48:私の前で泣いて欲しい。
全ての罪人の首が刎ねられました。
罪人は罪人用の墓地に埋葬されます。先日、お父様の亡骸はどうするかと聞かれていました。当日までに決めてくれれば良いと言われていましたが、罪人用の墓地にと即決していました。
メリダのあの反応を見るに、たぶん罪人用の墓地でいい気がします。
城の私室に戻ると、公爵家から連れてきた使用人たちに深々と頭を下げて出迎えられました。
「お帰りなさいませ」
「ただいま。無事に済んだわよ」
陛下は執行官と埋葬を見届けてから戻られるとの事で、部屋に戻られるまで少し時間があります。
少し一人にして欲しいと伝え、一人掛けのソファに体を預けました。
高揚しているような、気落ちしているような、解放されたような、不思議で斑な気持ちです。
ぼんやりと窓の外を眺めました。
こんな日でも、空も雲もいつもと変わらない。
ふと気付くと徐々に日が陰り始める時間になっていました。
陛下が戻られる前に着替えなければと思うのに、なかなか立ち上がることができません。
「っ……は………………ん」
いつからなのか、はじめからだったのかわかりませんが、涙が流れ続けていたことにいま気が付きました。
目元を擦り涙を拭いたかったのですが、陛下の言葉が頭の中に響きます。
『擦ってはいけないよ、赤くなるから。しっかり泣きなさい。そう言ったはずだ』
ここ最近、ずっと泣いてばかりいますが、また泣いてもいいのでしょうか? 頭の中の陛下はいいと仰るけれど。本物も仰って下さるでしょうか?
「ふぅ…………」
少し落ち着いて来ました。
――――さぁ、着替えて陛下をお迎えしましょう。
主寝室に戻られた陛下がクラヴァットを乱雑に解きながら、ドサリとソファに座られました。陛下が隣に座るようにと手振りで呼ばれたので、そっと腰を下ろすとゆったりと頬を撫でられました。
「お疲れ様です」
「ニコレッタ、泣いたな?」
「っ…………目が、赤くなっていましたか?」
「やはり。泣いたのか」
どうやら目は赤くなかったようです。
何故わかったのかと聞くと、半分は勘で、半分は確信だったと言われました。
「むぅ……」
「ふはは、いじけるな。可愛いな」
陛下がドサリと倒れ込まれ、私の膝を枕にして寝転がってしまいました。
どうしたのかと思いつつも陛下が話し出されるのを待ったほうが良さそうな気がして、暫くのあいだ陛下の髪を手ぐしで整えていました。
「ニコレッタ、公爵の最後のことば――――いやいい」
「陛下。なんとなく予想は付いていますが、教えてください」
「…………ん」
陛下は自分から言ったものの、ちょっと後悔しているようでした。
『お前に唆されたが、私はカロリーナを愛していた。お前はただの捌け口だった』
「――――だったそうだ」
「……………………本当に、自分勝手な人ですね」
「ああ」
「やっぱり、公爵家のお墓には絶対に入れません」
「ん、それでいいと思う」
陛下がゆっくりと起き上がって私を抱き上げると、ベッドに移動しました。
「今日はもう寝なさい。泣きながらでも良い」
「っ……はい」
陛下はバサバサと不要な飾りを外し、シャツとズボンだけになって横に寝そべってくださいました。
私が眠ったら着替えるそうです。
だから、涙でも鼻水でもどんと来いとのことです。
「んふふ、はい。ありがとう存じます」
涙が溢れるのに、陛下が素敵すぎて笑いも出てしまいます。
今日は、ちょっと情緒が不安定のようです。