53:抱かせろ。
陛下に別々に眠りたいと言われて、心臓が止まりそうな感覚に陥りました。
国王陛下を怒らせたとか、嫌われてしまったらとか、自分の立場がとか、人によってはそれらの考えから謝らねばと思うのでしょう。そして陛下はそういった他人の感情に触れることが多いのでしょう。
ただ「申し訳ございませんでした」とお伝えした瞬間に、眉間に深い皺を刻まれましたから。
「何に対して謝罪しているのか分からんし、謝罪して何を求めているのか…………は、分かりたくない」
――――ほらね?
「何も求めてはいません」
「……」
キョトンとした顔で陛下が私を見つめて来ます。良かったです、まだ視線を向けてくださいます。
「ただ、愛しい方を傷つけてしまったという後悔の念を抱いています」
「…………」
「嫌われてしまったのなら仕方ありません」
「――――っ?」
「私は愛していますから。またジェラルド様に好きになってもらえるよう努力します」
陛下が右手でバチンと顔面を押えました。というか、叩いた?
結構すごい音がしました。
「…………男らしすぎるだろ。そして私は女々しいな……」
陛下がゆっくりとベッドから下り、こちらに向かって来られました。
ヒョイッと私を抱えあげると、主寝室へとズンズン進んで行かれます。荷物のように肩に担がれるのは初めての体験です。
ちょっと面白いです。
「陛下?」
「興奮した。抱かせろ」
驚くほどに明け透けな言葉に吹出してしまいました。
「どこに興奮する要素があったのですか?」
「的確なタイミングで名前を呼ぶあざとさに」
「だって私が愛しているのは『国王陛下』ではなく、ジェラルド様ですから」
「そういうところだ」
ドサリと主寝室のベッドに下ろされ、覆い被されました。
「覚悟しろよ。私は女々しく、しつこいからな」
「っ、ふふふふ、あははは」
陛下の言う覚悟があまりにも可愛くてずっと笑ってしまっていました。陛下が再度「だから、抱かせろよ!」とちょっと子供っぽく怒り気味に言われたのですが、それすらも笑いのツボに入ってしまいます。
結果、陛下を煽りに煽った状態に――――。
パチリと目蓋を押し上げると、妙にやりきった顔の陛下に頬を撫でられていました。
「ん、目が覚めたか」
「……おはようございます」
「まだ少し早い。寝ていて大丈夫だ」
陛下のお言葉に甘えて、もう一度眠ることにします。
今度は陛下の胸に飛び込んで。
「くっ…………だから、そういうところがあざといと言うんだ……」
「ふふっ。私、悪女ですからね」
ちらりと陛下を見上げると、ぎゅっと抱きしめられました。
そして、またもやあざといと言われてしまいました。
「――――くっそ、ラブラブかよ!」
結局、二度寝してしまい二人とも寝坊。
執務室に向かうとケネス様が随分と待たれていた様子でした。
侍女に呼んでこいとか言えばよかったのでは? ケネス様ならそうしそうですし。
「あー。ケネスが呼んでても無視でいいと命令しているから……」
「……どういう命令ですか」
「いや、本当に緊急だったら部屋に来るし」
昨日から陛下がちょっと子供っぽくて可愛いです。
「んなもん当たり前だって。三十代の男とか、猿だよ猿」
ケネス様は全方向に喧嘩を売ってどうする気なのでしょうか?
私は知りませんからね?
「ニコレッタ嬢は時々淡白というか、冷てぇ。ツンなの? デレなの? 何なの?」
「教えん!」
――――え、私って、ツンかデレなんですか?
自覚のないことなので、なんとも答え辛いです。ここはいつも通り聞かなかったことにして、話をずらしましょう。
「ところでケネス様、ご用は何だったのでしょうか?」
「あっ、そうそう! 忘れてた。また視察に付き合ってくれ」
「はい。承知しました」
ちらりと陛下を見て、にこりと微笑みます。
「行ってきます、ジェラルド様」
「っ――――あざとい!」
「うふふふふっ」
ケネス様が「なにそれなにそれ、なんか新しいプレイ!?」とかなんとか煩いです。陛下はそれに対してなぜ「それな!」とか張り切って返事されてるんですかね?
昼に……このタイトル…………どうかと思ったよね←
ではまた夜に!