最終話:とても幸せです。
陛下と二人、並んでベッドに座ります。
「「……」」
お互いに何故かモゾモゾッと身じろぎ。
「フッ……何か変だな」
「はい。今更感が凄いです」
今はいわゆる『初夜』の時間です。
形式的に初夜用の薄手の夜着を纏わされましたが、とてつもなく今更なのですよね。
昔、王族の初夜には見届人がいたり、初夜の『お印』が付いたシーツを窓から掲げたりなど、謎の風習があったそうです。なんとも、色んな意味で恐ろしいです。
「流石にもうされてないからな?」
「いつぐらいまでされていたのですか?」
妃教育では習いませんでした。
廃れた慣習だったからなのか、女性には嫌悪感を抱かれそうだから故意的に教えられていないのか……。
「百年くらいだったかな」
「わりと最近なんですね…………」
「最近か? いや、まぁ、歴史からすると最近か」
こんな時にそんな話で盛り上がってしまうのは、お互いに緊張しているからなのでしょうか?
別に初めてでもないのに。
「さあどうぞ! みたいな空気で侍女たちに準備されるのって、なんというか…………」
「ブフッ! 言うな! くっ、フハッ!」
陛下が笑いのツボにハマってしまったようで、ひとしきり笑ったあと、ベッドにドサリと寝転ばれました。
おいで、と言われて素直に定位置である陛下の腕の中に。
「ニコレッタ、この数日は休みなく働いていたな。疲れてはいないか?」
ゆるりゆるりと頬や体を撫でられました。陛下だって通常の執務に加えて結婚式に付随する様々な業務も発生していました。
「大丈夫ですよ。体力には自身がありますので。陛下も毎日お疲れ様です」
「ん」
労いあい、キスをする。
こういった日々がこれからも毎日続くのでしょう。
時には喧嘩したりもあるかもしれませんが。
「――――さて。責任を取って、本格的に励むかな」
結婚前夜に義妹に婚約者を奪われて、いろんなことが起こりました。
様々な方がそれぞれの形で責任を取りました。
陛下は、今とても、やる気に満ち溢れているようです――――。
◇◇◇◇◇
「おかぁさまー」
ふわふわの金髪を揺らしながら、庭園の奥からガゼボに向かって走って来る幼い息子。
その横には、緩やかにウェーブした髪を掻き上げながら微笑む、国王陛下であり、夫であり、息子の父でもある、ジェラルド様。
「どうしたの?」
「プレゼントです、ちちうえと、つみました」
息子の手には、五枚の花びらを持つ三センチほどの可愛らしい青い花――ブルースターが握られていました。
ジェラルド様は、勝手に引っこ抜いて庭師が絶叫してたがな? と苦笑いしていました。
白濁した汁でかぶれやすいそうで、庭師に処理してもらったのだとか。ジェラルド様はそれを見守っていただけとのこと。
ほぼ庭師と摘み取っていますね。
「うふふっ。ありがとう」
なんとなくその光景が浮かんできて、ちょっと笑いが込み上げてしまいました。
「ぶるすたはね、おとこのこに、あげるんだって!」
「ん?」
よく意味が分からず、聞き返しましたが、全く同じことをもう一度言われてしまいました。三歳児にはまだ細かな説明は難しいようです。
ジェラルド様曰く、男児の誕生を祝う時に贈るものだから、今から贈り続ければ弟が産まれるかも、と考えているようだとのことでした。
「おとーと、になったかな?」
「あははは! んふっ、お母様にもどっちか分からないのよね。もし妹でも可愛がってくれる?」
「うん! おとーとがいいけど!」
何故にそんなにも弟にこだわるのかと思ったら、ジェラルド様とケネス様のような関係になりたいのだそう。
「…………憧れるような関係かしら?」
「酷いな。悪いことを言う口はこれか。塞いでしまわねばな――――」
つい、思ったことを口にしてしまいましたら、ジェラルド様がニタリと笑いながら唇を重ねて来ました。
「ふふっ、そんな塞ぎ方なら、いつでも歓迎ですわ」
「言ったな? 覚悟しておけよ?」
結婚後、すぐに息子が生まれ、新たな子供も授かりました。
予定日はもうすぐ。
いま私、とても幸せです。
―― fin ――
本編はここで完結ですヽ(=´▽`=)ノ
ようがんばった、笛路!
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