悪女、着替える
「レイラちゃん、まずはこの服を着替えましょう!」
そういう言っている人物は、マオの幼馴染の結子だ。
面倒見が良さそうなしっかりした性格の結子は私が付いてきているか確認するように振り返ると声をかけた。
「レイラちゃんごめんね。まさか、こんな格好してるとは思わなくて。知っていたら私の服を持って来たのに」
確かに言われてみれば、マオの服に自分の履いていたヒールの靴を組み合わせるというチグハグなコーデで、私も少し恥ずかしくなった。
少し歩くと、あらかじめ決めていたかのように慣れた様子で洋服店へ入って行く結子に付いて私もそのまま一緒に中へと入って行った。
「結子さん、いらっしゃいませ」
きっちりした格好の女性店員が話しかけてくる。
おそらく、結子はここの常連なのだと理解した。
「こんにちは、今日はこの子に似合う服を探しにきたの」
「でしたら、いつものフィッティングルームにお洋服をお持ち致しますので少々お待ちください」
「ありがとう」
そういうと、結子と共に私は奥の部屋へと入って行った。
部屋はそこまで広くはないものの、洗練されていた。
大きな鏡が私たちを出迎え、奥から服の掛かったハンガーラックを先程の女性店員が運んでくる。
結子はそこから服を数着選び、並べてあった靴や小物の中からいくつか手に取ると私の前のテーブルに置いた。
「じゃあ、レイラちゃん。服着替えてきて!着替え方は……分かる?」
「ありがとう、結子さん。大丈夫だと思うわ」
そう言って私は服と小物を手に取ると、店員がカーテンで仕切ってくれた。
着替えを終えてカーテンを開けると、談笑していた結子と店員が一斉に私の方を向く。
そして、私は自分から口を開いた。
「……どうかしら?」
「レイラちゃん、あなた……最高よ」
結子が目を輝かせながら私を見つめる。
膝丈より少し短いワンピースで、光沢のある生地が高級感を演出している。
私のいた世界では、ここまで足を見せて外に出ることなどなかったため少し抵抗があったが結子たちに褒められて、すぐにそれもなくなった。
それから追加でいくつか着たがどれも良く、選びきれなかったので全部購入した。
一瞬私の頭の中に眉間に皺を寄せるマオが浮かんだが、結子曰く、彼は稼いでいるのでこれくらい問題ないらしい。
そして、先ほど購入したワンピースにそのまま着替えて結子との買い物を再開する。
すれ違う人がまるで珍しいものでも見たかのようにチラチラとこちらを見てくるような気がしたが、前の世界では私の姿を見つければ露骨に嫌な顔をされ、避けられることもあったのでこれくらいは特に気にならない。
結子もテンションが上がっている様子で、2人はショッピングに盛り上がっていた。
友達と買い物なんてしたことがなかったので、私も心から楽しかった。
そして、ラフな私服やパジャマ、日用品など一通り買っていき、私と結子の手はショップの紙袋で塞がる。
かなりたくさん買ったので再びマオの険しい顔がチラついたが、マオは稼いでいるから問題ないだろう。
そう思いながらホクホクとした表情で歩いていると、結子が思い出したかのように声を上げる。
「あっ、メイク道具買ってない!」
確かに言われてみれば、この世界に来てからずっとスッピンで過ごしていた。
結子は私の肌をじっと見ると再び口を開く。
「すっぴんでこのレベル……レイラちゃん、ちょっと凄すぎない?」
「そうかしら?そんなことはないと思うけど」
「羨ましいわ……。じゃあ、最後はメイク道具を買いに行きましょう!」
そう言われて、私は両手に荷物を持つ結子の後ろを着いて行った。
煌びやかなフロアに洗練された店員たち、系統の違うようなお店が区画ごとに並んでいる。
煌びやかなデザインのものやスタイリッシュなものなど、多くの種類の商品が並んでいるがこれが全て化粧品だと聞いて私は驚いた。
結子が私の顔を見ながら手早く商品を選んでいく。
「とりあえず、ベーシックな化粧品を買っておくわね。何かわからないことがあったら私に聞いて」
「えぇ、ありがとう。とても助かるわ」
そういうと、結子は頼られて嬉しそうな笑みを浮かべていた。
♦︎♦︎♦︎
それから部屋に帰ると、マオが私たちの両手に抱えた荷物の量にギョッとする。
「……凄い量だな」
「マオは稼いでいるからダイジョウブ……」
「おい。レイラに碌でもないこと教えんな」
「あははっ、まぁ女の子はこれくらい必要なのよ!部屋はどこ?」
結子はそういうと案内された空き部屋に荷物を運んでいく。
そしてマオが私の方をじっと見て、結子に声をかけた。
「さすが、結子だな。レイラによく似合ってる」
「でしょ?あとはメイクよ。ちょっとレイラちゃん来て」
私は結子に呼ばれてそれから化粧の仕方を教わる。
とりあえず、簡単なことだけで後は動画というものを見ながら学んでいけばいいと言われた。
一通り化粧が終わると最後の仕上げに口紅を塗る。
結子はいくつか種類を選んでいたが、私が気に入ったのはリンゴのように艶のある赤色だった。
それを軽く唇に滑らせるように塗れば、顔が生気を取り戻す。
「どうかしら?」
「レイラちゃん……素敵よ。ねぇ、マオ見て!」
別の部屋にいたマオの気怠そうな足音が聞こえる。
その足音が私の後ろあたりで止まると、私はゆっくりとその方向に振り返った。
「ねぇ、マオ?どう?」
時間が止まったかのように固まるマオ。
そして、私が微笑みかけると彼は絵に描いたように整った顔を赤く染めた。




