2巻発売記念SS:未来のために。
ご希望のあったフェルモたんもちょいと出の発売記念SSです☆
「少しくらい話を聞いてください」
「何を言おうと、駄目だ」
夕食後のティータイム、睨み見合う二人。
こんなにもジェラルド様に反発する息子――アンリは初めてです。
「なぜ駄目なのですか」
「……」
「父上、私はもう十二です」
アンリは十歳のころから、自らの意思で様々なことを決めるようになっていました。
四つ下の弟――ミシェールは、そんな兄を少し羨ましそうに見ています。
「…………十二だからなんだ」
「自分の臣下は自分で選びたいです」
「……」
「父上っ!」
二人のケンカの理由、それはフェルモ様について。
アンリがフェルモ様を側付きの文官にしたい、と言い出したのです。
ジェラルド様が渋られる理由は分かります。
アンリがフェルモ様を側に置きたいと言う理由も、なんとなく分かります。
「…………ニコレッタ」
「お母様っ!」
二人してこっちを見て呼ばないでほしいです。私に決めさせようとしていませんか? それだけは断固拒否なのですが。
「私は……嫌だ」
「はい。分かっていますよ」
「お母様も反対なのですか?」
「うーん」
正直なところ、どっちでもいいというか、どうなろうとも面倒しかないというか、なんですよね。
とりあえずこの場は保留ということにしました。
湯浴みをして寝室に戻り、ベッドで上半身を起こして小説を読んでいると、ジェラルド様が暗い顔で戻られました。
本を閉じてサイドボードに置き、隣に来るようベッドをポンポンと叩くと、ジェラルド様がウェーブした金色の髪をふわふわと揺らしながら、ベッドに入って来られました。
「ニコレッタは賛成なのか?」
「ちょっと面倒なことを言ってもよろしいですか?」
そうお伺いすると、きょとんとした顔にはなられたものの、コクリと頷いてくださいました。
「王妃としては、反対です。でも母として、友人としては、応援したいです」
「…………友人、だと?」
ジェラルド様から剣呑な空気が漏れ出ています。これはどちらの方向で不機嫌になられているのでしょうか?
「ジェラルド様、嫉妬ですか?」
「違う! …………が、違わん」
――――えぇ?
「ニコレッタは許しているのか?」
「いえ。一切」
「っ!?」
なぜか、物凄い衝撃を受けたような顔をされてしまいました。
「ずっと塔に通っているのにか?」
「フェルモ様、あそこから出られませんし」
「そうだが……」
「薬物を使われていたという情状酌量はありましたが、私は一生許しません――――」
でも、フェルモ様はフェルモ様なりに罪を償おうとされています。自身に罪があると理解されています。
そしてそれをアンリにも伝えているようでした。
アンリは教皇様と同じくオーラが見える子です。
純粋な子どもの時期だけ見える子が稀にいるらしいのですが、どうやらアンリは今もなお見えているようです。
そしてアンリは、そのオーラの色で人を判断しているらしいのですが、そのアンリがフェルモ様は大丈夫だと判断したのです。
「…………息子の判断を信頼し、任せる。か」
「はい」
王妃として反対なのは、国内貴族たちへの通達や、政敵たちに餌を与えてしまうからなのですよね。まあ、そこは私たちが頑張ればいいだけではあるのです。未来のために。
「未来のために、か」
ジェラルド様がガシガシと髪の毛をかき混ぜて、ドフリと私の太股の上に頭を乗せて来られました。
金と緑に見えるヘーゼルの瞳でジッと見つめてこられます。
「うふふ」
これは、『頭を撫でろ』という視線ですね。
ジェラルド様は時々とても子どもっぽくなられます。それは凄く凄く可愛くて、ついつい甘やかすように接してしまいます。
「未来のために、動くか」
「はい! ジェラルド様、愛してますよ」
「っ! くそ、私もニコレッタの手の上だな」
「失礼な」
ケネス様がよく『手の上でコロコロしている』とか言ってきますが、そんなつもりはないのに。
「ふははは。ん、明日の朝、許可を出そう。様々な者たちの未来のために」
「ありがとう存じます」
私たちは未来を見て動きます。
子どものため、国のため、償おうと頑張る人のために。
―― fin ――
2巻ですよ2巻!
ヒャッホイヽ(=´▽`=)ノ
ということで、発売記念SSにお付き合いいただきありがとうございます。
コミカライズやらなんやらの件で、またお知らせやSSなど出せる機会があったらいーなーといった感じなのですが、しばらく先になりそうなので、ここで一旦完結設定にしておきます。
ブクマはそのままでいてくれると嬉しいなぁ……|д゜)チラッ
ってこで、また何かの作品で!
笛路