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悪女、男装する

私は今日マオに仕事を紹介してもらうために、外出する準備をしていた。



「マオ?どうかしら?」



着替え終えると私はマオの前に姿を見せた。

カジュアルな格好に黒いマスクを顎まで下ろして、準備を終えた様子でソファーに座っていたマオがゆっくりと立ち上がり私の方へ歩いてくる。

そして、まじまじと私の顔を見つめた。



「まさに()()()って感じだな」



というのも、いま私は生まれて初めて男装をしている。


ちなみに、この男装セットは結子と買い物行った時に、念のために買っておいてとマオが頼んでいたものである。


私は長い髪を結んで帽子の中に仕舞い込み、黒いマスクを鼻まで覆うように付けている。

確かによく見ればバレてしまうかもしれないが、目元しか見えないし身長もマオより低いが他の女の子よりは高いので、パッと見は誤魔化せているだろう。



「なんか、ワクワクしてきたわ」


「……余計なことすんなよ」



そう言ってマオがジロリと私の方を見る。

私は黒いマスクをずらして、口紅で赤く彩られた唇をキュッと上げ、大丈夫だというようににこやかな表情を浮かべた。

それをマオは怪しむように見つつ、ほんのりと赤い顔を隠すように、顎まで下ろしていた自分のマスクをしっかりと上げた。

そしてマオが自分の横にあった帽子をサッと被ると、私たちは部屋を出た。


すると、たまたま通りかかった隣の部屋のハルとすれ違う。

ハルは帽子とマスクを外しながら、子犬のように人懐っこい笑顔を浮かべている。



「あ〜!マオおはよ。偶然だね」


「ああ。ハル、おはよう」


「えっと……隣の子は……?もしかしてレイラちゃん?」


「えぇ、おはよう。ハルさん」


「男装すごいね!とっても綺麗」



驚きながらも笑っているハルに、私も楽しい気持ちになり自然と笑顔になる。


すると、マオが私の腕を軽く引いた。

私は何事かとハルから視線を逸らしてマオの方を向くが、彼はそれを無視してハルに声をかけた。



「……じゃあ、俺たち出かけるから」


「はいはい〜、いってらっしゃい」



ハルは少し顔をニヤニヤさせながら手を振って私たちを見送った。

そしてハルが見えなくなると、私の腕を握っていたマオの手がパッと離れた。



「……ごめん」


「ん?痛くないから大丈夫よ」



私がそう言って微笑むと不安そうだったマオの表情も和らぐ。

それから、私はマオと一緒にエレベーターに乗った。



「もう怖くないんだ?」



少し意地悪そうに見つめるマオを私はじっと睨んだ。

たしかにエレベーターというものは苦手だが、不思議とマオと一緒だと安心する。

私は自然とマオの服の裾を少し掴むと、それに気づいたマオが私の手の上にそっと自分の手を重ねて、イタズラっぽく微笑む。


そして、ほんのりと甘い空気になった2人だけの空間は、その時間を名残惜しむように降りていった。



それから私たちは目的の場所へと向かう。

大通りから少し細道に入り、少し歩くと1軒の小さなお店に着いた。

マオが木製のドアをゆっくり引くと、カランカランという穏やかな音とコーヒーの香りが私たちを出迎える。

店内には誰もおらず、静かな時間だけが流れていた。



「おーい!梨花子、バイト連れてきた」



マオが少し声を張り上げると、奥から1人の若い女の人が足早に出てきた。

そして、マオに抱きつく。



真緒(まお)〜、元気にしてた?突然連絡してくるからびっくりしたわよ」


「……ちょっと、離せよ」



少し恥ずかしがりながら離れるマオを女の人は揶揄うように笑った。

そして、ふと私に気づいた様子で女の人は口を開いた。



「その子がウチで働きたい子?」


「ああ、よろしく頼む」


「まぁ、いいけど。それにしても凄く()()()ね」



そういうと、私のことをじっと見つめる。

彼女はクールな見た目だが、少しお茶目な雰囲気の女性だった。



「私、五十嵐梨花子。真緒から聞いてると思うけどよろしくね」



私は聞いていなかったので思わずマオの方をジロリと見る。

マオはそんな私の視線を感じながらも、合わせようとはしない。

その様子を見て、梨花子が察したように口を開いた。



「真緒、あなたこの子に何も説明してなかったのね!ごめんなさいね。私は真緒の歳の離れた姉よ」


「えっ!マオのお姉さん!?」



私は思わず驚く。

確かに言われてみればどことなく切れ長な目元がマオに似ている気がする。



「あははっ、びっくりした?……ところで、あなた名前は?」


「レイラです」



私はそういうと帽子とマスクを外して挨拶をする。

その姿を見て今度は梨花子が驚く。



「あなた……女の子だったの!てっきり、男の子かと思ってたわ」



そして、梨花子はニヤリと笑いながらマオを見た。



「真緒、レイラちゃんってもしかして……彼女?」


「……違う」


「ふ〜ん、そっか」



そう何か言いたげに見つめる梨花子を、マオは鬱陶しそうにあしらった。

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