悪女、話を聞く
マオの異変に気づいたのは、私が部屋の掃除をしていた時のことだった。
いつもは帰ってきてから疲れた様子など一切見せないマオが、この日はひどく疲れた様子で足取り重く帰ってきた。
本人は何でもないと言っていたが、明らかに様子がおかしかった。
そして、私がその理由を知ったのはその翌日のニュース番組だった。
その時、幸いにもマオは家にいなかった。
私はそれを見てマオがこんなことするわけがないと、私は怒りに震えた。
ただこの画面の中の人たちは、まるで共通の敵を見つけたかのように集中的に非難する。
私はそんな彼らの行為に吐き気がした。
その後、バイト先で梨花子とこの話題になった。
「レイラちゃん、真緒のあの……ニュース知ってる?」
「知ってます。でも、マオは……あんなことしない」
私がそういうと梨花子も頷きながらポツンと呟いた。
「よかった……。レイラちゃんが真緒のこと信じてくれて」
そして梨花子は少し悲しそうな表情をした。
実の弟がこのように悪意を持って世間に晒されていたら誰でも悲しくなるだろう。
そんな梨花子の表情を見ていると、私もマオの辛そうな顔を思い出し、自然と怒りが込み上げてきた。
♦︎♦︎♦︎
それから数日経ったある日、私はバイトを終えて家に帰る途中、薄いピンク色の髪をひとつに纏めたショーンとたまたま一緒になった。
目立たないようにしながら顔も一切合わせることなく、マンションの中に入ったところで、ようやく言葉を交わす。
「冷たい態度でごめんね、あんまり外で女の子と関わるの控えててさ」
「大丈夫よ、気にしてないわ」
私は気を遣わせないように軽く微笑みながら言葉を返すと、ショーンが口を開いた。
「ありがとう。ところで、マオは大丈夫?」
「わからないわ。弱いところはあまり見せてくれないから」
「そっか……」
ショーンが心配そうにそう呟くと、私は彼に疑問をぶつける。
「ねぇ、突然で申し訳ないんだけど、あの交際相手の女って誰か心当たりあるのかしら?」
ショーンは黙って考えるように私を見つめる。
「……それを聞いてどうするの?」
「消すわ」
「ーーぶふっ!」
私が前の世界で振る舞っていたように冷たく低い声で答えると、ショーンは吹き出して声を出して笑った。
「レイラちゃん、面白いね。」
「そう?私は至って真剣よ?」
私がそう言ってショーンを見ると、彼も少し真剣な顔つきになる。
「本当に誰だか知りたいの?」
「えぇ、知っているなら教えて欲しいわ」
「……じゃあ、俺の部屋で話そうか」
そう言われて、私はマオ同じフロアのショーンの部屋へと向かった。
マオの部屋の前を通り過ぎ、1番奥がショーンの部屋だった。
「どうぞ、レイラちゃん」
中性的な顔立ちのショーンからエスコートを受けて、部屋の中に入って行く。
統一感のあるお洒落な家具が出迎える。
部屋には甘く爽やかな香りが漂っていて、ショーンの雰囲気ととてもよく似合っていた。
「座って待ってて。飲み物用意するから」
そういわれたので、私は1番近い椅子に座った。
少しするとショーンがキッチンから出てきて、私の前に紅茶の入ったカップを置き私の向かいの席に腰掛けると、本題を切り出した。
「マオの記事の件なんだけど、その記事に出ていた交際相手の歌手はおそらく渋川愛子じゃないかと俺たちは推測している」
「渋川愛子……」
私はこの名前を脳裏に刻む。
そして、ショーンは話を続けた。
「その女だとしたら、かなり厄介でね。以前、仕事で俺たちのグループに近づいたときにマオに目をつけたみたいでさ。それから、私物を盗んだり盗撮したりしてたんだけど証拠が一切見つからなくて。あと他の大手事務所だからこっちも強くでられなくてね。それで結局共演NGにすることくらいしかできなくて……」
ショーンはそういうと自分のスマホを取り出して、黙って指をスライドさせながら操作する。
そして、何かを見つけたように私の前に携帯の画面を出した。
「そうそう、この女なんだけどね」
その歌手の画像が画面に映し出されている携帯を受け取ると、それを見て私は固まった。
「この女……」
思わずそう声が漏れる。
不思議そうに見るショーンを横目に、私は画面の女をじっと見つめた。
一見、純粋そうに可愛らしく微笑む彼女。
それは、あの世界で私を陥れた時と全く同じ笑顔だった。




