも、レイラちゃんあの女がどこに住んでるかとか知らないでしょ?』


「あっ……」


『ちょっと、俺の家寄れる?ちゃんと作戦立ててから行かないと』



そう言われて私は大人しくマンションへと戻っていき、ショーンの部屋にやってきた。

彼は怖いような笑みを浮かべて、薄いピンク色の髪をかき上げる。



「はぁ……レイラちゃん」


「ははっ、ごめんなさい。つい」


「何か策はあったの?」


「……」



無言で目を合わせないように誤魔化私にショーンは呆れる。

そして、仕切り直すように口を開いた。



「レイラちゃん、無鉄砲すぎるよ。ここまで念入りにやってくる彼女は手強いんだからちゃんと作戦を立てないと」



そうショーンに言われて、ハッとさせられた。

前いた世界でも私は彼女の策にはめられていたのに、同じように無策で彼女に立ち向かおうとしていたからだ。

私は自分の愚かさに気づく。

そして、ショーンの方を真剣に見て口を開いた。



「そうね、()()()()は彼女を逃さないわ」



そういうと、自然と笑みが溢れてくる。

あの時は自分を守ってくれる人も、守りたい人も何ひとつなかった。

でも、今は違う。

私の頭の中にマオの顔が浮かぶ。


そして、ショーンが口を開いた。



「じゃあ、レイラちゃん。作戦会議始めようか」


「えぇ。とびっきりの作戦を考えましょ」



私は冷たく艶やかな悪女のような笑みを浮かべた。

その顔を見てショーンがクスリと笑った。




♦︎♦︎♦︎


「……ここね」



私はショーンのツテで知った彼女の今住んでいるところへ来ていた。

目の前に立ちはだかる建物の前には獲物を狙うようにカメラを持った人たちがうろうろとしている。


おそらく、彼らと同じ獲物を狙う私も人目につかないところで待つことにした。

しばらくすると、幸運にもその人物が通りかかる。

一見誰だかわからないような格好をしていた彼女に、他の誰よりもいち早く気づいた私は裏口から入っていくその人物を追いかけた。



「アイコ……!」



私が呼びかけると彼女は振り返った。

そして驚いた表情を浮かべ、私の前で初めて声を出した。



「あら、久しぶりに見る顔ね。やっぱり、貴女もこっちの世界の人だったのね」


「えっ、それは……どういうこと?」



私は彼女の予想外の言葉に逆に驚かされる。

彼女はその私のリアクションを見て、不思議そうに話を続けた。



「え?何言ってるの。戻って来れたんでしょ?自分の1番大切なものを思い出して」


「1番大切なもの……?思い出して……?」


「ふふっ、貴女何も知らなかったのね。じゃあ教えてあげる。ここじゃ、いろいろと目立つから私の部屋で続きを話しましょう」



アイコは自分の相手にもならないレベルの子供に話しかけるかのようにそうに言った。


ショーンと立てた作戦では、今日は彼女の周辺を探るだけだったが予定が変わった。

私はアイコの目を盗んでショーンに軽くメッセージを打つ。



『いえいく』



急いで打ったので伝わるか心配だが、理解してもらえるように祈った。

そして、無言で私はアイコと一緒に部屋へとむかった。



「ここよ、さあ入って」



彼女が余裕のある笑みを浮かべてドアを開ける。

私はそのドアを代わりに支えて微笑む。



「先にどうぞ」



あの頃使用人たちから受けていたような至れり尽くせりな生活を思い出すかのように、アイコは満悦した。



「悪いわね」



そういって彼女が先に部屋へ入っていくのを確認する。

私は玄関のドアが閉まりきらないように鞄の中から猫のしっぽのようなペンを取り出して、ドアの間にこっそり挟めた。

そして、アイコの後について廊下を進み部屋へと入っていった。


アイコの部屋はかなり広く、煌びやかな家具に囲まれていた。

そして、彼女は私の方を見ると先ほどの話を続ける。



「貴女ってどこまで覚えてるの?あの世界に来た時の記憶は?」



なんのことを言っているのかわからず、私は首を傾げた。

すると、彼女は呆れたように溜め息をつく。



「そう……じゃあ面倒くさいから簡単に言うわね。潜在的に大きな魔力を持っていた私たちは、あの世界で利用されるために召喚されたのよ」


「あの世界に召喚された……?じゃあ、もともと私はこの世界にいたってこと?」


「はぁ、本当に何も覚えてないのね」



そう言ってアイコは私を小馬鹿にするように笑った。


確かに、思い返せば10歳でラインハルトと婚約する前の記憶はレイラという名前しかなかった。

それは私が病に倒れた際に記憶喪失になったと言われていたがそうではなかったようだ。

そして、アイコは話を続ける。



「私はね、あの世界にいたころもこの世界の記憶が残っていたの。あとラインハルトがね、私が声を出さないのを良いことに酔っ払ったときに勝手にいろいろと話し始めたり、詰めが甘くてね。本当に馬鹿でしょ?貴女の嘘の写真にも容易く騙されるし」



アイコは思い出したように笑った。

そして、あの世界で私がなにもできなかったのをいいことに今も警戒心もなくペラペラと話を続けた。



「ねぇ?あの男、顔は良いけどとにかくアレが下手くそなのよね。あと赤ちゃんみたいに甘えてきたのはゾッとしたわ。あなたもそう思わなかった?」


「なんのことかしら?」


「えっ……あなたって彼と本当にそう言う関係は何もなかったの?」



アイコは驚くように言った。

私はラインハルトに未練もなければ、名前だけで嫌悪感が込み上げてくる存在だったので、急かすように言葉を返す。



「ないわ。そんなこと今はどうでもいいでしょ?それで?」


「あら?せっかちなのね。まぁ、いいわ。それで私たちは元の世界に戻ることができなように、その人の1番大切なものを代償に強力な魔法で拘束させられてたってわけ」


「1番大切なもの……?」


「そう、私は『声』だった。それを思い出してこっちの世界に戻ってこられたの。そして今はその声で多くの人を魅了してるわ」



私はアイコの話を思わず聞き入ってしまう。

すると、彼女が再び口を開いた。



「あははっ、その様子だと本当に何も思い出してないみたいね。でも……それなら何で戻ってこられたのかしら?」



彼女は不思議に思う様子で私を見た。

私はいろいろと気になることはあったが本題を忘れそうになる前に口を開いた。



「さあね、まぁ今はそんな話どうだっていいわ。それよりなんで貴女はこんなことするの?」


「……ん?なんのことかしら?」



そう言われて私は鞄の中から鍵やスマホなどをテーブルの上に出して、雑誌を引っ張り出す。

そしてアイコにマオの嘘の記事が書かれた雑誌を見せつけると、彼女の目つきが変わった。



「なんで、アンタがこの男と関係があるの」


「それはどうでもいいから答えて」



私が低く冷たい声でアイコを突っぱねると、彼女はあっけらかんと口を開いた。



「私はね、欲しいものは手に入らないと気が済まないタイプなの。でも、マオは恋人もいないのに全然私に振り向いてすらくれなかった」


「だからあんな嘘をついたの?付き合ってすらないマオに暴力を振るわれたなんて嘘を……」


「だって、私が手に入らないものは壊すしかないでしょ?」



そういうとアイコは口角を大きく上げる。

目だけ笑ってはいないような不気味な笑み。

私は思わず呟く。



「ふふっ……貴女狂ってるわね」


「何か問題でもある?あはははっ、いい気味よ!私を相手にしなかった罰!今まで築いてきたこのキャリアを崩されてどういう顔をしているのかしら!あーーはっはっは」



彼女の甲高い笑い声を聞いていると、私も怒りが込み上げてきて、静かに低い声で彼女の笑いを遮った。



「ふふふっ、そろそろ口を慎んだ方がいいわよ」


「どういう意味?」


「そのままの意味よ?いくら相手にされないからって、あんまり調子に乗らないで……ね?」



私は悪女のように艶のある笑みを浮かべる。

不意に自分に噛みついてきた私の言葉と態度に彼女は本性を表し始めた。



「うるさい!うるさい!うるさい!あんな男っ、消えてしまえばいいのよ」


「ふふっどうしたの?そんなに取り乱しちゃって?逆に聞くけど欲しかったものが手に入らないなんて……どんな気分かしら?ねぇ?教えてよ、どんな気分?ふふっ」



楽しむような声と表情で私は彼女をさらに煽った。

それは効果的だったようで、余裕のなくなったアイコは可愛らしい顔を歪ませて低い呻き声のように呟きながら怒りを露わにした。



「……殺す」


「はぁ、貴女って意外と語彙力ないのね」



私がそういうと彼女はふと気持ちを切り替えたように顔に不気味な笑みを浮かべた。



「こうなったら……もっと派手な嘘の記事を書いてもらうわ」


「あら?貴女の他にも協力者がいるの?」


「はっ!当たり前じゃない。私と寝て協力しない男なんていないわ」


「そう、よかったわね。その人たちにた〜くさん相手にしてもらえるじゃない。ぷっ……本当に振り向いて欲しい人には相手にされないのに……ね?ふふっ」



私はにっこりと笑顔を浮かべながら見つめると、彼女は再び怒りの感情に露わにし、鬼のような形相で私を睨みつけた。



「アンタ……本当に殺す。マオも殺す……私のものにならないやつなんて許せない……。まずはアンタから殺す」



今度は本気の様子で、アイコはキッチンに向かった。

私は彼女が何をするのかと思って、その様子を見ていたら包丁を持ったアイコが出てきた。


私はやりすぎたと思い、テーブルの上にあった携帯を手に取り後ずさる。

そして、アイコは私に笑みを浮かべながら睨みつけると包丁を振り翳した。

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