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その男、振り回される

俺はどうも彼女に弱いらしい。

笑顔ひとつで顔を赤くしてしまうほど、俺はレイラにかき乱されているからだ。


彼女に化粧を教えた結子がニヤニヤとしながら俺を見ている。

そして、いつも以上に美しく彩られた顔で微笑みながら返事を待つレイラに俺は言葉を返した。



「ああ、いい感じだな」


「ん〜他には?」



そういうと、レイラは男を手玉に取る悪女のような笑みを浮かべ、俺を試すように見つめる。

そんな姿を見て俺は黙って唇を噛んだ。

すると、彼女は追い詰めるようにジリジリと近づいてくる。


そして、目の前に来たレイラに勝てないと白旗をあげ、大人しく彼女の欲しがっているであろう言葉を口に出した。



「……綺麗だよ」


「ふふっ。よくできました」



そういうと満足そうな表情のレイラがさらに俺の方に近づいて来て、そっと俺の頭に手を伸ばし、ポンポンと優しく撫でた。

思わず自分から手を伸ばしてしまいそうなほど彼女の甘い香りがふわりと漂う。

その様子を見て、幼馴染の結子はニヤけながら口を開いた。



「マオのそんな姿を見られるなんて、レアだわ〜」



俺は眉間に皺を寄せながら、結子をじっと見た。

それを受け流すように彼女は話を続けた。



「じゃあそろそろ私は帰るわね。レイラちゃん、何か困ったことあったら言ってね」


「結子さん、ありがとう。とても助かったわ」


「いえいえ、こちらこそ。とっても良いものが見れたわ」



結子はニヤニヤとしながら俺を見ると、手早く帰る準備をする。

そして、レイラが玄関まで見送りに行った。


俺はその間に冷静さを取り戻した。

ただ先ほど俺に向けられた、赤く艶やかな唇の端を柔らかく上げた美しい彼女の笑顔は俺の頭から離れることはなかった。




♦︎♦︎♦︎


その日の夜も、レイラが俺の寝室のドアをノックする。

俺がベッドに横になったまま返事するとドアが開き、枕を両手に握りしめたレイラが入ってきた。

新しく買った可愛らしいパジャマに、俺が乾かしてやった黒髪からふわりと甘い香りが漂う。

そして、猫のようにつり上がったグレーの瞳が少し怖がっている様子で俺を見つめていた。



「今日も1人で寝れないわけ?」



レイラが大人しく頷く。

強気な彼女のそんな姿が面白く、俺は少し意地悪してやろうとレイラに冗談を言った。



「じゃあ一緒に寝る?」


「えっ、いいの?」



彼女の予想外の反応に俺が言葉を返さずにいると、ニコニコと笑うレイラが勝手にベッドに自分の枕を置き、布団の中にするりと潜り込んだ。

そして、顔だけひょこっと出す。



「じゃあ、おやすみなさ〜い」


「ちょっ、おいっ!なに俺のベッドで寝てるんだよ」


「なにって?一緒に寝てくれるって言ったじゃない」


「だからって本当に……」



俺は頭を抱える。

ダブルサイズのベッドなのでスペース的には余裕があり、今更冗談とも言いづらい。

そして、横にいるレイラは至って平常モードで俺だけが意識しているような状態だ。

なので俺はこのベッドで寝ることを諦めて出ようとすると、部屋着の裾をレイラが引っ張った。



「どこに行くの?」


「いや、俺あっちで寝る」



するとレイラが首を横に振り、置いていかないでと真剣に見つめた。

俺は、ふぅーっと息を吐き、レイラを意識していた自分の気持ちを抑えるように再び布団へと戻った。

俺の気も知らないレイラが安心した様子で嬉しそうに微笑む。


俺はそんなレイラに背を向けるようにベッドに横になった。

仕方がないので気にせず寝ようとするが、背中に気配を感じてなかなか眠れない。


しばらくして、レイラは眠れているのか気になり彼女の方を振り返った。

呼吸に合わせて静かに身体が動き、瞼を閉じている様子はまるで人形のように美しかった。


やはり俺はもう眠れない気がして、そっと起こさないようにベッドから降りると、リビングへ向かった。

そして、ソファーにドサっと腰掛けると、ふうーっと深く息を吐いた。


最初に揶揄って怖がらせたのは俺だが、毎晩こう押し寄せられては俺の方がもたない。

何か対策を考えなければならないなと思いつつ、そのまま俺はソファーで一晩過ごした。

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