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その男、沼にハマる

俺たちはいつものように衣装を着替え終えると、ステージ裏でブレイクタイムを過ごす。

ライブときはメンバーも興奮気味でテンションが少し高くなり、各々はりきって次のパフォーマンスの準備をしていた。

すると、子犬のように人懐っこい笑顔を浮かべているハルが俺の横に来た。



「ねぇ、マオ〜!次の演出で出てくるところって僕と一緒だよね?」


「ああ、俺と一緒」



俺は身だしなみを軽く整えながらハルに返事をすると、薄いピンク色の長髪を1つに束ねた中性的な顔つきのショーンも話に加わってきた。



「そして、マオマオたちの前に俺たちが行くんだよね?」


「おいおい、お前らちゃんと覚えておけよ」



そういって、ショーンとハルに呆れた顔をしているのはリーダーのカグヤだった。

カグヤは黒髪の短髪がいつもよりカッコよく整えられていてより大人っぽく見える。


そのカグヤの後ろから双子のヤマトとミナトがお互い見合って準備をしている。

そして、赤髪の短髪リュウマは真面目に振り付けの確認をしていた。



各自ブレイクタイム後のパフォーマンスの最終確認をしていると、スタッフから声がかかった。

その声で俺たちは表情にスイッチを入れ、リーダーのカグヤの掛け声で再び表舞台への扉が開いた。


次の曲はメインステージを使わずに中央のサブステージを使ってパフォーマンスをするので、オープニングで使った入り口ではなく中央より少し後ろの入り口から出ていくことになっていた。

まずは、リーダーのカグヤと薄ピンクの長髪を1つに束ねたショーンが出ていく。

すると、扉の向こうの光り輝く世界から大きな歓声が聞こえてくる。

俺は早く向こうの世界に行きたい気持ちを抑えつつ、冷静さを保っていた。


その歓声が少し遠のいたところで、次に俺とハル、最後に双子のヤマトとミナトがリュウマと一緒に出て行った。


この通路から中央のサブステージにかけては顔が識別できるほど客席が近い。

俺は手を振りながら歩いてサブステージへと向かい、ファンサービスを込めて甘い笑みを浮かべると絶叫のような歓声が上がった。

するとそれは連鎖するように俺の進んでいった道に余韻を残していた。


俺はふと確認するようにサブステージ付近に目線を動かすと、いるはずのないレイラが見えた。

それはまるで一瞬時が止まったかのような不思議な感覚だった。

長い艶のある黒髪をふわりと靡かせ、猫のような少しつり上がった瞳が俺を見つめている。

少し頬が紅潮していて、どことなく色気を漂わせながら、口の動きが俺の名前を呼んでいた。


すると、一緒にいたハルがそんな俺の様子に気づき、ファンに聞き取れない程度で声をかけた。



「マオ、どうしたの?」


「……なんでもない」



俺はハルの声で我に帰ると、危うく彼女に意識を持っていかれかけていたところに再びスイッチを入れ直し、ファンの中を進んでいった。


ステージに立つと、レイラに格好悪いところを見せたくないという自分のプライドが俺に変にプレッシャーをかける。


そして、全員が中央のサブステージに揃うとパフォーマンス前の軽いトークが始まった。

他のメンバーのトーク中はしっかりと表情を作っているが、目では自然とレイラを探して見つけてしまう。


ペンライトをぎこちなく振り、俺のぬいぐるみが苦しそうなくらい強く握りしめられている様子に思わず笑ってしまいそうになる。


そしてメンバーのトークを聞き、純粋に楽しんでいるレイラは見惚れてしまうほどキラキラとした笑顔を浮かべていた。

しかし、その笑顔が他人に向けられていると思うと、俺の中の今まで知らなかった感情が沸々と湧き上がってくる。


そうこうしているうちに、俺にマイクが回ってくると、期待するようなファンの歓声が上がった。

俺はそれを煽るように甘く微笑みながら口を開いた。



「みんな、楽しんでくれてる〜?」



沢山の人たちがペンライトを返事するように振り返してくる。

その1人にレイラもいて、楽しそうな笑みを浮かべながらペンライトをぎこちなく振る。



「よかった。俺、なんか久々に緊張してきた」



メンバーがそう言った俺を揶揄うようにステージ上でわいわいと騒ぐと、そのやりとりに観客からも笑い声が上がる。

そして、それがひと段落して俺はレイラに目線を送ると、彼女もそれに気づき笑顔になる。

何気ない彼女のその笑顔に俺の気持ちは煽られる。




ーー初めて出会った時から、きっと俺はレイラに魅了されていた。


そして、彼女の様々な一面を見ていくうちに俺はじわじわと沼に嵌っていく。


それは、もっと彼女のいろいろな表情が見てみたいとというような単純な欲望だけではない。

ただ彼女が俺以外の男を見ている笑っているだけで嫉妬で胸が苦しくなり、その笑顔を自分だけに向けて欲しいとさえ思ってしまう。

そして、気づいた頃には抜け出せなくなっているのだ。



俺はとんでもない悪女に恋した。


目が離せないほど魅力的で、俺を手玉に取るように揶揄い、ふわりと柔らかに微笑む彼女に。

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