55:女神の祝福。
晴れ渡る空、轟く歓声。
本日、陛下と私の結婚式が行われます。
真っ白なマーメイドラインのドレス。
胸元はストレートにカットされ、オフショルダーでレースの長袖が付けられています。
太股の途中まではタイトに作られており、そこから緩やかに花開くように裾が広がっています。
陛下がデザイナーと大盛り上がりしながらデザインを決めた、このウエディングドレス。とてもお気に入りです。
「さぁ、行きますかな?」
「はい。閣下、よろしくお願いいたします」
「ふふふふ。いい笑顔だ。これは本当に役得ですな」
好々爺とした微笑みを向けられ、つられて笑顔になりました。実は自身が思っていたよりも緊張しており、表情がかなり強張っていた気がします。
宰相閣下に手を引かれ、教会内の身廊を歩いていきます。
ここには様々な王城関係者や騎士たちが並んでおり、全員が臣下の礼を執っていました。
私付きの執事などの使用人たちもここにいます。
先程まで着付けを手伝っていたはずのマルタも参列していました。マルタがボロボロと泣いているのを見て、心がじんわりと温かさを感じます。
身廊を抜け、今度は国内の有力貴族たちが集まる内陣です。その真ん中に敷かれた赤いカーペットの上をしずしずと歩いていきます。
十メートル向こうには、凛々しいお姿の陛下。
お顔が妙に渋イケメンになっているのに、口元がモニョモニョと揺れ動いています。たぶんあれは、ニヤけるのを我慢されているような気がします。
ゆっくりと内陣を歩き進み、陛下の真横まで来ました。
荘厳なるパイプオルガンの調べが教会内に響き渡ります。
私の手が宰相閣下の手から、陛下の手へと渡されます。
『きれいだ』
陛下の口がそう動いたような気がしました。
「――――この素晴らしき日に、女神の祝福を――――」
教皇様が祭壇前に立たれ、高らかに結婚式の開始を宣言されたのですが、それに続いた言葉のせいで、教会内が騒然としました。
祭壇奥にある巨大な真っ白の女神像。
それが金色の光を放ち始めたのです。光というかまるでオーラのよう………………あら? まさか? 教皇様がキレている? 誰にでも見えるように光るときって、ソレが原因でしたよね?
「くそ……予想外だった…………目が……」
確かに驚くほどに眩しかったです。光が収まった今も目がチカチカとします。
「…………おや……本当に祝福されちゃったねぇ」
ボソリと聞こえた教皇様のお声。どういう意味なのでしょうか。
教皇様でなくてもいいので、誰か説明をしてはくれないのでしょうか。光の理由が気になりすぎます。
「女神様が、陛下とニコレッタ嬢の結婚を祝福しました――――」
教皇様がここに集っているのは、あの時の『断罪式』に参加した面々が多いんだよね? と参列者に確認のような質問を投げかけていました。そして、あの時とこれは種類が違うのだ、と言われます。
「黄金のオーラは、泰平の世の象徴。女神様は、二人が結婚することにより、この国はさらなる安寧が得られると確信されたそうです」
教会中が歓声に包まれました。
まるでフィナーレのような盛り上がり方ですが、結婚式はまだ始まったばかりです――――。