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悪女、過去を振り返る



「レイラ、今日もいい天気だね」



そういって、まだ少しあどけなさの残る私の前で爽やかに微笑む彼は、次期国王の第一候補で私の婚約者ラインハルトである。

そして私も微笑み返すとラインハルトは顔を少し赤くし、甘酸っぱい時間が2人の間に流れる。


私は、10歳の頃ラインハルトの婚約者となった。

なぜなら、私に莫大な魔力があることがわかったからだ。


この国では魔力がとても重要視されているが、その魔力は生まれてきた時点で決まっており、増えることはなく、使えば寿命のように減っていく。

ただ底をつきたところで死ぬわけではない。

しかし、魔力が中心のこの国で生きていくのは非常に大変だった。


そして、この魔力量に関しては親からの遺伝などは関係ないため人々は魔力が底を尽きることに怯えながら暮らしていた。


そこでこの問題を解決するため、魔宝石という魔力の込められた宝石が生み出された。

これは魔力を多く持つものが自分の魔力を宝石に込めることで生み出され、そこに込められた魔力は他者も使うことができるのだ。


ゆえに莫大な魔力がある私は重宝され、この国の次期国王第一候補であるラインハルトと婚約することになったのだ。

それからというもの、私は優しい婚約者ラインハルトのもとで、魔宝石を作りながらこのお城で生活していた。


しかし、それは一変する。


もうそろそろ結婚の儀式を行なっても良いと言う歳の頃だった。

小鳥の囀りが聞こえてくるほど穏やかな朝、その時は訪れた。


慌ただしく私の部屋のドアが開き、ラインハルトが荒々しく足音を立てながら入ってくる。

初めて見る彼の怒りのこもった目。

そして私の前に来ると、彼は捲し立てるように大きな声を上げた。



「レイラ、これはどういうことだ!」



ラインハルトは更に私に詰め寄り、何かを近くにあったテーブルの上に叩きつける。


男に抱き寄せられている写真。

先ほどの男と違う男とキスをしている写真。

人目を避けるように手を繋いでいる写真。


どれも違う男。

ただその男たちと一緒に写真に映っていたのは全て私だった。


この国では結婚前の男女の触れ合いはあまり良いとはされなかったため、真面目な私はラインハルトに対してもそういう行為を断っていた。


私は必死で否定したが、彼は信じてくれなかった。

そして最悪なことにその写真が城内の人たちに流失してしまう。


そこからは早かった。

まるで、燃え盛る火のように辺りを巻き込んでいく。

やがてその噂は国中に広まり、私は次期国王第一候補ラインハルトの婚約者でありながら、数多くの男に手を出し翻弄する悪女と言われるようになった。


それから、本来結婚の儀式が行われるはずだった予定も無期限延期となり、ラインハルトも人が変わったように私に冷たく当たった。


そして彼は私の代わりに別の女を可愛がるようになっていた。

魔力量の多い彼女は遠く国から来たらしく、それ以来この城で手厚くもてなされていた。

だが、私は彼女のことは名前すらよく知らなかった。

ただ以前からラインハルトと彼女の距離が近いのは気になっていて、私との結婚が延期になってから彼が毎晩堂々と彼女を呼ぶようになり2人の関係を確信した。


私に優しく微笑みかけてくれるラインハルトは、もうそこにはいなかった。


友人も使用人も、今まで私の側で優しくしてくれていた者たちは手のひらを返すかのように皆隠すことなく嫌悪感を露わに私と接した。

誰も信じてくれる者はいなかった。


だから、私が自分の心を守るためにはこうするしかなかったのだ。


誰にも期待してはいけない。

何事にも希望を持ってはいけない。

それで傷つくのは自分だけだから。



ーー悪女になるしかなかったのだ。



でも、私の中でもルールがあった。

振る舞いは悪女のように振る舞うが人を傷つけないというシンプルなもの。

そのように強気で振る舞うことで面と向かって悪意をぶつけてくる人は減っていった。


そして使用人には最低限の言葉しか交わさずに、友人には冷たく関わりを持たないようにする。

なぜならもうこれ以上誰かに裏切られて傷つきたくなかったからだ。

あのとき一切信じてくれなかった彼らにもう無駄な期待はしたくなかった。


また冷やかすように熱い視線を向ける男たちには、普段通りにかわしていたが、私のその振る舞いは思わせぶりだったようで更に悪女としての印象が強くなっていった。


それから月日が経ち私はこの国一の悪女と呼ばれるようになった。



そんなある日、ラインハルトが可愛がっているあの女と遭遇した。

肌寒い日の朝の出来事だった。

私がいつもこの時間に庭を散歩ことを城の中の人なら皆知っていたので、この時間は誰も近寄ろうとしない。

なので、庭に続く外の廊下で女が私を待っているかのように立っていたことに逆に驚かされた。


先程まで彼と一緒にいた様子のその女は私を見ると可愛らしく口角を上げる。

瞳は一切笑っていない。

その妙に不気味な笑顔で、私の横まで来ると言葉を出すことなく1枚の紙を手渡した。


この世界では見たこともない文字で書かれているが何故か私には読むことができた。



『あの写真、上手に出来てたでしょ?』



私の背筋がゾクっと冷たくなる。

風が肌を沿うように流れ、庭へ繋がる外の廊下を吹き抜けた。


そして、誰もいないこの場所に私の声だけが響いた。



「貴女がやったの?」



女は言葉を発することなく薄気味悪く満面の笑みを浮かべている。



「なんでそんなことを……」



私は女に向かって強く言い放つと、突然女は自分の身体を魔法で傷をつけ始めた。


私が訳もわからず立ち尽くしていると、彼女は魔法で頭から水をかぶった。

そして助けを呼ぶように魔法で大きな音を出す。


すると、いつも私と時間をずらして庭に来ていたラインハルトがそれに気づき、駆け寄ってくる。


傷から血を流し、水に濡れた身体を震わせ涙を流す()()()()()彼女を抱き寄せ、私の方を睨みつけると冷たく低い声で言い放った。



「お前……こんなことして許されると思っているのか。いくら、自分の思い通りにいかないからって……」



ラインハルトは怒りで我を忘れたように荒れ狂った。

そして、手当たり次第魔法を放つ。


私はこのままではここで殺されると察し、逃げる為にあたりを見渡した。

すると1匹の黒猫が庭をゆっくりと歩いていた。


ラインハルトが放つ魔法の先にその黒猫がいると気づいた時、私の考えることなく身体を動かしていた。

私は黒猫に覆い被さるように守った。

咄嗟の出来事で簡単にしか身を守ることができず、背中に当たったラインハルト魔法の痛みをグッと堪えて、私は黒猫に怪我がないか確認する。



「大丈夫?」


「ニャァァオ……」



傷ひとつなく元気そうに鳴く黒猫を見て安堵した。

しかし、彼の魔法で受けた傷は大きく私はそこで意識を失った。




♦︎♦︎♦︎


気がつくと冷たい石畳の上に寝かされていた。

目の前には強化魔法のかけられた鉄格子。

両手首には手錠をかけられているが、身体の痛みは感じない。


すると、遠くから異なる足音が響いて、それは私の方にだんだんと近づいてくる。


その人物たちに予想はしていたが、不思議と怒りは湧いてこなかった。



「目を覚ましだんだな」



ラインハルトは冷たくそう言い放った。

そして、横にいた女は口角を少し上げ隠しきれぬ優越感を放ちながら私を見る。



「彼女は……アイコは……話すことができない。そんな彼女に対して誰も見ていない所であんな風に傷つけるなんて最低だな。そんなお前に対してもアイコは自分の魔力を使い怪我を治してあげたんだ。優しいとは思わないか?お前みたいな悪女と違ってアイコは本当に美しい心の持ち主だ」



ラインハルトはそう話を続けると、横にいたアイコという女を抱き寄せ頭を撫でた。

アイコは艶っぽい笑みを浮かべながら顔を赤くし、ラインハルトを見つめる。


私はそんな2人に冷ややかな軽蔑の眼差しを向けていた。

それから、ここが私の部屋になった。

冷たく静かな1人だけの部屋。

鉄格子の向こうには出ることはできない。

永遠と殺されない為に1人で魔宝石を作り続けるのだ。



その後、私とラインハルトの婚約は破棄され、すぐに彼に新たな婚約者ができた。


それはアイコだった。

彼女も私程ではないがかなりの魔力を持ち合わせていたのでスムーズに事が進んだ。


それから、アイコのはからいで私は牢屋から出ることになった。

彼女が一体何を考えているのかわからない。

ただ私は牢屋よりも快適に過ごすことができる部屋で、いつも通り宝石に魔力を込めていた。



それから少し経ち、突然彼女は姿を消した。

残された私が疑われたのは言うまでもなかった。


あの時から変わらない。

私を信じるものは誰もいない。

そして、このタイミングで唯一の利用価値として残されていた魔力もとうとう底をついてしまった。

自分を守るものは何もない。



それから、私の処刑が決まるまでそう時間はかからなかった。

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