56:誓いあい、そして。
大歓声が上がる中、結婚式の続きが再開しました。
婚姻証明書や王族に名を連ねるための誓約書にサインをし、それを確認した教皇様が証人としてサインをしてくださいます。
サインを書いている間に、教会内は落ち着きを取り戻しました。
粛々と式は進んでいき、誓いの言葉。
「――――愛し続けると誓いますか?」
「国王という立場では、国民を愛している。だが、ジェラルドとして誓おう。ニコレッタただ一人に愛を捧げると」
陛下はまっすぐと私の目を見つめ、そう宣言してくださいました。
「ニコレッタ嬢、貴女も誓いますか?」
「はい。私も陛下と共に、国民を愛します。ですが、一人の妻として、ジェラルド様を生涯愛し続けます」
私も、陛下の目を見て、誓いました。
「二人の誓いは女神様に届きました。この誓いを確たるものにすべく、誓いのキ――――」
教皇様が言い終わる前に、陛下が私の腰を抱き、顎クイッ。からの、甘い甘い口付け。
ふにっとくっつけて少し離し、再度ふにっ。ペロッ。
――――ペロッ!?
それは人前でやるやつじゃない! そう視線に乗せて陛下を睨みましたが、陛下は唇を離したあとニヤリと笑うだけでした。
そんな陛下もちょっと可愛いと思ってしまうのだから、『惚れたほうが負け』のような気分になるのでしょうね。
その後も順調に結婚式は進み、晩餐の会場へと移りました。
大広間で行われる立食形式の晩餐会では、様々な招待客とお話しする機会に恵まれました。
お祝いの言葉から、嫌味まで。全てに笑顔で応えます。
「この度は、おめでとうございます」
「ブラージ卿」
元老院のお一人で、ブラージ公爵家の先代。
いつも厳しい表情をしているお方だけど、瞳の奥にはいつも優しそうな輝きを灯されています。
経営などの相談をすると、とてもわかりやすく教えてくださいます。
陛下は「あの辛辣ブラージがか!?」などと驚かれていましたが、卿は、学ぶ姿勢が真摯な者にはきちんと教えると言ってくださっています。
「来てくださったんですね、ありがとうございます!」
「うむ。綺麗だな。幸せになりなさい」
「はいっ!」
ブラージ卿の眉間の皺が消え、ふわりと微笑まれました。頻繁にお話しするようになってからでしょうか、たまにこういった表情を見せてくださいます。
ケネス様がどこかで「ブラージに表情筋とかあったのかよ!」なんて叫んでいますがたぶん無視でいいはずです。
「おや、こんなとこにいたのかね。ケーキ美味しいよ?」
教皇様がお皿にケーキを山盛りにして持ってきました。しかも食べながら歩いています。
「……教皇様、ほっぺにクリームが」
「おやおやおや、むふふふ」
クリームをハンカチで拭っていましたら、教皇様が何やら変な笑い声を出されました。また女神様と会話されているんでしょうか? 胸ポケットに小さな女神像を入れられてますし。
陛下が女神像を持ち歩くとか気持ち悪いとかなんとか言ってますが、教皇様は気にされていないようで、むふふふと笑い続けていました。
立食形式の晩餐を始めて三時間、そろそろ宴もたけなわだろう、と陛下が言い出されました。
「私たちは先に休むが、皆は好きな時間まで歓談を楽しむように」
「失礼いたします」
この様式美のような『先に休む』にツッコミを入れる人はいないものだと思っていましたのに……。
流石はケネス様です。
皆に聞こえないようにではありましたが、「今から一番元気にハッスルするヤツが、休む?」などと、かなりデリカシーのない言葉を発していました。
――――ケネスさまぁぁぁ!