悪女、余韻に浸る
マオは中央のサブステージで1曲終えた後、再びメインステージに移動していた。
「おーい!レイラちゃん」
私の目の前で結子の手がひらひらと動くと、ハッと我に帰った。
「ねっ、言ったでしょ?かなりいい席だって」
結子は顔を赤くし、興奮冷めやらぬ様子でそう言った。
私もまさかマオと目が合うなんて思ってもなかった。
そして目視できる距離でマオのパフォーマンスを見ていて、胸が苦しくなるほど脈打っている。
「……すごかったわ」
「ねっ!まだまだ続くから、レイラちゃん!全力で楽しもう」
そう言ってペンライトを振りながら、満面の笑みを浮かべる結子に、私もただ黙って頷いた。
それから最後の曲が終わり、彼らの世界から解き放たれた私たちは満足感や感動、興奮といった感情だけを心に残す。
それはじわじわと身体中を巡り、余韻となって私の胸を締め付けた。
「レイラちゃん、大丈夫?」
顔を紅潮させ、ぼーっとしていた私を結子が心配そうに見つめた。
私はハッとして彼女の方に顔を向ける。
「大丈夫よ。想像よりすごくて頭が追いつかなくなっちゃったの。いまもドキドキしてるわ」
「恋しちゃった?」
「そ、そんなわけないでしょ!」
「ふ〜ん……」
結子が怪しそうに見つめる。
それから私たちは会場を出て、徐々に外の世界と溶け込んでいく。
私たちと同じように充足感を得た人々をかき分けるように進んでいると、突然私の携帯が鳴った。
私は何かと思い、ぎこちない様子で電話をとった。
『……来るなら先に言って』
「まさか見つかるなんて思ってなかったから」
私がそういうと、結子は電話の相手がわかってしまった様子でニヤニヤと見つめる。
『どうだった?』
「すっごく楽しかったわ!」
『それならよかった』
マオの声を聞いていると先ほどのように再び胸がドキドキしてキュッと締め付けられるような感覚になる。
『ねぇ、レイラーー……』
「ん?なんて言ったの?聞こえない」
会場の外を歩いている私の周りには他の観客で溢れかえっていて、それはマオの声の邪魔をする。
『いや、なんでもない。じゃあまた』
マオがそういうと、私は気になったが聞き返す余裕はなく電話も切れてしまった。
その様子を見ていた結子が私の耳元で声をかける。
「ねぇねぇ、なんで言ってたの?」
「う〜ん……よくわからないわ。聞き取れなかった」
「たしかに、この人混みじゃ無理ね」
結子は少し声を張り上げてそういうと、私たちは会場を後にした。
♦︎♦︎♦︎
それから結子と別れた後、部屋に帰り1人くつろいでいた。
私は心地よい疲れを感じながら、ソファーにグダっと持たれかかる。
そして、静かな部屋に寂しさを感じてテレビをつけた。
わいわいと騒がしい画面の中の人たちをぼんやりと眺め、寂しさを紛らわすように無意識にリモコン手に取り音量を上げた。
画面の中の人たちの笑い声がだんだんと大きくなり部屋に響く。
久しぶりにマオの姿を見て、今まで蓋をしていた寂しさが込み上げてきた。
ふっと、私は横に置いていたマオのキャラクターのぬいぐるみを手に取り話しかけた。
「ねぇ、いつ帰ってくるのよ……私の騎士のくせに、放置するなんて。マオのばか」
そう言って私はマオのぬいぐるみをギュッと手で握る。
「ばかで悪かったな。これでも頑張って早く帰ってきたんだけど」
その声の主に気づいて急いで振り返る。
マオが黒いマスクを顎までずらしてニッコリと笑った。
ずっと聞きたかった声に、私はテレビの音なんて聞こえなくなる。
「ただいま」
そういって優しく微笑むマオに私は駆け寄った。
そしてマオに頭を優しく撫でられ、思わず私は顔を赤くする。
「おかえり、マオ」
私は嬉しさ全開の笑顔でマオを出迎えた。
そして、マオは私の手に持っていたぬいぐるみを取り上げるとニヤリと笑う。
「ねぇ、ぬいぐるみに話しかけないで俺に直接甘えてきたらいいのに」
「……ちょっと!マオ、いたなら早く声をかけてよ!」
私は恥ずかしさのあまり顔を赤くしながらマオを軽く睨みつける。
すると、マオが悪戯っぽく口を開いた。
「お土産いる人〜?」
「えっ、お土産あるの!もしかして……プリン?」
「正解!」
怒っていたことを忘れるかのようにはしゃぐ私を見て、マオが吹き出すように笑い始めると、私もそれにつられて笑みが溢れる。
久しぶりに部屋の雰囲気が明るくなっていた。




