49:光芒の先に。
人生の転機となったあの結婚前夜から一ヶ月。
お父様たちの処刑後、様々な会議を経て各国にフェルモ様の廃太子の報告が出されました。
理由としては、治る見込みのない重篤な病。
そして陛下と私の結婚も発表されました。
状況等を鑑みて内々での結婚式のみにすると伝えていたのですが、各国よりお祝いの品とお言葉が届けられました。
「思いのほか、好意的に取られたようだな」
先月、ケネス様がいろいろと根回しをしてくださっていたおかげでしょう。今度ちゃんとお礼をしなければ。なんて話をしながら朝食を終えました。
「あ、もう約束の時間」
「…………また、フェルモの所へ?」
「はい」
陛下の表情が少し曇りましたが、見なかったことにします。
いまはとても大切な時期なので。
「っ! ニコレッタ!」
「おはようございます」
「おはよ、あのねっ――――」
フェルモ様が子供のような笑顔で……というか、たぶん子供なのですよね。中身が。
精神の不安定さからなのか、幼児退行をしていたのですが、最近は本来の真面目さなどが垣間見えて来るようになりました。
相も変わらず子供のような言動ではあるのですが。
侍医曰く、薬は抜けきっているだろうとのこと。ただ、もしかしたら子供のようなままで一生を過ごすことになるかも、とのことでした。
ところが、先週でした。
フェルモ様がどうしても会いたいと仰っている、と隔離棟に呼び出されました。そこで泣きながら抱きついて来たのですが、お話の内容が陛下と私の結婚の事でした。
私は自分――フェルモ様の婚約者なのに、陛下が奪ったと。
ちょっと大人気なかったとは思います。
『先に裏切ったのはフェルモ様でしょう? 何を勝手に逆恨みをしているのですか。そういうところ……本当に、心から、大嫌いです』
泣きじゃくるフェルモ様を完全にぶった斬ってしまいました。薬のせいで判断力が鈍っていた可能性が大いにあるのに。
その後、大号泣になりそのままベッドで寝てしまわれました。
これはやらかしたなと反省していた翌日でした。呼び出された時に真剣なお顔で言われたのが、『父上とニコレッタに償いたい』でした。
一瞬だけ現れた大人になったフェルモ様。
侍医曰く、心に深く刺さった事柄などは覚えているのかもしれない、との事でした。
一瞬見えた一筋の希望。
光芒。
フェルモ様が正気を取り戻す日が来るのかもしれません。
その先に待ち受けるものは、まだ判断が付きませんが、フェルモ様は自身の成長を望まれました。陛下に会いたいと。いつか自分の口から謝りたいと。
「とうさま、いそがしいんだよね?」
「はい。本日も朝から会議など執務に追われているようです」
「そっか……」
お父様たちの処刑後、陛下がフェルモ様には二度とお会いしないと決められました。なので、強要も進言もしませんが、努力のお手伝いだけはしようと思っています。
「本日はマナーの本を持ってきました」
「なんかボロボロだね」
「はい。これを使ってとても熱心に勉強していた子がいました。その子からもらってきたんです」
「そう、なんだ……うん。頑張るよ」
クタクタになっているマナーの本を、しげしげといろんな角度から眺めながらもフェルモ様が力強く返事されました。陛下に会いたいからと。
――――いつか叶うといいですね。