6:嘲笑の的。
王太子殿下に結婚式の成功は、殿下の将来のためなのだと話したあとから、殿下がとても協力的にはなってくださいました。
ただ殆どを決め終わっていたため、殿下は承認のサインをするばかりではありましたが、本人的にはかなり執務を頑張っていると感じているようです。
「私が決定しないと終わらないことばかりだったんだね」
「ええ。なのでこちらの書類の確認もお願い致しますね」
「うん」
宰相閣下や担当官がなにか言いたそうではありましたが、ここで逃げられてはたまらないので、口を噤んでいただきました。
王太子殿下の周りを義妹がうろちょろはするものの、王太子殿下ご自身が私達の結婚式の準備に真剣に取り組んでくださり、どうにか結婚式の前日を迎えることが出来ました。
「昼餐会には各国の王族や使者が参加されますので、ヴィオラの参加は出来ません」
何度もそう言っているのに、王太子殿下は「でも」や「その」ばかり。私の父は参加しますが、義母は参加できません。そうなると義妹も参加できないと理解できそうなものですが。
「ヴィオラが自分たちも家族なのに、と悲しんでいたんだ……」
「こういうときばかり、家族などと!」
「ニコレッタ、そういう言い方は、あまり感心しないよ?」
なぜ、私が責められるのでしょうか? 私をそんなに血も涙もない人間だと思っているのでしょうか?
ええ、きっとそうなのでしょうね。
私は、王太子殿下の御学友との間を、嫉妬で引き裂こうとする悪女なのでしょう。
若い男を逃さんとする、薹の立った痛い女なのでしょう。
あと何度、このような悔しい思いをしなければならないのか。
殿下の成長を待つ間に、二七歳になってしまいました。
『出産は不可能ではないのか』
『特例として側妃を』
結婚後には、そのような文言を議会での議題に挙げられるのでしょう。
国王陛下はいつでも私を気遣っては下さいますが、会議で可決されてしまえば、いくら絶対王政といえど覆すのは不可能に近くなります。
そんな未来しか見えなくとも、王太子殿下と結婚しなければなりませんし、機嫌を損ねるわけにもいきません。
「…………大変、失礼いたしました」
深く俯き、王太子殿下にカーテシーをしました。
「ニ、ニコレッタ、別にそんなふうに謝罪させたいわけでは!」
殿下が、慌てふためきつつ顔を上げてと言われます。
本当にお優しい殿下。優柔不断が過ぎる事も、義妹が付け上がる隙になっているのでしょう。
婚姻後はそういった所を重点的に見直すよう、教育担当官に伝えなければなりませんね。
心配していた昼餐会は、何事もなく無事に終わりました。
各国の方々と挨拶をし、それぞれの国の法律など伺う事ができ、とても有意義な時間となりました。
晩餐会に参加するために登城していた義母と義妹は大人しく部屋にいたとのこと。
晩餐会では、国の慣わしとして、両家の親族のみでの食事になります。
義母は真紅で背中がバックリと開いたドレス。そして薔薇の強い香りのする香水をこれでもかと振り撒いて現れました。
義妹は空色でタイトなドレスで、胸元がこれでもかというほどに主張しています。こちらは百合でしょうか、香り自体は柔らかなはずなのですが、振る量がおかしいのか、義母の臭いと混ざっているせいなのか、とても鼻が曲がりそうです。
この二人は何処の何の夜会に参加するつもりなのでしょうか?
晩餐会は食事がメインのため、香水は付けないか、空中に一振りし、そこをくぐる程度とされています。
出される食事の匂いや味を損なわないためです。
王族の方々が義母と義妹を見てヒソヒソと話されている内容を、二人は勝手に良い意味に取っていきます。
自分たちの美しさに皆が注目している、と。
確かに美しくはあるのでしょうが、私を含め嘲笑の的だということを理解して欲しいです。
王太子殿下の瞳の色に近い深めの水色で、胸元はレースでしっかりと隠されているドレスを着た婚約者である私と、王太子殿下の瞳の色そのもののような夜会用の艶やかなドレスを着た義妹。
王太子殿下は、私をエスコートしてくださっていたものの、目線は義妹にというより、義妹の胸に向いています。
――――恥ずかしい。