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その男、巻き込まれる



「ふぁ〜……マオ、おはよう。早いわね」



俺の部屋から出てきたレイラは呑気にあくびをしながら、トコトコと歩いてくる。

ほとんど眠れなかった俺はソファーに身体を預けるようにゆったりと座って返事をする。



「……おはよう」



そのままレイラが俺の横に座ると、俺の目の下のくまに気づいた。



「全然、寝れてないの?」



そういって心配そうに俺を覗き込むレイラと目が合った。



「……不眠症なのね。可哀想に」


「ぶふっ!」



的外れのことを言うレイラに俺は思わず吹き出した。

まさか自分のせいで眠れなかったと思っていないレイラが不思議と面白く感じて、俺は心の底から笑っていた。

レイラは何故ここまで笑っているのか分からず、最初はオロオロとしていたが、最終的に俺の笑いが伝染したのか彼女も笑っていた。


そして、2人でひとしきり笑い終えると、レイラが俺に声をかけた。



「マオは、私の騎士(ナイト)なんだから体調管理もしっかりするのよ」


「出たな、その謎の設定」


「ちょっと、それどういう意味よ」



レイラが少し頬を膨らませて俺を見る。

そして、俺は少し呆れながら話を続ける。



「そもそも騎士って必要ないだろ」


「ダメよ!いかなる時でも私を守ってもらわなきゃ」


「はぁ……」



俺はそう溜め息を吐きつつ、横にいたレイラの肩を軽くソファーに押し倒す。



「ちゃんと自分で守れるようにならないと、騎士だって何するかわかんないだろ?」



俺は漂う甘い香りにグッと耐えつつ、驚いた表情を浮かべる彼女を見下ろした。

レイラの瞳は熱帯びることも拒絶することもなく、ただ俺を見つめていた。

瞬きひとつしない彼女に痺れを切らし俺から目を逸らした。

すると、レイラの表情が変わり、ふわりと花が咲き乱れるように顔がほころんだ。

そして、俺の頬に華奢な指先を添えた。



「ふふふっ、私の勝ちね」


「何の勝負だよ」


「先に目を逸らした方が負け。そして勝った方の言うことを聞くの」


「ははっ、なんだそれ。突然すぎて卑怯だろ」



そう言って俺は声を出して笑った。

レイラもそれを聞いてクスリと笑う。


出会って間もないが、俺は彼女の魅力に気付き始めていた。

そして、異世界から来た男を弄ぶ悪女のような彼女にこれ以上近づいてはいけないと、自分の気持ちにブレーキをかける。


そんな俺の考えていることなど全く気にせず更に煽るように、彼女はふわりと笑顔を浮かべ、果実のように赤く可愛らしい口を開いた。



「じゃあ、マオ。私を守ってね」



これ以上は引き返せなくなるぞと言わんばかりに、けたたましく頭の中で鳴る警告音を無視して、俺はレイラの手を取った。



「はいはい、お嬢様」



こうやって考えるのをやめて、彼女のペースに巻き込まれていくのも悪くはないのかもしれない。

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