42:グイドの想い。
グイドは基本的に穏やかで寡黙でした。
だからお父様やメリダに従っているのがとても不思議でした。
「……ニコレッタ様、先にお伝えしておきますが、これは私がただ一方的に想っていただけのことです。カロリーナ奥様は旦那様を絶対に裏切っていません」
「え……うん?」
グイドは、お母様が実家から連れてきた騎士だったそうです。知りませんでした。騎士だったのになぜ家令になったのでしょうか? それは話してはくれませんでした。
「奥様が亡くなられる前から、公爵家内の動きが怪しくなっていました。そして、あの事件が起こった。あの日から私はこの日を夢見ていました」
あの日、グイドはお母様についていくと言ったのに、断られたそうです。誰にも行き先を告げずに一人で来いと言われたからと。だから、御者以外は誰も連れて行かないし、このことはグイドも知らなかったことにするように、とお母様に言われたそうです。
「あの女が何度も公爵邸を訪れていたのは知っていましたが、門前払いしていたのです。まさか、ヤノスが中継ぎをしていたとは……」
ヤノス――もう一人の家令。彼は間違いなく黒です。わかっていながらも、今までは何も出来ませんでした。
「始まりは、ニコレッタ様がまだ五歳だった頃です――――」
メリダは良くも悪くも上昇志向のある使用人で、妾という立場をいつも狙っていたそうです。
お父様とお母様は恋愛婚ではなかったことから、メリダが付け入る隙があると判断したようです。その目論見は完璧に成功していたのですね。
「奥様が勘付かれて、悩み抜かれていたのですが……最終的には旦那様にバレぬよう解雇し、彼女の実家に引き取るよう連絡しました。どこかの貴族に雇ってもらえるよう手配をしている最中に行方をくらましていたのですが……」
「なるほど。それが隣国だったのですね」
「ええ。奥様のせいで盗賊のお頭の女になり、蹂躙し続けられていたのだと。奥様を逆恨みされていました」
それは確かに、つらい体験だったのでしょう。体験したことのない私には心からの理解は出来ませんが。
ですが、完全に因果応報です。
同情も情状酌量もいたしません。
「ん」
陛下も同意見のようです。
「雪山での事件はメリダが画策したようですが、旦那様も承知の上での事でした――――」
聞けば聞くほどに腸が煮えくり返るような思いです。
時間が過ぎるのを忘れるほどに、グイドの話を聞き続けました。
彼は、どの使用人が何に関わり何をしたのか、全てをメモし暗記までもしていたそうです。
いつか来たる復讐のために。
グイドは、お母様のことがずっと好きだったとのことでした。もしかしたら、彼なりにお母様を支えようとした結果、家令という役職を目指したのかもしれませんね。
「――――以上が、あの方々の側に居続けることで得られた情報です。旦那様とメリダは斬首が確定しているとのことですが、私はあの二人だけに罪を着せて逃げようとしている者も全て、逃したくありません。私も含め」
グイドは情報を手に入れるために、犯罪に手を染めたと言います。人を殺めたりなどはしていないが、自分の行いで不幸になった人々がいる。だから、裁かれたいのだと言います。
「その一人は、ニコレッタ様です。大変、申し訳ございませんでした。奥様の大切な大切なニコレッタ様に…………どれだけの…………」
グイドが悔しそうに唇を噛み、また床に跪きました。
どんな罰でも受けると。
「グイド」
「っ……はい」
「では、私の下で一生を懸けて償ってちょうだい」
グイドがぽかんとして、見上げてきます。
「私ね、王妃になるの」
「はい」
「だからね、有能な家令が欲しいのよね」
「そんな…………ことは……許されない…………」
「私がいいと言うのだから、いいわ。ね? 陛下?」
陛下の方を見て首を傾げると、にこりと微笑み返されました。
「もちろん、グイドの話が本当かはある程度調べるがな。有能な者は多いほうがいいからな」
「うふふ。ありがとう存じます」
「さぁ、こんな時間だ。一度王城に帰るぞ」
「はい」
地下牢の者は、王城の牢に移すことになりました。
使用人たちは引き続き屋敷で働いてもらいます。捜索はまだまだ続きそうなので、半分の騎士様は居残っての見張りとなりました。
明日の朝、捜索を再開します。
そして私たちは、お父様とメリダに加担した者たちの本格的なあぶり出しをする予定です。
――――覚悟しなさい。逃さないわよ。
…………お好み焼き食べに行ってたら、遅くなりましたm(_ _)m