50:陛下の好み。
陛下との結婚式が半年後に決まりました。
他国には報告のみで、招待客は最小限に抑えることにしたのですが、国内の貴族はある程度招待しなければならないので、最短でも半年後になりました。
陛下的にはちょっと不満のようです。
いじけてぷちぷちと文句を言う陛下に、ベッドの中で後ろ抱きにされています。
「はぁ…………ニコレッタを堂々と妃だと言いたいのに」
「充分に言われていますし、そう扱われていますが?」
「むっ、ニコレッタが冷たい」
「えぇぇ?」
会議の度に陛下の横に座らせて頂いていますし。
それに明日はウエディングドレスの打ち合わせですし。
「私が口出ししていいのか?」
「ぜひ」
独りよがりで着たいと思うドレスを着ても楽しくありません。二人の結婚式なのですから。
陛下が明らかに後ろでにこにこ……ニヤニヤでしょうか? 笑っているような気がします。
「…………」
陛下があーでもないこーでもないとドレスのデッサンを見ながら悩まれています。
「このデコルテを少し深めに見せたものもいいが…………レースで隠されているのも禁欲的でなんか唆る……」
「よくお分かりで!」
陛下とデザイナーが大盛りあがりです。私個人的に絶対に譲れないのは、レースの長袖です。あとはプリンセスラインがもう随分と厳しい年齢になりましたので、ソコだけは断固拒否です。
「ニコレッタはマーメイドライン、一択だ!」
「分かります! 絶対にマーメイドラインです!」
陛下とデザイナーがガシッと握手していました。良くわかりませんが、何やら友情が芽生えたようです。
「――――では、これで制作いたします」
「あぁ、頼んだぞ!」
陛下がにこにこ笑顔で、また調子っぱずれの鼻歌を歌われています。ツッコミたいような、ツッコミたくないような……やっぱりそっとしておきましょう。
ドレス決めが終わり、少し時間があるとのことで陛下の執務室でお茶休憩をしていました。
向かい側に座られている陛下は、相変わらず鼻歌交じりです。
「よぉ! ご機嫌だなぁ。そして、相変わらず恐ろしく下手くそだな」
「……煩い」
――――あ、陛下知っておられたのですね。
ケネス様がノックなしで執務室にズバンと入って来られ、私の隣に座られました。
何故私の隣にと思っていましたら、陛下も同じようなツッコミを入れてありました。
「中途半端なおっさんの隣より、可愛い子の隣がいいだろうが。つか、何でお前はそっちに座ってるんだよ?」
「…………正面から眺めてた」
「「…………」」
陛下は、良くわからない特殊な性癖の持ち主のようです。ちなみに、と教えていただきましたが、ケネス様は太股派なのだとか。
程よくムチッとしている方が好みなのだとか。『程よくムチッ』の度合いがわかりませんが、とにかく興奮するそうです。陛下もうんうんと頷いていました。
そういえばフェルモ様はお胸派ですね。
「胸派はなぁ、ガキだな。胸はどんな胸でも美しい!」
多方面に失礼な上に、軽やかにセクハラですね。ケネス様、いつか刺されないか心配です。
「で、なにしに来たんだ? 暇なのか?」
「暇じゃねぇよ! ニコレッタ嬢をちょっと貸してくれ。公爵家のシルクの件でいろいろと相談したい」
「…………まぁ良いが。ニコレッタは? 大丈夫か?」
もちろん大丈夫ですので、ぜひお手伝いさせてくださいとお願いしました。そもそも、我が家の事業をケネス様に丸投げしていますので、出来ることはお手伝いしたいです。
それにしても、何かトラブルでしょうか?
基本はお父様が何もしなくても運営していけるように指示を出していたはずですが…………。